子宮筋腫の治療法として手術を選ぶときには、いくつかの選択肢があります。条件やライフプランによって、選ぶ手術法も変わってきます。どんな場合に、どのような手術を選べばいいのか、そのポイントを産婦人科医の北出真理先生に伺いました。

北出真理先生のイラストによる、連載第35回の扉

すぐに妊娠したい人はどうすれば?

増田:症状がなくても、子宮筋腫の手術をしたほうがいい場合もあると思います。例えば、すぐにでも妊娠したいと思っている人は手術を考えたほうがいいのでしょうか?

北出先生:子宮筋腫を持ちながら、妊娠・出産している方はたくさんいらっしゃいますが、筋腫が不妊や流産の原因になることもあります。

すぐに妊娠したい場合は、子宮を残して筋腫だけを取り除く、「子宮筋腫核出術(かくしゅつじゅつ)」を行います。けれども小さな筋腫をすべて取り除くことは難しいため、一部残ってしまったり再発の可能性があります。手術後、できるだけ早く妊娠するようにチャンスを作ったり、不妊治療を行うことが大切です。

パートナーがいる方は、先に体外受精をして受精卵(胚)を凍結しておいてから、子宮筋腫の手術を考えるということも今は行われています。子宮筋腫の種類や大きさによっては、手術を受けてから妊娠、出産に臨んだほうがいい場合もあります。

増田:将来は妊娠したくても、今すぐには妊娠を望んでいなくて、子宮筋腫があまり大きくなく、症状がほとんどない…という場合は、手術の必要はないということですね?

北出先生:そうですね。もし早めに子宮筋腫核出術を行なっても、筋腫が再発して妊娠前に再び手術が必要になるかもしれません。しばらくは経過観察を続けて、子どもが欲しいと思ったタイミングで筋腫が妊娠・出産の障害になるようであれば、手術を選択するのがいいでしょう。

普段の生活に支障が無くても、筋腫の種類や場所によっては、経腟分娩ができず帝王切開となったり、不妊や流産・早産のリスクもあります。これらが予測される場合は、症状がなくても妊娠前に手術を考えることもあります。

産婦人科医の北出真理先生

ライフプランに合わせた子宮筋腫の治療方法について、北出真理先生に教えていただきました。

北出真理(きたで まり)先生

順天堂大学医学部附属順天堂医院産婦人科教授

北出真理(きたで まり)先生

順天堂大学医学部卒業。同大学産婦人科入局。子宮筋腫のほか、子宮内膜症、不妊、月経異常など、婦人科全般にわたる診療を行なっている。手術としては腹腔鏡手術を専門とし、患者さんの体への負担が少なくて済む、侵襲の低い手術を心がけている。同じ女性の目線から現代女性の多忙なライフスタイルにも配慮した医療を目指す。日本産婦人科学会専門医、産婦人科内視鏡技術認定医、日本生殖医学会生殖医療専門医、女性ヘルスケア専門医、スポーツドクター。『医者に聞けないことまでわかる子宮筋腫』(主婦と生活社/監修)

つらい症状がある場合は、どこかで手術を考える

増田:もし筋腫によるつらい症状がある場合は、妊娠・出産をすぐに望んでいなくても、どこかで手術を考えたほうがいいのでしょうか? 

北出先生:閉経した場合を除いて、子宮筋腫が自然に小さくなることはありません。また、現在わが国で保険収載されている子宮筋腫の治療薬は、筋腫を一時的に小さくしたり症状をやわらげることはできますが、継続投与が難しく根本的な治療にはなりません。そのため、日常生活に差し支えるような症状が長く続く場合は、手術が必要になることがほとんどです。

増田:筋腫の大きさによる手術の目安はありますか?

北出先生:大きさだけで手術の目安を考えるのは難しいですが、筋腫1個の大きさで言うと、直径6~8cm以上が手術を考える目安でしょう。特に、腹腔鏡下手術を希望する場合は、筋腫が10 cm以上に増大すると難しい場合も多いので、大きくなる前に手術を選択します。

大きさが5~6 cmの筋腫は悩ましいところですが、子宮内膜を圧迫する粘膜下~筋層内筋腫は、過多月経をはじめ不妊や流産の原因になり得るため、手術を考えてもいいでしょう。症状がほとんど無い5cm未満の筋腫は、経過観察するかそのまま妊娠してもいいと思います。

筋腫だけを取る? 子宮を全摘する?

増田:手術には、子宮を残して筋腫のみを摘出する「子宮筋腫核出術(かくしゅつじゅつ)」と、子宮を摘出する「子宮全摘術(ぜんてきじゅつ)」があるとのことですが、どちらを選べばいいのでしょうか?

北出先生:今後、妊娠を望む場合には子宮筋腫核出術で子宮を残しますが、完治させたい場合には子宮全摘術がベストです。そのほか、子宮筋腫だけを取る手術か、子宮を全摘出する手術かを選択するポイントを、以下に整理してみます。
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【将来的に子どもが欲しい、子宮を摘出することに抵抗がある】
妊娠・出産を将来的に希望する場合は、筋腫のみを摘出する「子宮筋腫核出術」を行います。妊娠・出産を希望しない場合でも、子宮摘出に強い抵抗がある場合は、筋腫のみを摘出して子宮は残す場合もあります。

【子どもはいらない、子宮を摘出することに抵抗はない、閉経が近い】
将来的に妊娠・出産を望まず子宮摘出に抵抗がない場合や、閉経が近い場合は、「子宮全摘術」を行います。子宮筋腫が再発する可能性もなく、将来、子宮がんになるリスクがなくなる、ホルモン補充療法が行いやすいというメリットがあります。
*更年期症状に対するホルモン補充療法(HRT)は、通常エストロゲン+プロゲステロンの投与が必要となりますが、子宮摘出後にはエストロゲンのみで大丈夫になります。 
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増田:更年期世代でもうすぐ閉経だけど、症状があるという人はどうしたらいいでしょうか?

北出先生:ほとんどの方は、閉経すると筋腫は自然に小さくなり、症状もなくなります。日本人はだいたい50歳前後に閉経を迎えますので、年齢的に閉経が近い場合には、お薬による治療で症状を抑えて、手術をせずにそのまま閉経に逃げ込むこともできます。お薬による治療を行なっても症状を抑えきれない場合や、50歳を過ぎてもなかなか閉経にならない場合は、子宮全摘術を選択したほうが良いこともあります。 

いろいろあって手術法を選べない!

増田:子宮筋腫だけを取る「子宮筋腫核出術」と「子宮全摘術」には、それぞれどのような手術法があるのでしょうか?

北出先生:子宮筋腫核出術、子宮全摘術いずれにも、お腹を5mm~1cm程度切開するだけで済む低侵襲な「腹腔鏡下手術」があります。腹腔鏡下手術が行えるかどうかは、筋腫の位置や大きさによって決まります。また、「子宮鏡下手術」「腟式手術」などはお腹を切らずに手術をすることも可能ですが、対象となる筋腫はかなり限られます。

開腹手術より腹腔鏡下手術や子宮鏡下手術、腟式手術のほうが術後の回復が明らかに早く、傷も目立たないというメリットがありますが、子宮筋腫が大きくなりすぎると後者での手術は難しくなり、開腹手術をせざるを得なくなります。

手術をはじめとする治療法にはそれぞれ長所短所がありますが、症状やライフプランを考えて自分に合った方法を選ぶことが大切です。

【子宮筋腫の手術の種類はこんなにある!】 

子宮筋腫の治療法

筋腫核手術は何回できる?

増田:子宮筋腫核出術で筋腫を摘出しても、また再発することがあるとのことですが、再発したらまた核出術を繰り返すことはできるのでしょうか?

北出先生:子宮筋腫核出術を2回以上行うことは不可能ではありませんが、回数を重ねるごとに手術やその後の妊娠のリスクが高まります。問題のひとつは、子宮の傷の周囲に生じる癒着です。癒着とは、通常は分離している臓器同士がくっついてしまうことです。術後の癒着は、治癒する過程の生理現象で、どんなに丁寧に手術をしてもある一定の確率で起こり得ることです。手術回数にともなって術後の癒着はひどくなり、不妊症や手術中の臓器損傷のリスクとなります。また、妊娠すると、胎児の発育にともない子宮が引き延ばされますが、何度も手術をすると子宮筋層が妊娠変化に耐えられず裂けてしまう「子宮破裂」のリスクが、通常より高くなる可能性があります。 

以上のことから、妊娠前に子宮筋腫核出術を何度も行うことは、やむを得ない場合を除いて、あまりおすすめできません。特に、手術回数が3回以上になるとリスクが明らかに高くなるため、手術回数を必要最低限にするようプランニングをすることが大切です。 
 

手術は受けたくない。どうしても手術は必要?

増田:医師から手術をすすめられているけれど、できれば手術を受けたくないという声も聞きます。何か方法はないのでしょうか?

北出先生:今後も出産を希望しない方なら、動脈塞栓術(どうみゃくそくせんじゅつ)という方法があります。昔は自費診療で行っていたため費用は60万円前後かかりましたが、今は保険適用になっていて、侵襲も少なく評判のいい治療法です。

動脈塞栓術は、筋腫に栄養を運ぶ血管の動脈に、血管を詰まらせる物質(塞栓物質)を注入する方法。そけい部から入れた細いカテーテルを血管造影法により透視下で子宮動脈に挿入し、閉塞物質を入れて血管を閉塞させます。筋腫に栄養が届かないようにすることで、筋腫がゆっくり縮小していきます。

子宮動脈が閉塞されても、子宮はほかの動脈から栄養を受けることができるのでそのまま温存されますが、妊娠前に行う場合の安全性は保証されていません。局所麻酔下に、カテーテル挿入のための約5ミリの切開をするだけなので、体に大きな傷が残らないというメリットがありますが、効果には個人差があり疼痛や感染で再手術が必要となる場合もあります。入院日数は、3~6日です。

増田:ほかにも新しい手術法はありますか?

北出先生症状を軽減させる治療として、マイクロ波子宮内膜アブレーション(MEA)という方法があります。MEAは、子宮筋腫、子宮腺筋症、内膜ポリープなどによる過多月経、不正出血を軽減する方法で、最近保険適用になっています。直径4ミリ程度の金属管でマイクロ波を子宮の内側に届け、子宮内膜を加熱して壊死させることで出血量を減少させる治療法です。

また、ロボット手術(ダビンチ)も子宮全摘手術は保険適用になりましたが、筋腫核出術に対してはまだ、保険適用ではありません。術式によっては腹腔鏡手術より費用が少し高くなりますが、繊細な手術が可能となるため患者さんにとっても少しメリットがあります。

子宮筋腫も早期発見が重要です

増田:子宮筋腫について、さまざまな治療の選択肢を3回にわたり教えていただき、ありがとうございました。最後に、子宮筋腫治療についてのメッセージをお願いいたします。

北出先生子宮筋腫も、子宮内膜症などほかの病気と同様、早期発見が重要です。過多月経かどうか自分ではわからなかった人でも、子宮筋腫が見つかったことで初めてひどい貧血がわかったり、頻尿や腰痛、お腹のでっぱりは筋腫が原因だったというケースもあります。また子宮筋腫が大きく育ち過ぎると、開腹手術しか選択肢がなくなる場合もあります。

子宮筋腫そのものに作用する長期に使えるお薬は日本にはまだありませんが、ある程度の症状改善はGnRHアゴニストや低用量ピル、黄体ホルモン、鉄剤等を用いれば可能です。

子宮筋腫を早期発見できれば、体に負担が少ない腹腔鏡手術も可能となり、また手術療法と薬物療法を上手く組み合わせる事で、QOLの改善も期待できます。早期発見が可能となれば、ライフプランに合わせた適切な治療法を選択できるため、これから妊娠を考える方には特に有用です。

そのためにも、婦人科検診を定期的に受けながら、大きな病院と連携できるかかりつけ医をもつことをおすすめします。高度な検査や治療が必要となった段階で、総合病院や大学病院へ速やかに紹介してもらうことが、手遅れを回避する重要なポイントとなります。

不調の原因は子宮筋腫によるものかもしれません

増田美加

女性医療ジャーナリスト

増田美加

35年にわたり、女性の医療、ヘルスケアを取材。エビデンスに基づいた健康情報&患者視点に立った医療情報について執筆、講演を行う。著書に『医者に手抜きされて死なないための患者力』『もう我慢しない! おしもの悩み 40代からの女の選択』ほか

取材・文/増田美加 イラスト/itabamoe    内藤しなこ 撮影/佐藤健太 企画・編集/木村美紀(yoi)

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