子宮内膜症には、どのような治療があるのでしょうか? 自分に合った治療法を選ぶには、どうしたらいいのか? また、子宮内膜症を治療しながら、上手につき合っていくための方法を、産婦人科医の百枝幹雄先生に伺いました。

百枝幹雄先生のイラストによる、連載第32回の扉

子宮内膜症にはどんな治療法がありますか?

増田:子宮内膜症の治療は、たくさんあると聞きます。手術をするかしないか、どうやって決めたらいいかを悩む人もいます。どのような治療があって、どうやって選べばいいかを教えてください。

百枝先生:子宮内膜症は、重症度、進行度、ライフスタイルによって、治療法が異なります。 治療の優先順位を考えるときに大切なのは、まずご自分のライフステージがどんな時期なのかです。

例えば、未婚で今すぐに妊娠を希望しない人であれば、痛みをやわらげることが治療の中心になります。今、妊娠・出産を希望している人は、痛みをやわらげるとともに、妊娠率を上げるための治療を行います。また、年齢的にこの先妊娠・出産を希望しない人は、痛みの緩和とともに、卵巣チョコレートのう胞のがん化を予防する治療を検討します。

ライフステージごとの子宮内膜症の治療法

すぐに妊娠を希望していない人の治療は?

増田:パートナーもいないし、今すぐ妊娠は希望していないけれど、将来は妊娠できる状態でいたい。それに今の痛みはなんとかしたい…という人も多いと思いますが、その場合は、痛みをやわらげる治療をすることになるのでしょうか?

百枝先生:そうですね。妊娠できる状態を維持しながら、今の痛みを緩和する治療は、お薬による治療が中心になります。

ただ、子宮内膜症の進行を抑えて、将来、妊娠できる状態を維持するために、手術を選択する場合もあります。少し前までは、手術を受けるのは妊娠直前がよいといわれていましたが、近年は方針が変わってきているのです。

というのも、子宮内膜症という病気は、閉経するまでは自然に治ることがなく、再発を繰り返すため、手術をしても、妊娠までに再発してしまう可能性が高かったのです。しかし低用量ピルや黄体ホルモン剤が出てきたことで、手術後にこれらを適切に服用していけば、手術後もいい状態を長く維持することができるようになりました。そのため現在は、すぐに妊娠する予定がなくても、お薬の治療だけではコントロールできない症状がある人などには手術が行われるようになってきています。

痛みを取るお薬の治療の種類は?

増田:痛みをやわらげるお薬の治療には、どんなものがあるのでしょうか?

百枝先生:痛みのコントロールは、まずは鎮痛剤や漢方薬から始めます。それでも痛みが改善されない場合や、卵巣チョコレートのう胞がどんどん大きくなってしまう場合には、ホルモン療法を行います。ホルモン療法に関しては、使用できる薬剤の選択肢が増え、症状のコントロールがより行いやすくなってきました。

まず、子宮内膜症が軽くて若い方で、すぐに妊娠を希望しない方には、低用量ピルがいいと思います。子宮内膜の増殖を抑えて、子宮内膜症の進行を食い止める働きがあります。痛みや経血量も軽減します。

低用量ピルがあまり効果を発揮しない方の場合は、次の段階として、黄体ホルモン剤のジエノゲストを使います。ジェノゲストは、子宮内膜症の組織に直接働きかけて病巣を萎縮させるという作用があります。また、痛みの原因になるプロスタグランジンの産生やサイトカインのレベルを下げる働きもあるため、痛みの症状を抑える力も強いのです。

けれども、副作用として不正出血が起こりやすいため、それを抑えるための工夫もいろいろと試みられています。また、すぐに妊娠を希望する方には使えません。一方で、40歳以上で妊娠・出産を希望しない方で、閉経までなんとか手術をせずに逃げ込みたいという方には有効なお薬です。

低用量ピルも黄体ホルモン剤のジェノゲストも、使用期間に制限がなく長期間使えるので、「将来、妊娠はしたいけれど、いつになるかわからない」というライフステージにいる方にはとても役立つお薬です。

また、ミレーナ(レボノルゲストレル放出子宮内システム)という、子宮内に入れておく器具もあります。これは、黄体ホルモン(レボノルゲストレル)を子宮内腔に局所的に放出するT字型の小さな器具です。5年間入れっぱなしで有効で、妊娠したいときに取り出せばいいのです。子宮内膜に作用して内膜が薄くなるため、高い避妊効果と、つらい月経痛(月経困難症)や過多月経の改善効果があります。

今すぐ妊娠を希望する方が使える、痛みを緩和するお薬がデュファストン(ジドロゲステロン)です。ほかのホルモン剤は排卵を抑制してしまうため、妊娠を希望される期間には使えません。しかし、デュファストンは治療中に妊娠が可能で、痛みも改善できる治療薬です。

ここまでに紹介したお薬の治療でも効かない場合は、GnRHアゴニストを使います。子宮内膜症は基本的にエストロゲンに反応して増殖するため、血中エストロゲンの濃度を低下させて子宮内膜症を治療する方法です。偽閉経療法ともいわれ、閉経と同じレベルにエストロゲン濃度を下げ、月経を完全に止めてしまいます。使用中は、症状はなくなり、進行も食い止められます。しかし、デメリットとして骨量の減少などの副作用があるため、6カ月間しか使えません。そのため、症状が重い場合や、手術を行う前などに使われています。

百枝幹雄先生

NPO法人日本子宮内膜症啓発会議の実行委員長でもある百枝先生

百枝幹雄(ももえだ みきお)先生

総合母子保健センター愛育病院病院長

百枝幹雄(ももえだ みきお)先生

東京大学医学部卒業。医学博士(東京大学)。米国国立衛生研究所(NIH)留学。東京大学医学部産婦人科講師、聖路加国際病院女性総合診療部部長、同院副院長を経て、現職。日本産科婦人科学会専門医、日本生殖医学会専門医、日本産科婦人科内視鏡学会技術認定医、日本女性医学学会専門医ほか。日本エンドメトリオーシス学会代表幹事、日本子宮内膜症啓発会議理事長。女性の活躍やQOLの向上を目指して月経や妊娠・出産・育児を医学的側面からサポートするため、手術を含む診療とともに、NPO法人日本子宮内膜症啓発会議の実行委員長として多くの社会啓発活動を行なっている。

すぐに妊娠・出産したい人の治療法としては?

増田:女性が人生の大きなイベントとして考えるのが妊娠・出産です。子宮内膜症のつらい痛みなどの症状を抑えながら、妊娠を目指す方法を教えてください。

百枝先生:鎮痛剤、漢方薬、それらが効かない場合は、先ほど紹介したデュファストンなどで痛みの緩和治療をします。

これらのお薬で痛みを抑えながら、できるだけ早く妊娠することを目指すことになります。ただし、妊娠を希望して1年以上たっても妊娠しない場合や、高齢で早期の妊娠を希望する場合には、卵管周囲の癒着を剥がしたり、正常な卵巣の組織を残して卵巣チョコレートのう胞を取り除くなどの手術を考えます。

手術のあとに妊娠しない場合は、不妊治療を行います。手術をしてみて、両側の卵管が癒着している場合などには、手術後の自然妊娠が難しくなるため、体外受精などの生殖補助医療を行なったほうがよい場合もあります。

卵巣チョコレートのう胞のがん化を防ぐには?

増田前回、卵巣チョコレートのう胞の病歴が長くなるにつれて、がん化の可能性がより高くなるというお話を伺いました。40歳以上になったら、卵巣がんのリスクが高まるということですが、卵巣がんへの移行を防ぐにはどうしたらいいのでしょうか?

百枝先生:がん化する心配がそれほどない若い人は、痛みを抑える治療として、鎮痛剤やホルモン剤による治療を行いますが、卵巣チョコレートのう胞が急激に大きくなったときには手術を検討します。

また、40歳以上になって、卵巣チョコレートのう胞が4センチ以上の場合は、手術を検討することが大切です。妊娠を希望する場合は、病巣の部分だけを切除して、卵巣は残します。状態によっては卵巣ごと切除することもありますが、卵巣はふたつあるため、もうひとつの卵巣が残っていれば妊娠は可能です。

子宮内膜症で治療を受けるときのアドバイス

増田:人生のライフステージによって、自分がどんな人生を選択するかによっても、治療法が変わることがよくわかりました。また、治療も選択肢が増え、私たち女性が選べるようになってきたことも感じました。子宮内膜症の治療に長年携わって来られた百枝先生から、どんなことに気をつけて治療を受けたらよいかのアドバイスをいただきたいです。

百枝先生:子宮内膜症は良性の病気で、すぐに命にかかわる病気ではないですが、痛みなどの症状が強く、なんとかコントロールしながら日常生活を送らなければいけない病気です。患者さんは、とてもつらい思いをしていらっしゃると思います。

人生にとって重要な結婚、妊娠、出産ともかかわってきますし、キャリア形成にも大きな影響を及ぼします。痛みなどの症状があると、仕事や勉強などのパフォーマンスも下がり、QOLを大きく低下させます。特に月経痛は、周囲の人に理解されにくい側面もあります。

私からぜひ申し上げたいのは、軽くてもすぐに婦人科を受診して、治療を開始してほしいということです。治療をすれば、病気を進行させずに済みます。今以上に進行させないことがとても大事です。痛みから解放されれば、日常生活の負担も減りますし、パフォーマンスも上がります。また、軽いうちに治療すれば、妊娠・出産を希望されたときのデメリットにならなくて済む可能性が高いのです。

子宮内膜症は早期に治療を

増田:百枝先生、3回にわたってありがとうございました。妊娠、出産、キャリア形成など、今後の人生を考える時期に、子宮内膜症という病気で悩むことも多いと思います。でも、子宮内膜症は早めに治療すれば進行が抑えられます。病気によってライフプランを考えるきっかけができたと前向きにとらえて、自分らしい人生の選択につなげていただきたいと思います。

増田美加

女性医療ジャーナリスト

増田美加

35年にわたり、女性の医療、ヘルスケアを取材。エビデンスに基づいた健康情報&患者視点に立った医療情報について執筆、講演を行う。著書に『医者に手抜きされて死なないための患者力』『もう我慢しない! おしもの悩み 40代からの女の選択』ほか

取材・文/増田美加 イラスト/itabamoe    内藤しなこ 撮影/山崎ユミ 企画・編集/浅香淳子(yoi)

百枝幹雄先生のイラストによる、連載第31回の扉

子宮内膜症の3大問題【痛み、不妊、がん化】にどう対処する? 増田美加のドクタートーク Vol.31

百枝幹雄先生のイラストによる、連載第30回の扉
つらい生理痛を引き起こす「子宮内膜症」ってどんな病気? 増田美加のドクタートーク Vol.30
池田裕美枝先生のイラストによる、連載第29回の扉
月経不順の背後に隠れた病気と、その治療法が知りたい! 増田美加のドクタートーク Vol.29
池田裕美枝先生のイラストによる、連載第28回の扉
月経が不順なとき、自分でできる対処法は? 増田美加のドクタートーク Vol.28
池田裕美枝先生のイラストによる、連載第27回の扉
生理がいつ来るかわからない…。婦人科に行くべき月経不順とは? 増田美加のドクタートーク Vol.27
廣田泰先生のイラストによる、連載第26回の扉
【不妊治療と心のケア】不妊治療中のストレス、どうすればいい? 増田美加のドクタートーク Vol.26
廣田泰先生のイラストによる、連載第25回の扉
【不妊治療と仕事の両立】働きながら治療はできる? 両立の支援策は? 増田美加のドクタートーク Vol.25
廣田泰先生のイラストによる、連載第24回の扉
【保険適用の制限】不妊治療には、年齢制限や回数制限がある!? 増田美加のドクタートーク Vol.24
廣田泰先生のイラストによる、連載第23回の扉
【不妊治療の現状】保険適用になった不妊治療とは? 増田美加のドクタートーク Vol.23
廣田泰先生のイラストによる、連載第22回の扉
【不妊症の基礎知識】不妊症になりやすい人、今から気をつけたいこと。 増田美加のドクタートーク Vol.22
吉本裕子先生のイラストによる、連載第21回の扉
10代20代がかかりやすい性感染症、どう予防する? 増田美加のドクタートーク Vol.21
吉本裕子先生のイラストによる、連載第20回の扉
病気が原因の「異常なおりもの」とは? 見極め方を教えて!! 増田美加のドクタートーク Vol.20
吉本裕子先生のイラストによる、連載第19回の扉
病院に行くべき「おりもの」と、におい・かぶれの対策を教えます! 増田美加のドクタートーク Vol.19
吉本裕子先生のイラストによる、連載第18回の扉
“おりもの”の量が多い、においが気になる…。そもそもおりものって何? 増田美加のドクタートーク Vol.18
中込彰子先生のイラストによる、連載第17回の扉
生理の量が多くて貧血気味…。貧血は治療すべき? 増田美加のドクタートーク Vol.17
中込彰子先生のイラストによる、連載第16回の扉
出血の多さ、なんとかしたい。過多月経の対策を教えて! 増田美加のドクタートーク Vol.16
中込彰子先生のイラストによる、連載第15回の扉
ナプキンから漏れる。生理の出血が多くてつらい…これって病気? 増田美加のドクタートーク Vol.15
柴田綾子先生のイラストによる、連載第14回の扉
知っておきたい、HPVワクチンと子宮頸がん検診のこと 増田美加のドクタートーク Vol.14
柴田綾子先生のイラストによる、連載第13回の扉
「HPVワクチン」で子宮頸がんは予防できる? 増田美加のドクタートーク Vol.13
柴田綾子先生のイラストによる、連載第12回の扉
若い世代がなりやすい「子宮頸がん」ってどんな病気? 増田美加のドクタートーク Vol.12
小野陽子先生のイラストによる、連載第11回の扉

PMDD相談室「止まらないイライラ、彼とのケンカ…どうする?」 増田美加のドクタートーク Vol.11