スキルが高くて仕事はできるけれども、言動にトゲがあってチームの和を乱す人物を指す「ブリリアントジャーク」。 自尊心が強く思いやりに欠ける人が職場にいるとき、自分を守り、チームの状況を改善する方法はあるのでしょうか？ 「ブリリアントジャーク」との接し方についても精神科の先生にお話を伺いました。
精神科医
精神科医。広島県生まれ。大阪大学医学部卒業。京都大学大学院人間・環境学研究科博士課程修了。京都大学博士（人間・環境学）。フランス政府給費留学生としてパリ第8大学精神分析学部でラカン派の精神分析を学ぶ。DEA（専門研究課程修了証書）取得。2003年度〜2016年度、京都大学非常勤講師。臨床経験に基づいて、犯罪心理や心の病の構造を分析。著書に27万部ベストセラー『他人を攻撃せずにはいられない人』（PHP研究所）、『職場を腐らせる人たち』（講談社）など多数。
Q1. ブリリアントジャークが起こすトラブル例は？
A1. 一例として、パワハラ的言動が挙げられます。
片田先生：実際に私のところへ相談に来られた方の中に、上司の言動に悩まされている会社員の方がいました。 その上司は非常に優秀で実績があり、いわゆる“仕事のできる”方なのですが、その分、チームのノルマ達成にかなり厳しく、日々「ここで頑張れないなら別の会社に行ったら」「自分が若い頃は寝ずに働いたよ」などと言われた相談者の方は、精神的に参ってしまったのです。
ブリリアントジャークは上司に限らず、同僚・部下であるケースもあり、こうした職場の人の言動に悩まれている方は、決して少なくありません。
Q2. ブリリアントジャークを無視するのはダメ？
A2. 我慢を続けてしまうと、問題がより深刻化してしまう恐れがあります。
片田先生：「できるだけ職場で波風を立てたくない」と、嫌な思いをしていても我慢してしまう人が多いのですが、身近な問題に見て見ぬふりをしてしまうと、後々、もっと大きくなって表面化する恐れがあります。周囲の人が取り返しのつかないほど深刻なダメージを受けたり、同僚の休職や退職によって組織そのものが機能しなくなったりすることも考えられます。
とはいえ、いきなり真っ向から立ち向かうのは得策ではありません。
そこで、職場にいるブリリアントジャークに少しでも歯止めをかけようと思ったら、「ちょっとだけ戦う」ことからはじめてみるのがおすすめです。
例えば、過大なノルマの指示に対しては「誰かと一緒にやらせていただけるならば目指してみます」というように、すべてを拒否するのではなく、部分的に交渉してみるやり方です。「こいつは言いなりにならない」と思わせることができれば、実害を減らすことができるでしょう。
Q3. ブリリアントジャークがいる職場で自分が気をつけることは？
A3. 自分が「イネーブラー」にならないよう気をつけて。
片田先生：「出自や性別に左右されず、その人の持つ能力だけで評価される社会こそがよい」という能力主義の考え方が浸透している会社であるほど、問題行動を起こす人を容認する「イネーブラー（＝Enabler）」も一定数いることが多いのです。
これは直訳すると「可能にする人」で、例えば、アルコール依存症の患者さんに押し切られて酒代を渡してしまう人などが該当します。お酒の購入を可能にして、結果的に依存症という病気を悪化させることになってしまいますね。
同様に、「あの人は仕事ができるから仕方がない」などとブリリアントジャークの問題行動を黙認する人もイネーブラーです。イネーブラーがいると、状況を改善するのはますます難しくなってしまいます。
Q4. ブリリアントジャークへの具体的な対処法は？
A4. 一人で戦わず、仲間を作って対応しましょう。
片田先生：周囲への配慮に欠ける人物に対して、一人で向き合い続けるのは簡単なことではありません。 同僚にブリリアントジャークがいるならば直属の上司に、直属の上司がブリリアントジャークならば別部署の上司に......というように範囲を広げながら、周囲に「実は、こんなことがあったんです」と話してみましょう。あまりに目立つ言動はメモや録音で記録するなどしても◎。正確に情報共有することが大切です。
そのうえで、組織として「これ以上はダメ」というラインをきちんと設定しましょう。そして、ブリリアントジャーク本人は周囲が迷惑している状況に無自覚であるため、対話の場を設けて本人にも伝えておくことができると、被害を未然に防ぐことができるかもしれません。
構成・取材・文／月島華子
