八田真理子先生のイラストによる、連載第8回の扉

「眠気がひどく勉強がはかどらない」「食欲が抑えきれずダイエットがうまくいかない」「生理前にニキビが倍以上増える!」など、10代20代女性からPMSの悩みがたくさん寄せられています。「どうしたら解決できるの?」「何かいい対策はないの?」の声に、産婦人科医の八田真理子先生に答えていただきました。

今月お話をうかがうのは…
八田真理子先生

産婦人科専門医

八田真理子先生

聖順会ジュノ・ヴェスタクリニック八田 理事長・院長。地域密着型クリニックとして思春期から更年期まで幅広い世代の女性の診療・カウンセリングを行なっています。著書に『思春期女子のからだと心 Q&A 資料ダウンロード付き』(労働教育センター)、『産婦人科医が教える オトナ女子に知っておいてほしい大切なからだの話』(アスコム)ほか。

眠気で勉強も仕事もままならない…どうしたら?

増田:集英社の女性誌10誌が実施したアンケートの回答では、PMSの時期に「眠くて眠くてしかたがない」という声が多数ありました。

「生理前は、眠くて勉強がはかどらない」
「生理前は、異常な眠気で、なまけているように見えてしまうのがつらい」
「生理前1週間は、どれだけ寝てもずっと眠くて、気を失うように眠ってしまうことがある」
「生理前は眠気がひどく、家事も仕事もままならない」
「月経前は眠気と肩こりが強くなって、人の話が入ってこなかったり、何もしたくなくなる」
このようなPMSの時期の眠気は、どうしたらいいでしょうか?

八田先生PMSの時期は、基礎体温はプロゲステロン(黄体ホルモン)の分泌により高温相に入ります。排卵後で受精卵を待って、妊娠の準備をしている状態です。眠いのは当然ですよね。妊娠に向けてエネルギーを蓄え、体力を温存しているわけです。ひと月の中で、PMSの時期は充電期。だから、たっぷり寝ていいんです。

増田:妊娠に備えるための体の状態だとわかると、眠気を覚える理由も理解できますね。勉強や仕事、家事がはかどらないのは困るけれど…。そんなときは家族や会社の理解も必要ですね。

八田先生:そうですね。まず自分でできる対策としては、特に月経前には、眠りの質をよくするように気をつけるといいと思います。朝起きたら太陽の光を浴びて体内時計を整えるとか、夜は1時間でも早く布団に入るようにしましょう。

月経前に眠くなるのがわかっていたら、それを見越して、勉強や仕事をある程度前もって片づけておくなど、体のサイクルを考えて計画をたてることも大切です。

そのうえで、家族や周囲の人に、女性の体の周期(月経周期)を理解してもらうことも必要ですね。例えばPMSで調子が悪いから早く寝るといったことを伝えて、協力してもらいましょう。徐々にですが、社会も変化してきています。まわりの理解を得るためには、まず私たちが不調を秘密にしないことが大事。女性が声をあげれば、月経周期による体の変動をもっと受け入れる世の中に変わってくると思います。男性にも広く、女性の体のことを理解してもらえる社会にしたいですよね。

リモート取材中の八田真理子先生

リモートで取材に対応いただいた八田真理子先生。

食欲が増して、体重も増える!

増田:PMSの時期に「食欲が湧きすぎて食べすぎる」「ダイエットができない」「体重が増える!」という声もたくさんありました。

「生理前は食欲が増して、ダイエットがスムーズにいかない。それがストレスになってイライラしてしまい悪循環」
「生理前は、夜中でも甘いものが食べたくなる。食べないとイライラしてしまう」
「ダイエットで体重が減らないうえに、食欲が増して、ついつい食べてしまう。食べたあと、すごい罪悪感」
「月経前から体重が増えて、体がむくむ」
「生理前はお腹が出て、体がむくむのがつらい。いつもスッとはけるデニムのウエストがキツイ」
月経前のイライラと食欲はリンクしているようです。何か対策はありませんか?

八田先生月経前、女性の体は妊娠のための準備をしているのですから、食欲が増すのは当然といえば当然です。また月経前は、水分を貯留する作用のあるプロゲステロン(黄体ホルモン)が多く分泌されるのでむくみやすく、体重も増えがちです。月経がくれば、むくみもひいて、体重も減っていきます。
月経前にダイエットをしても、成功せずイライラのもとになるだけです。PMSの時期は、ダイエットをお休みしましょう。

増田:なるほどー。PMSの時期にダイエットしても、効果が出にくいということなのですね。PMSの時期は、サイズが変わるほど脚がパンパンにむくんで靴下の跡がついたりします。むくみ対策でできることはありますか?

八田先生有酸素運動をして汗をかくのがおすすめです。動けば、食べても太りませんし。それから、薄味に気をつけて、塩分を控えることも大事。湯船につかり、汗を出すのも、むくみ対策になります。

ちなみに、10代20代で無理なダイエットをすると、骨密度が減って、いずれ骨粗鬆症になってしまいかねません。骨密度が最大量になるのは20歳頃。その後は徐々に骨密度が減っていきます。今、骨密度を増やして貯金を作っておくことが大事なのです。
バランスのとれた食事をしっかり食べましょう。タンパク質をしっかり摂って、運動すれば、筋肉がついて、食べても太らない体になりますよ!

ニキビ・吹き出物の対策はどうすれば?

増田:PMSのニキビ、吹き出物、肌あれに悩む人も少なくありません。

「もともとニキビができやすいのですが、生理前は倍以上に増える」
「生理前、ニキビができ、毛穴の開きが目立ち、メイクのノリが悪くなります。ビタミンBを飲んだり、パックをしたりしていますが、何が効果的なのかがわからないです」
「月経前の肌あれがすごくイヤ。お手入れしてもニキビができるのでメンタルが下がります」
「生理前の肌あれがひどいけど、その期間が過ぎると、また通常の肌に戻るので、皮膚科に行こうか迷っています」

このように、女性にとってニキビや吹き出物など肌の悩みは表面に現れるだけに深刻です。いい対策はないでしょうか?

八田先生生理前、プロゲステロン(黄体ホルモン)の分泌が多くなると皮脂が増えるので、どうしてもニキビや吹き出物ができやすくなります。これは女性ホルモンの働きが活発な証拠ですから、若いときにニキビがある人のほうが、更年期以降はシワがなく、肌がきれいなんですよ。

ニキビや吹き出物の対策には、洗顔が大事。PMSの時期は、洗顔料で優しくダブル洗顔しましょう。洗顔後は、化粧水、保湿剤をつけてUVケアをしっかりと。もちろん、洗顔料できちんと落とせば、メイクをしてもだいじょうぶです。

低用量ピルは、ニキビや吹き出物を改善するひとつの方法です。低用量ピルでプロゲステロン分泌を抑えられるため、ニキビが少なくなります。また、ニキビや吹き出物に効く漢方薬もあるので、いずれも婦人科で相談してみてください。ほかに、健康保険が使えるニキビ治療クリームは皮膚科でも婦人科でも処方できます。

ニキビに悩む女性画像

増田:婦人科や皮膚科の医療の力を賢く使って、対策できることはいろいろありますね。食事で気をつけることはありますか?

八田先生添加物が入ったスナック菓子やスイーツ、ファストフードをたくさん食べていると、肌あれしやすいと思います。それから、ニキビや吹き出物が出やすい時期は、ナッツ、チョコレート(カカオ)、カフェインはお休みしましょう。皮脂が出やすくなります。
皮膚は内臓の鏡です。内臓のためにも皮膚のためにも、味噌、豆腐、納豆などの発酵食品はおすすめです。昔ながらの日本食は、お肌にもいいんですよ。


増田:3回にわたって、PMSの具体的な改善策をありがとうございました。PMSは、妊娠の準備のために起こる体の変化。病気というわけではありませんが、日常生活に影響を及ぼすようなPMSは、改善したいもの。月の3分の1近くをつらいと感じて過ごすのか、快適に笑顔で過ごすのかでは、大きく違うと思います。セルフケアだけで改善できないことは、ぜひ婦人科で相談を。

増田美加

女性医療ジャーナリスト

増田美加

35年にわたり、女性の医療、ヘルスケアを取材。エビデンスに基づいた健康情報&患者視点に立った医療情報について執筆、講演を行う。著書に『医者に手抜きされて死なないための患者力』『もう我慢しない! おしもの悩み 40代からの女の選択』ほか

撮影/島袋智子 イラスト/itabamoe Photo by Boyloso/iStock/gettymages 取材・文/増田美加 企画・編集/浅香淳子(yoi)