月経のある女性の10人に1人が発症するといわれている「子宮内膜症」。つらい生理痛がある人は、もしかしたら子宮内膜症になっているかもしれません。子宮内膜症とはどんな病気で、治療はどうしたらいいのか? 3回にわたって、産婦人科医の百枝幹雄先生に伺いました。

百枝幹雄先生のイラストによる、連載第30回の扉

百枝幹雄(ももえだ みきお)先生

総合母子保健センター愛育病院病院長

百枝幹雄(ももえだ みきお)先生

東京大学医学部卒業。医学博士(東京大学)。米国国立衛生研究所(NIH)留学。東京大学医学部産婦人科講師、聖路加国際病院女性総合診療部部長、同院副院長を経て、現職。日本産科婦人科学会専門医、日本生殖医学会専門医、日本産科婦人科内視鏡学会技術認定医、日本女性医学学会専門医ほか。日本エンドメトリオーシス学会代表幹事、日本子宮内膜症啓発会議理事長。女性の活躍やQOLの向上を目指して月経や妊娠・出産・育児を医学的側面からサポートするため、手術を含む診療とともに、NPO法人日本子宮内膜症啓発会議の実行委員長として多くの社会啓発活動を行なっている。

10人に1人が抱える「子宮内膜症」とは

増田:つらい月経痛に悩んでいる人は、月経がある女性の3人に1人ともいわれています。そして、子宮内膜症は10人に1人。子宮内膜症はつらい月経痛を引き起こすといわれていますが、どんな病気なのでしょうか?

百枝先生:子宮の内側を覆っている子宮内膜は、毎月、妊娠に備えて厚くなり、妊娠しないと月経血として体外に排出されます。これが月経です。

ところが、この月経血が子宮内を逆流して、卵巣、直腸や膀胱、子宮のあいだなど、子宮以外の場所に小さな固まりになって付着することがあります。月経のたびにその状態が繰り返されると、子宮内膜に似た組織(子宮内膜症組織)が子宮以外の場所で増殖して、子宮内膜症を発症するのです。

実は、この月経血の逆流は90%以上の女性に起こっているのですが、逆流したからといって必ず子宮内膜症になるわけではありません。子宮内膜症が起こるのは、月経のある女性のうち約10%です。なぜ子宮内膜症を発症する人としない人がいるのかは、今のところはっきりわかっていません。

百枝幹雄先生

穏やかな笑顔で取材に答えてくださった百枝先生

子宮内膜症が増えている! その原因は?

増田:子宮内膜症にかかる人は増えていると聞きますが、なぜなのでしょうか?

百枝先生:お話ししたように、子宮内膜症は、月経のたびに、月経血が子宮、卵管を通って、お腹の中に逆流してしまうことが原因と考えられています。

時代とともに女性のライフスタイルが変化して、初経が低年齢化し、初産年齢は高齢化が進んでいます。昔の女性は、初経とほぼ同時に結婚して、妊娠、出産、授乳を繰り返し、何人もの子どもを育てていました。それに比べて現代女性は、一生のうちに1回も出産しないか、1人~2人の子どもしか産み育てない人も増えています。そのため、現代女性が生涯に経験する月経の回数は、昔の女性に比べて9倍も多いといわれています。

子宮内膜症は、月経の回数が多ければ多いほど、発症するリスクが高くなります。生涯にわたる月経回数が増えている現代女性は、子宮内膜症にかかるリスクが高くなるわけです。

子宮内膜症は、お腹の中のあらゆるところに発生する

増田月経血が逆流して、本来子宮内膜がある子宮の内側以外のところに付着するということですが、どんなところに付着するのですか?

百枝先生:子宮内膜症が特に発生しやすい場所は、卵巣、ダグラス窩(か)、腹膜などです。


このうち卵巣に発生した子宮内膜症は、卵巣内部に出血を起こし、濃縮された古い血液が貯留して徐々に大きくなるので「卵巣チョコレートのう胞」と呼ばれています。そのほか、子宮頸管、腟、卵管、大腸、小腸、虫垂、尿管、膀胱、皮膚、胸膜、肺など、さまざまな組織に発生します。

子宮内膜に似た組織がさまざまな臓器に付着してそこで増殖することで、月経のたびに、子宮以外のいろいろなところで出血や炎症を繰り返します

増田:だから子宮内膜症の人は、月経痛がひどくて、子宮内膜組織が癒着したお腹や腰など、さまざまなところが痛むのですね。

百枝先生:子宮内膜症は、月経血が逆流してお腹の中に付着した場所に起こります。以下の図中の部位名のほとんどに、子宮内膜症が発生する可能性があります。

【子宮内膜症が発生しやすい場所】

子宮を横から見た図

百枝先生:また、子宮内膜に似た組織が子宮以外で増殖して、まわりの臓器に付着することで、月経のたびに、あるいは人によっては月経以外のときにも、子宮以外のいろいろなところで出血や炎症を繰り返します。ひどくなると、子宮や卵巣の癒着、子宮と腸との癒着など、臓器同士が癒着して、それがさらに痛みにつながります。

リスクがあるのはどんな人?

増田:生理のたびに子宮以外のいろいろなところで出血や炎症を繰り返すのはつらいですね。原因ははっきりしていないとのことですが、子宮内膜症になりやすい、リスクの高い人はどんな人なのでしょうか?

百枝先生:子宮内膜症は、月経血の逆流が原因であるため、月経の回数を多く経験するほど発症のリスクが増えます。そのため、近年の「初経年齢の低年齢化」「初産年齢の高齢化」「妊娠・出産回数の減少」は、リスクになります。

また、子宮内膜症では、以下に挙げたような症状が現れます。1つでも当てはまると子宮内膜症の可能性がありますので、チェックしてみてください


【子宮内膜症の症状セルフチェック】


□激しい月経痛がある
□以前より月経痛がひどくなってきた
□痛み止め(鎮痛剤)が効きにくい
□痛み止め(鎮痛剤)の量が増えた
□月経のとき以外にも腹痛、腰痛がある
□性交痛がある
□排便時に痛みがある
□なかなか妊娠しない

子宮内膜症のセルフチェックを促す画像

増田:月経のある女性の10人に1人の女性が、子宮内膜症によるこのような痛みや苦痛に耐えながら日常生活を送っているんですね。次回は、子宮内膜症の2大症状とそのケアについて、引きつづき、百枝幹雄先生に伺います。

増田美加

女性医療ジャーナリスト

増田美加

35年にわたり、女性の医療、ヘルスケアを取材。エビデンスに基づいた健康情報&患者視点に立った医療情報について執筆、講演を行う。著書に『医者に手抜きされて死なないための患者力』『もう我慢しない! おしもの悩み 40代からの女の選択』ほか

取材・文/増田美加 イラスト/itabamoe    内藤しなこ 撮影/山崎ユミ 企画・編集/木村美紀(yoi)

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