「劣等感」を抱いてしまったとき、自己批判をやめ、自分自身に思いやりを向けるという考え方、「セルフ・コンパッション」。後編では、今すぐ実践できる具体的なセルフ・コンパッションの方法について紹介します。
公認心理師、臨床心理士
心理学部を卒業後レコード会社へ就職。アーティスト自身が生きづらさを抱える姿を目の当たりにしたことをきっかけに「生きづらさの軽減」をテーマに心理士を目指し心理職公務員に。現在は認知行動療法とスキーマ療法にセルフ・コンパッションを取り入れた手法で、カウンセリングを行っている。著書に、『仕事・人間関係がラクになる「生きづらさの根っこ」の癒し方: セルフ・コンパッション42のワーク』(大和出版)など。
石上先生 セルフ・コンパッションの実践法はたくさんありますが、今回は「気持ちを落ち着かせる」「自己批判をやめる」「自分のよい面に目を向ける」「心の奥の感情に目を向ける」「自分に必要な行動をとる」の5つの項目に分けて、今日からできるアイディアを紹介します。
「気持ちを落ち着かせる」ためのセルフ・コンパッション
今日からできること① 体を優しくタッチする
自分の体に触れることで、安心して落ち着くことができる効果があります。ストレスを感じて感情的になってしまっても、ボディータッチによって「いつでも自分で元に戻れる」と自覚していることが大切です。
例えば、胸の前で腕をクロスさせる「バタフライハグ」。手で鎖骨あたりを優しくポンポンとたたいてみてください。自分で自分を抱きしめると、つらい気持ちが少しずつ和らいでいきます。
会社や学校などの出先で不安な気持ちに襲われた場合は、トイレなどでバタフライハグをして心を落ち着かせるという人もいます。
今日からできること② 安心できる場所を思い出す
心を落ち着かせるためには、安心・安全を感じることが大切です。毎日寝ているベッドや、安らげるリビング、南の島のきれいなビーチなど、心休まる場所を思い浮かべてみましょう。そのときの自分の気持ちや体の変化に目を向けるのも大切です。
「自己批判をやめる」ためのセルフ・コンパッション
今日からできること③ 暗い感情も受け入れる
”劣等感”をはじめ、自分の中のネガティブな感情に気づいて受け入れることは、生きづらさを変えていくために重要なプロセスです。「暗い気持ちでいるのは悪いことだ」と否定するのではなく、「暗い気持ちになってもいいよ」とネガティブな気持ちの存在も認めて、受け入れましょう。
今日からできること④ 1日を振り返り、優しい言葉をかける
1日の最後に、その日誰かにかけてもらいたかった言葉を自分自身にかけてあげましょう。毎日の些細な出来事や気にもとめていなかった言葉も、小さなストレスとして気づかないうちにたまっていきます。自分に優しい言葉をかけて、傷ついた心を癒してあげてください。
「自分のよい面に目を向ける」ためのセルフ・コンパッション
今日からできること⑤ 自分のいいところを書き出す
自分の欠点ばかりに目を向けて劣等感を抱いてしまっている人は、よい面を探して書き出してみましょう。悪い面だけに注目してしまうと、視野は狭くなり自己嫌悪に陥ってしまいます。自分を受け入れるには、よい面も悪い面もバランスよく見る必要があるのです。
今日からできること⑥ 小さいことで自分を褒めてみる
褒められることの積み重ねで自分を認めたり、何かに挑戦したりする力が育ちます。「朝起きれてすごい!」「歯を磨けてえらい!」など、小さなことから練習してみましょう。自分を褒めることで、まわりのことも褒めることができるようになっていくはずです。
「心の奥の感情に気づく」ためのセルフ・コンパッション
今日からできること⑦ 何を大切に生きたいか考える
自分は何に価値を置き、何を大切に生きていくかを考えてみましょう。自分がどうしたいかではなく、他人からどう思われるかに価値基準を置くと、劣等感が生まれやすくなります。どのような自分でありたいかを改めて見つめ直すのも必要な過程です。
今日からできること⑧ 満たされていない想いに気づく
「愛されたい」「認められたい」「必要とされたい」など、心の奥の願望が満たされていないとき、自己肯定ができなくなり劣等感が生まれやすくなります。自分が本当は何を求めているのかを知ることは、どのように自分を大切にすればいいかのヒントになるんですよ。
「自分に必要な行動をとる」ためのセルフ・コンパッション
今日からできること⑨ 心の中の願望を満たすための行動をとる
心の奥の願望に目を向けた後は、それを満たすための行動を考えてみましょう。すぐに行動を取ったり変化が現れなくとも、まず満たされている自分を想像してみることが大切です。
自分を思いやるのも、練習が必要
ーー自己肯定感が低く、セルフ・コンパッションへの一歩が踏み出せなかったり、続けられなかったりする人はどうすればいいでしょうか?
石上先生 思いやりを自分に向けることが難しい場合は、その矢印をまずはまわりの人に向けてみてください。パートナーや家族、身近にいる人にいつもより思いやりの行動を向けることで、自分に優しくするハードルが低くなっていきます。
セルフ・コンパッションは、毎日コツコツと続けていくことが大切なので、少しずつ毎日の生活に取り入れてみてくださいね。