「yoi」ではSDGsの17の目標のうち「3. すべての人に健康と福祉を」、「5. ジェンダー平等を実現しよう」、「10. 人や国の不平等をなくそう」の実現を目指しています。そこで、yoi編集長の高井が、同じくその実現を目指す企業に突撃取材! 第22回となる今回は、たかくら新産業のブランド「だいじょうぶなもの」について、代表取締役社長の高倉 健さんにお話を伺いました。


(左から)高倉 健社長と高井編集長。
◆「だいじょうぶなもの」とは?
「あなたとあなたの一番大切な人に」というキャッチコピーのもと、心から「だいじょうぶ」と思えるものだけを世界中から厳選して届けることをコンセプトにしたナチュラルブランド。ギルティフリーなおやつをはじめとするフードやインナーケア、オーラルケア、ボディケア、ホームケアのアイテムはどれも自然由来100%。おいしさやテクスチャーのほか、サスティナブルな素材や第三者機関のデータ、使い続けられる価格などにもこだわっている。
命を意識する経験から生まれたオーガニックブランド

高井 たかくら新産業では創業30周年を機に、2008年に立ち上げた「made of Organics(メイド オブ オーガニクス)」を「だいじょうぶなもの」ブランドとして集約されましたが、そこにはどんな経緯があったのでしょう?
高倉 メイド オブ オーガニクスが誕生したきっかけは、妻が乳がんを患ったこと、そして彼女が退院した翌日に僕が原因不明の病に倒れたことでした。僕は1カ月入院していろいろな検査を受けましたが原因はわからず、処方された薬は整腸剤だけ。二人で死を意識する時間を経験したことから、「病気にならないカラダづくり」をコンセプトに立ち上げ、オーガニックに徹底的にこだわってものづくりをしてきました。
同時にインナーケアの必要性も強く感じるようになり、2019年に立ち上げたのが国産のインナーケアブランド「だいじょうぶなもの」です。そのタイミングでやってきたのがコロナ禍で。あのとき、ほぼすべての人がヘルスコンシャス、つまり健康がいちばん大事だという価値観に切り替わったなと感じたんです。
オーガニックを突き詰めて価格を上げるよりも、自然由来のナチュラルな成分で安心して買いやすい・続けやすいものにすることのほうが、今のお客さまのニーズにあっているのではないか。そんな思いで、商品開発の軸を「入れるものにどこまで究極にこだわれるか」という挑戦から、「何を入れないか」「どれだけ使いやすいか」という観点にスライドし、ブランドの集約を決めました。
「だいじょうぶなもの」に込めた信念と決意

高井 「何を入れないか」という意味では、甘味料や着色料など、使用していない成分がパッケージに明記されているので、例えば「上白糖を使わなくてもこんなにおいしいんだ」といった気づきも生まれますね。
高倉 ありがとうございます。「だいじょうぶなもの」には、「添加物を入れない」という明確なルールがあります。ご存じない方も結構いらっしゃるのですが、食品パッケージに表記された原材料の「/」以降に書かれているものはすべて添加物です。
もちろん添加物がすべて悪いわけではありませんが、「だいじょうぶなもの」だと胸を張って言えるように自分たちなりのルールを設けています。
高井 たくさんのこだわりが詰まったブランドでありながら、「だいじょうぶなもの」というネーミングはとても柔らかくて素敵だなと感じました。信頼できる友人から「大丈夫だから」って言われたときのような安心感があるというか。
高倉 まさにおっしゃるとおりで、信頼している人に「これは大丈夫だから」と言われたものを使ったとき、もしそれが大丈夫じゃなかったらショックですよね。それぐらい強い信頼と責任を伴う言葉なので正直悩みました。「だいじょうぶなもの」というブランド名は自分たちの信念や決意の表れでもあるんです。
生活の中にある「しょうがない」をひっくり返したい

高井 大きな覚悟を持って名付けられたのですね。おいしさはもちろん、パッケージデザインなども印象的ですが、そうしたこだわりは西武百貨店の企画担当として世界中の“本物”に触れてこられた高倉社長のバックグラウンドも影響しているのでしょうか。
高倉 そうですね。20代から百貨店にいたこともあってファッションや食べること、インテリアも大好きで、自分の中に“こだわらないもの”というカテゴリがひとつもないんです。値段の高い安いではなく、僕は例えばコンビニのお菓子ひとつとっても自分にベストなものを選びたいタイプ。
だから、商品開発を通じて生活の中にある「しょうがない」「そういうもんだ」という価値観を「こうなったらいいな」にひっくり返しているんです。うちの会社は、新製品をつくるときにマーケティング調査も事業計画も一切やりません。というのも、“日本初”とか“日本唯一”といったものをつくるので、いつ完成できるかわからない(笑)。
高井 時代の流行り廃りではない、確固たる信念に基づいてものづくりをされていらっしゃるのですね。
高倉 ものづくりの軸になるのは「自分が欲しいもの」であること。これに尽きます。僕は商品をつくるとき、世界一嫌な消費者であろうと思っているんですよ。「これって本当?」「この表記はちょっと誤解されるんじゃない?」みたいな視点をつねに持ちながら徹底的にこだわってつくりあげる。きっとそういうものを欲しい人がたくさんいるだろうと思って30年やってきました。
買い物は投票。社会の価値観を変えられるのは消費者だけ
高井 高倉社長は若い世代や起業家の教育も無償で行われているそうですが、どんなお話をされるのですか?
高倉 起業ブームの中で失敗する人をたくさん見ているので、いつも「人にはそれぞれ持ち分がある」という話をします。ゼロから何かを生み出すことが得意な人や1を10に広げるのが得意な人、サポートが得意な人…社会にはいろいろなタイプの人がいますよね。
起業家って素敵に見えるかもしれないけれど、それは外から見た勝手なイメージ。起業家になることにこだわるよりも自分が得意なことで社会にかかわっていけばいい。そんな話をしながら、具体的な相談には思いつく限りのアドバイスをします。
高井 人にはそれぞれ力を発揮できる場があると思えたら、心が楽になりそうですね。最後に、今後のビジョンについてもお聞かせください。
高倉 僕はずっとまじめに「世界中の人を健康にしたい」と思っています。世の中の「しょうがない」をなくして、本当にいいものをつくっていきたい。それを理解してくれる人が増え、いろいろな業界に波及させることで価値観をひっくり返したい。
でも、本当の意味でそれができるのは、企業ではなく消費者なんです。よく「買い物は投票だ」とお話ししますが、消費者が声を上げたり行動したりしなければ企業は変わりませんから。
高井 何を選び、どこに自分のお金を支払うかという意思表示が社会を変えるのだということを、私たちが自覚することは本当に大切だと思います。
高倉 そうなんです。そしてもうひとつ、「だいじょうぶなもの」という言葉と一緒に、「百年はちみつグミ」や「百年はちみつのど飴」といった食品系のアイテムを世界に広げたいと思っています。昨年から今年にかけてロンドンやアメリカのスーパーなどに飛び込み営業をしたら超ポジティブな反応をもらえたので、希望が確信に変わりました。
高井 「だいじょうぶなもの」はすごくいいキーワードになりそうですね! 今後の広がりが楽しみです!
取材を終えて…
私が大学生の頃、西武百貨店に足を運ぶといつも新しい発見がありました。当時、それを創り出していたのが高倉社長。そして今再び、私たちに新しい世界を開いてくれるのが「だいじょうぶなもの」ブランドです。
頭でガチガチに「オーガニックじゃないと!」と考えて選ぶのではなく、食品のおいしさや製品の心地よさで自然に選び取る、そんなプロダクトのありかたが、なんて素敵なのだろうと感じ入りました。
“世界一嫌な消費者”は、“世界一愛のある生産者”です。高倉社長のキラキラと輝く瞳を拝見していたら、「こんな人になりたい!」と心から思いました。(高井)

撮影/露木聡子 画像デザイン/齋藤春香 構成・取材・文/国分美由紀 企画/高井佳子(yoi)