経血量が多いことで生活に支障を感じたら、「過多月経」の可能性が。早めに婦人科を受診しましょう。治療することで過多月経は改善できます。背後に隠れた病気があれば、早く見つけて治療することも大切です。過多月経では実際にどんな治療をするのかを、引き続き中込彰子先生に伺いました。

中込彰子先生のイラストによる、連載第16回の扉

「過多月経でナプキン代の負担が大変」の声が…

増田:10代20代の読者の方々から、過多月経に関してはこんな生理用品の悩みも寄せられています。
「ナプキンを2重に使うので、費用が大変」
「夜用にショーツ型のナプキンが必要で、お金がかかる」
「運動をするので、量の多い数日はタンポンを使用しますが、量が多すぎて8時間もつとされているものも1時間でキャパオーバー。生理用品の消費が早く、毎月の出費も大変」
「いいナプキンを使いたいが、価格が高く、安いものを買ってしまう」
「過多月経のせいか、ナプキンを使うと、肌のかゆみ、かぶれが気になります」
経血量が多いと、ナプキン代もかかりますよね。過多月経を治療すれば生理用品の費用の負担も減ると思いますが、どうでしょうか?

中込先生:はい、過多月経は治療できます。
過多月経には、原因になる子宮由来の病気がある場合と、体内のホルモンや血液の状態が原因となっている場合があります。原因となる子宮の病気は、子宮筋腫、子宮腺筋症、子宮内膜症、子宮内膜ポリープなど。これらの病気がある場合は、その治療を行うことで経血量も減ってきます。

10代20代の方の場合、多いのはホルモンバランスの不安定さや無排卵周期、子宮内膜症や子宮腺筋症によるものですので、これらは低用量ピルで治療することができます。私の過多月経も、低用量ピルで改善していきました。低用量ピルを服用すると、月経の痛みは軽くなっていきますし、経血量もかなり減ります。早めに治療しておくことで、子宮や卵巣など妊娠にかかわる環境を整えることになるので、将来の不妊の原因予防にもなりますよ。


■低用量ピルの詳しい情報についてはこちらもご参照ください。
増田美加のドクタートーク Vol.4 

リモートインタビュー中の中込先生と増田さん

中込先生にはリモートで取材させていただきました。画面下は、取材執筆を担当いただいている医療ジャーナリストの増田美加さん。

ナプキン代より低用量ピルのほうが安い!?

中込先生:今回、ナプキン代について、わかる範囲で調べてみたんです。正確な数字ではないですが、昼用1枚が10~40円くらい、夜用1枚は25~130円くらいでした。オーガニックコットンなどのナプキンだと1枚400円というものもあってビックリ。

月経期間中、過多月経の方が2~4日目は夜用ナプキンを2時間おきに交換するとして1日12枚。プラス、夜はショーツ型をベースに使うとしたらいくらになる? と計算したら、夜用ナプキンを1枚30円、ショーツ型ナプキンを1枚100円とすると、1日460円。ほかの日は夜用と昼用で5枚くらいとしても、7日間で2000円くらいになりますね。それにタンポンを併用したら、3000円以上になります。低用量ピルは、1カ月2000円くらい。経血量も減るので、おりものシート数枚で済み、月経量がとても多くお困りの方にとっては、費用面でもお得です。

低用量ピルを服用すると月経の痛みが緩和され経血量もかなり減ります

増田低用量ピルを使うと、ナプキンの費用も抑えられるんですね。ナプキンかぶれ防止や、下着が汚れない、洋服への漏れを気にしなくてよいなど、経血量が減るメリットはたくさんあります。
低用量ピルは、例えば小学生でも服用して大丈夫なのでしょうか?

中込先生初経後であれば、小学生でも問題ありません。10代で飲ませると成長が止まるのでは、と心配する親御さんが多くいらっしゃいますが、月経開始後であれば大丈夫です。確かに、月経開始前にピルを内服してしまうと、そこに含まれている女性ホルモンであるエストロゲンの作用で骨の成長が早めに止まり低身長になることが指摘されていますが、月経開始後であれば最終的な身長に差は出ないことが示されています。ですので、月経でお困りの際には、ピルを上手に使ってつらい日々から抜け出しましょう。

子宮に病気がある場合の治療法は?

増田:子宮に病気がある場合(子宮内膜症、子宮腺筋症、子宮筋腫、子宮内膜ポリープ)の過多月経は、どんな治療になりますか?

中込先生:病気の部分の大きさや症状の程度にもよりますが、いずれの病気の場合も、低用量ピルや黄体ホルモン製剤などのホルモン剤でまず治療することが多いです。大きな子宮筋腫やポリープは手術することもありますが、サイズがまだ小さいうちから原因になることは少ないのです。つまり、過多月経の症状が出てから早めに治療開始できれば、結果、手術を回避できる可能性があります。

過多月経は治療できます

中込先生:また、出産経験のある方なら、「ミレーナ」(レボノルゲストレル放出子宮内システム)という人工の黄体ホルモンを持続的に放出する柔らかい器具を子宮内に入れておく治療もあります。

黄体ホルモンには子宮の内膜が厚くなるのを抑える作用があります。この効果により内膜が薄くなれば、経血量は減り、過多月経になることはありません。もともとは避妊具として承認されましたが、最近では過多月経や月経痛がつらい方の治療として使用される機会が多くなってきました。5年間は入れたままで大丈夫ですし、過多月経の治療であれば保険も効くので、費用面でもかなり抑えられますよね。出産経験がない方の場合、挿入時に痛みを感じるケースが多いようですが、使用できないわけではありませんので、婦人科にご相談ください。妊娠したくなったときには、取り出してしまえばOKです。

増田:いろいろな治療法がありますね。過多月経は治療できるということを、多くの女性に知ってほしいです! 月経による不快症状を少しでも減らして、自分のやりたいことが思い通りにできる生活に近づけるといいなと思いました。次回は、過多月経で起こる貧血について、中込先生に引きつづき伺います。

中込彰子(なかごみ あきこ)先生

山梨大学医学部 産婦人科医

中込彰子(なかごみ あきこ)先生

愛媛生まれ、広島育ち。日本産科婦人科学会専門医。NPO法人女性医療ネットワーク理事。琉球大学医学部医学科卒業後、地域に根ざした女性総合診療医を目指し、市立大村市民病院(長崎)で研修。日々の診療のなかで、目指す医師像は「家庭医」ではないかと考え、Oregon Health & Science Universityに短期留学。そこでの経験を経て、総合診療医から産婦人科医への転科を決意。2014年より、東京で産婦人科医として7年間勤務後、現職。『内診台がなくてもできる女性診療 外来診療からのエンパワメント』『Rp.+(レシピプラス)ホルモンとくすり』共同執筆。

増田美加

女性医療ジャーナリスト

増田美加

35年にわたり、女性の医療、ヘルスケアを取材。エビデンスに基づいた健康情報&患者視点に立った医療情報について執筆、講演を行う。著書に『医者に手抜きされて死なないための患者力』『もう我慢しない! おしもの悩み 40代からの女の選択』ほか

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取材・文/増田美加 イラスト/itabamoe 撮影/島袋智子 Photo by Suphansa Subruayying, Serhii Ivashchuk / iStock / Getty Images Plus 企画・編集/浅香淳子(yoi)