甲賀かをり先生のイラストによる、連載第2回の扉

「最近、だんだん生理痛がひどくなっている」という10代20代の生理の悩みがたくさん寄せられています。「以前よりひどくなるってどういうこと?」「もしも放っておいたらどうなる?」などの不安に、産婦人科医の甲賀かをり先生に答えていただきました。


 

今月お話をうかがうのは…
甲賀かをり

医学博士・産婦人科専門医

甲賀かをり

東京大学医学部附属病院産婦人科准教授。同病院で日本初の子宮内膜症外来を設立するなど、生理痛に悩む女性たちの診療に力を注いでいます

痛みがどんどんひどくなっているのが不安…

増田:今までの生理痛(月経痛)とは違う症状が出たり、痛みがどんどんひどくなっていったりすると、とても不安ですよね。

「最近、生理痛や排卵痛が生じるようになりました。今まで生理の痛みとは無縁だった分、戸惑っています」
「生理時の腹痛、腰痛、頭痛、肌荒れがひどくてつらい。だんだん症状が悪化している気がして不安です」
「年々、生理のときにおなかが痛くなってきている。高校の頃までは感じなかったのですが、最近は痛くて寝てばかりいます。社会人になって、仕事が始まったらどうしよう…と不安」

昨年末に集英社女性誌が1万4000人以上に実施したウェルネスアンケートでは、こんな不安の声が寄せられています。今までの生理痛とは異なる症状があったり、痛みがどんどんひどくなったりするのは、要注意のサインだと聞きます。何か病気が隠れている可能性があるのでしょうか?

10代と20代では、痛くなる理由が違います

リモート取材中の甲賀先生

リモート取材中の甲賀先生

甲賀先生初経から2~3年は無排卵周期といって、排卵がない生理がおこっていることも多いです。生理周期が不安定で、毎月来なかったり月に2回来たり、月によって痛みが違ったり…。そしてこの時期は、子宮が未熟なせいで、生理痛を感じる方が多いようです。吐き気を伴うこともありますね。けれども、初経すぐからものすごく痛いということはあまりないんです。もしもひどく痛むという場合は、婦人科を受診したほうがいいでしょう。

17~18歳くらいになると、排卵も規則的になり、生理周期も整い、子宮も成熟してきますので、子宮が未熟なせいで生理痛がつらい、ということは減ってきます。もし10代後半になって生理痛がどんどんつらくなるようなら、なにか病気が隠れているかもしれないので、婦人科の受診をおすすめします。

増田:では20代になると、どうですか?

甲賀先生:実は、20代で就職し、働き始めた頃から生理痛がどんどんつらくなったという悩みをよく聞きます。でも本来であれば、20代は子宮は成熟してくる年代なので、生理痛がどんどんひどくなるというのはおかしいんです。

学生のときは自分の裁量で自由に体を休められたけれど、社会人になると仕事を勝手に休めないのでつらくなる、という事情もあるのかもしれませんね。一方、22~23歳は、初経から約10年経って、子宮内膜症が出てくる年代でもあります。子宮内膜症を放置すると不妊症の原因となる場合もありますので、この時期に生理痛がひどくなってきたという方はぜひ一度、婦人科を受診してください。

今が婦人科に行くチャンス!

増田:今までより生理痛がひどくなったと感じたら、どのくらい(の期間)で婦人科を受診したらいいのでしょうか?


甲賀先生以前よりひどくなった、と感じたそのときが受診のチャンスです。できるだけ早めに婦人科を受診してください。仕事や学業の大変さや緊張感にプラスして、生理のつらさを抱えているのは、体にとっても心にとっても大変な負担だと思います。せめて、生理には振り回されないようにしたいですよね。

腹痛でつらそうな女性。生理痛がひどくなったと感じたら婦人科へ

増田:生理痛で婦人科を受診する、ということにハードルの高さを感じるという声もよく聞きます。でも、もし検査して「異常なし」と診断されたとしても、今のつらい痛みを楽にしてもらえる治療はできるわけですよね。
もし、徐々につらくなる生理痛を放っておくと、どんな可能性があるのでしょうか?

甲賀先生放っておいて、ある日我慢できないほどの痛みに襲われ、救急車で救急外来を受診される方もいます。たとえば、卵巣にできる子宮内膜症のチョコレートのう胞が破裂したり、感染症をおこしたりして激痛に見舞われ、緊急手術になることもあります。そうした緊急手術はできる限り避けたいです。前もって婦人科で治療しておけば、そんなことにならずに済みます。

10代の若い年代は、大事な試験とか部活の試合とか、大切なイベントも多いですよね。生理痛のためにこうした機会を逸し、人生が大きく左右されるようなことにはなってほしくないと思います。また、20代は、仕事、プライベートと忙しい日々で生理痛もついつい我慢しがちですが、痛みで仕事を休めば経済的な問題も生じます。生理痛は我慢せず治療したほうが、経済的にも、キャリアのためにもメリットが高いというデータはたくさんあります。

婦人科で処方する痛み止めは、ドラッグストアなどの市販のものとは違います。その方の痛みに合ったものをお出ししますし、効果的な使い方もアドバイスできます。


増田ひどくなる生理痛は、できるだけ早く、婦人科で相談することが大事ですね
次回は、その生理痛の痛み止め(鎮痛剤)について、詳しく甲賀先生に伺いたいと思います。

増田美加

女性医療ジャーナリスト

増田美加

35年にわたり、女性の医療、ヘルスケアを取材。エビデンスに基づいた健康情報&患者視点に立った医療情報について執筆、講演を行う。著書に『医者に手抜きされて死なないための患者力』『もう我慢しない! おしもの悩み 40代からの女の選択』ほか

撮影/島袋智子 イラスト/itabamoe Photo by Torwai/iStock/gettymages  取材・文/増田美加 企画・編集/浅香淳子(yoi)