頻尿やちょこっと漏れに悩んでいる人は少なくありません。“念のため”と頻繁にトイレに行くことが、夜間頻尿に繋がる可能性もあると知っていますか? 女性泌尿器科医に聞きました。

清澄女性泌尿器科クリニック 院長
東京慈恵会医科大学卒業。同大学附属病院泌尿器科に在籍。女性医療クリニックLUNAネクストステージ、対馬ルリ子女性ライフクリニック銀座、四谷メディカルキューブ勤務を経て、2023年現クリニックを開院。日本泌尿器科学会認定泌尿器科専門医・指導医。日本性機能学会認定性機能専門医。日本排尿機能学会認定排尿機能専門医。
突然トイレに行きたくて我慢できない!

増田美加(以下、増田):頻尿やちょこっと漏れが気になる季節だと思います。20代から40代の若い世代にも頻尿の悩みを抱えている人が増えています。1日どのくらいトイレに行くと頻尿なのでしょうか? また、夜寝ている間にトイレに行くのは、頻尿になるのでしょうか?
平本有希子先生(以下、平本先生):頻尿は、尿が近い、尿の回数が多いという症状のことで、一般的には起床時から就寝までの排尿回数が8回以上とされています。しかし、これより回数が少ない場合でも、自分で排尿回数が多いと感じるようであれば頻尿と定義されます。
また、夜寝ている間にトイレに行くことを夜間頻尿と言いますが、夜間、排尿のために1回以上起きなければならない症状と定義されています。ですから、夜間に目覚めて、そのついでに排尿することは夜間頻尿とは言いません。
増田:頻尿で、ちょい漏れがある場合の原因とメカニズムを教えてください。
平本先生:頻尿や、ちょこっと漏れがある方は、「過活動膀胱」の可能性があります。突然、我慢できないほどの強い尿意が現れ(尿意切迫感)、トイレの回数が増える(頻尿)、就寝時に何回もトイレに行きたくなって起きてしまう(夜間頻尿)などの症状が起こります。
また、過活動膀胱には、強い尿意が突然起こって、トイレに間に合わずに尿漏れしてしまう「切迫性尿失禁」の方もいらっしゃいます。 過活動膀胱かどうかは、「尿意切迫感」があるかどうかを基準に診断します。
たとえば、玄関の鍵を開けようとした途端に我慢できない尿意を感じるとか、水道で手を洗った途端に漏れそうになってしまうなど、です。
過活動膀胱の大きな原因は、加齢です。更年期以降、特に閉経後は増えていきます。しかし、若くても冷えや水分の摂りすぎが原因で、尿意を感じやすくなることもあります。
利尿作用のある食べ物や飲み物の摂取やストレス、緊張なども原因になります。 泌尿器疾患の症状として、頻尿が起こる場合もあるため、頻尿で困っているようでしたら、泌尿器科を受診していただくのがいいと思います。
脳血管障害や認知症、パーキンソン病、脊髄腫瘍、多発性硬化症、頸椎症、脊柱管狭窄症、糖尿病性末梢神経障害など、神経に原因がある場合もあります。
【20代~40代に多い頻尿の原因】
ストレス … 不安や緊張などを感じると、尿意が強くなる傾向があります。不安や緊張で頻尿になる場合は、膀胱内に溜まっている尿量が少なくても、尿意を感じやすいです。そのため、会議などでトイレにいつ行けるかわからないときや、近くにトイレがない状況にいると、尿意を感じやすくなってしまいがち。一度失敗した経験があるとそれがトラウマになってしまうことも。一時的な頻尿なら、過度に心配する必要はありません。精神的なストレスによる頻尿で日常生活に支障がある場合は、泌尿器科に相談ください。
利尿作用のある飲食物の摂りすぎ … アルコールや利尿作用があるカフェインやカリウムが多く含まれた食べ物や飲み物をたくさん摂取すると、尿の回数や量が増えます。カフェインは、コーヒーや紅茶だけではなく、緑茶や烏龍茶、ココア、コーラなどにも含まれています。カリウムは、ビールや赤ワイン、トマトジュースにも含まれています。飲み物だけでなく、ひじきや昆布、ニボシなどにも多く含まれています。頻尿に悩んでいる方は、これらを控えることも大事です。
膀胱の弾力の低下 … 女性の膀胱は年齢を重ねるほど、弾力が低下していきます。古いゴム風船がゴムの弾力がなくなり硬くなるのと同じイメージです。そのため、膀胱に溜められる尿量も減ってしまい、頻尿を招くのです。
【頻尿で注意すべき病気】
●膀胱炎、腎盂腎炎、尿道炎 … 細菌に感染することで発症するこれらの病気になると、頻尿になりやすいです。
●子宮筋腫 … 30~40代の女性に多い、子宮内に良性腫瘍ができる病気です。ある程度、筋腫が大きくなると、生理の出血量が増えたり、生理痛がひどくなったりすることがあります。同時に筋腫が大きくなると、膀胱が圧迫されて、頻尿を伴うことがあります。
●心因性頻尿 … 精神的ストレスが原因で起こる頻尿です。膀胱に溜まっている尿が少なくても尿意を感じやすく、トイレに何度行っても、尿がほとんど出ない場合があるという特徴があります。
●糖尿病 … 血糖値が高い状態が続くと、尿量が増えて、頻尿になります。特に糖尿病の人の場合は、高血糖により浸透圧が高くなるため、水分とナトリウムの再吸収が抑制され尿量が多くなります。また、糖尿病が原因で末梢神経に障害が起こることでも頻尿を起こします。
下記の疾患がある方は、神経系のネットワークに障害が起こり頻尿となることがあります。排尿コントロールに必要な神経に障害が起こる頻尿の原因疾患として、脳血管障害や脊柱管狭窄症、糖尿病が挙げられます。
中枢性障害 … 脳血管障害、パーキンソン病、脳腫瘍、認知症など
脊髄・脊椎障害 … 脊柱管狭窄症、脊髄損傷、多発性硬化症など
末梢神経障害 … 糖尿病、骨盤部手術による神経障害など
過活動膀胱は自分でチェックできます

増田:過活動膀胱かどうかは、どのように診断されるのでしょうか? 自分でチェックできる方法はありますか?
平本先生:急にトイレに行きたくなって漏れそうになる、尿意切迫感の症状がよくある場合、過活動膀胱と診断されます。頻尿や切迫性尿失禁(我慢できずに漏れてしまう)なども起こっていると、さらに過活動膀胱の疑いが強くなります。
過活動膀胱の診断については、下記の「過活動膀胱症状スコア(OBASS:Overactive Bladder Symptom Score)」を使ってチェックします。このスコアは、問診時に自己採点で受けていただきます。
また、必要に応じて、尿検査や残尿検査、エコー検査などの検査も行います。その結果、ほかに病気がないことを確認したら、過活動膀胱と診断します。
【過活動膀胱症状スコア(OBASS:Overactive Bladder Symptom Score)】
次の症状がどれくらいの頻度でありますか? 1週間の状態に最も近いものをひとつだけ選び、点数の数字を ○で囲んでください。
1 朝起きたときから寝るときまでに 何回くらい尿をしましたか
・7回以下:0点 ・8~14回:1点 ・15回以上:2点
2 夜寝てから朝起きるまでに 何回くらい尿をするために 起きましたか
・0回:0点 ・1回:1点 ・2回:2点 ・3回以上:3点
3 急に尿がしたくなり 我慢が難しいことが ありましたか
・なし:0点 ・週に1回より少ない:1点 ・週に1回以上:2点
・1日に1回くらい:3点 ・1日2〜4回:4点 ・1日5回以上:5点
4 急に尿がしたくなり 我慢できずに尿をもらすことが ありましたか
・なし:0点 ・週に1回より少ない:1点 ・週に1回以上:2点
・1日に1回くらい:3点 ・1日2〜4回:4点 ・1日5回以上:5点
このスコアで3点以上かつ質問3が2点以上あって困っていれば、泌尿器科を受診して治療することをお勧めします。
産後、肥満、やせすぎの人は要注意です

増田:過活動膀胱を起こすリスクが高い人ってどういう人でしょうか?
平本先生:①産後 ②肥満 ③やせ(筋力低下)の人はリスクが高いです。 特に、出産のときに骨盤底筋が損傷して脆弱化することによって、膀胱を支える靭帯も弱くなるため、出産後は、要注意です。
体重の増加でも、骨盤底筋に負担がかかり脆弱化します。肥満の方は減量をすることで過活動膀胱も改善することがよくあります。また、最近では若い人のやせ過ぎが問題になっていますが、やせで筋力が低下することで過活動膀胱も起こりやすくなります。
やせ過ぎは、全身の筋力だけでなく、骨盤底筋の筋力も低下するのです。 気をつけてほしいのは、腹圧で排尿しないことです。最後まで尿を絞り出そうと、腹圧をかけて出すのはダメです。膀胱が自分で収縮するのを忘れてしまい、過活動膀胱を進行させてしまいます。
増田:ほかに、気をつけるべきことはありますか?
平本先生:日ごろから、自分がトイレに1日何回行くか知っておくことは大事です。排尿日誌を手帳などにメモしておくといいでしょう。
トイレは必要以上に行かず、起きている間は1日7回以下、5~6回にします。わざとまめにトイレに行くようにしたら、夜間頻尿になってしまった人もいます。尿を膀胱に溜めるようにしないと、膀胱が広がらなくなってしまいます。
トイレに行きたくなっても5分でもいいから我慢してみます。これが膀胱訓練になります。拝尿日誌には、水分を摂ったことなども書いてみると、水分の摂り過ぎがわかります。
美容のために、1日2リットル飲んでいる人がいますが、飲めば飲むだけ尿として出るので、頻尿にはなりやすいです。頻尿に困っていなければ問題ありませんが、困っている人は飲み過ぎに注意です。
増田:尿もれパッドを使うのは、どうなのでしょうか?
平本先生:尿もれパッドを使うのはいいですが、つけっぱなしはよくありません。長い会議の前とか、コンサートのときとか、どうしても必要なときだけにしましょう。
最近の尿もれパッドは性能がよく、漏れていても気づかないことがあります。もしも、漏れていたら、骨盤底筋を鍛えて、尿もれを治す努力が尿もれをひどくしないためにも大切です。
治療法はたくさんあります。困ったらぜひ治療を

増田:クリニックではどのような治療ができますか?
平本先生:今はいいお薬がいろいろあります。抗コリン剤(内服薬、パッチ剤)、β3(ベータスリー)受容体作動薬(内服薬)、漢方薬などがあります。
また、保険適用になっているボトックス治療も有効です。ボトックスを膀胱の筋層に注射します。施術時間は10~20分程度で、外来でできます。効果は2~3日後から現れ、効果期間は個人差がありますが、8カ月程度あります。繰り返し注射することも可能です。
もちろん、クリニックでは、先ほど説明した排尿日誌や膀胱訓練もアドバイスします。また、腹筋に力を入れずに腟や肛門を締める骨盤底筋体操も紹介します。女性泌尿器科や婦人科では、骨盤底筋体操を指導してくれる専門家がいるクリニックもあります。
当院では、骨盤底筋体操に熟練した女性看護師がマンツーマンで指導します。 また、自費診療にはなりますが、「スターフォーマー(磁気椅子)」といって、磁気の椅子に座って、弱くなった骨盤底筋を強化して頻尿や尿失禁を改善する治療法もあります。
約30分、洋服を着たまま椅子に座るだけ。治療回数は計8回(週に2回ペース)が推奨されています。骨盤底筋だけでなく、でん部の筋肉や腰部の神経刺激も行えるため、ヒップアップ効果や腰痛治療にもなります。
頻尿やちょこっと漏れは、ご自身が気になって困っていたら、ぜひ女性の泌尿器を専門に診ている女性泌尿器科を受診してください。今はたくさんの治療法がありますので、一人一人に合わせた治療を提案できます。
イラスト/大内郁美 企画・構成・取材・文/増田美加