yoiの人気カルチャー企画『ウィークリーエンパワメント』連載。毎週、素敵なエンパワメントワードとともに紹介される本、漫画、音楽、映画作品の数々が、私たちの背中を押してくれています。今回は、7/30の国際フレンドシップデーに寄せて、本連載のスペシャル企画をお届け。

「『友達って最高!』っていう作品は世の中にたくさんあっても、友人との関係に悩んでいたとき、ほかの選択肢に気づかせてくれる作品に出合うのは難しかった。だからこそ、多様な友情のあり方に向き合う作品を紹介したい」と話すのは、音楽のレコメンドを担当するライターの海渡理恵さん。カルチャー作品を通して海渡さんが見つけた、心地よい“私と友達”のあり方とは?

“ずっと友達”に疲れたら? 友人関係に悩んだときにおすすめのカルチャー作品3選【国際フレンドシップデー】_1

海渡理恵

ライター

海渡理恵

yoiの『ウィークリーエンパワメント』連載での音楽レコメンド担当をはじめ、女性誌を中心に活躍。アジアのエンタメカルチャーに詳しく、K-POPを中心に、国内外のアーティストインタビューの経験が豊富。また、ライフスタイルやフードなど、カルチャー関連の記事も数多く執筆している。

“Best Friend Forever”の理想にとらわれていた20代

“ずっと友達”に疲れたら? 友人関係に悩んだときにおすすめのカルチャー作品3選【国際フレンドシップデー】_2

コロナ禍になってすぐに30代を迎えた海渡さん。20代後半頃からキャリアや環境が目まぐるしく変わっていくなかで、友達との関係にも変化を感じていたそう。それは、“不変の友情こそ素晴らしい”という固定観念への違和感でもありました。

「新社会人として上京した20代は、自分が進むべき道を無我夢中で模索するなかで、友達はかけがえのない存在でした。特に、仕事の話が合う友人とは、多忙を極めるなかでも毎日のようにメッセージしたり、SNSでもお互いの近況をチェックしたり、少しでもタイミングが合えば会って励まし合ったり。そうして成長し合える友情をずっと長く続けていきたいとも思っていました。

ところが、30歳を目前にしてそれぞれの職種や働き方が変わっていくと、ちょっとした言葉のすれ違いをマイクロアグレッション(無意識の攻撃性)に感じたり、メッセージが来たらすぐに返信しないといけないことにプレッシャーを感じるように…。さらに、コロナ禍に入ると、相手が落ち込んでいても支えきれない自分を責めるようにもなりました。精神的な不健康さを感じながらも、“BFF(ベストフレンドフォーエバーの略語)”という言葉のように、友達は“続けることに意味がある”と思っていたので、そのしんどさからなかなか抜けられなかったんです」(海渡さん、以下同)

“アンフレンド”はピリオドではなく、カンマを打つこと

そんなとき、ある言葉に出合ったことで、自分の中でとらわれていたしがらみに気づいたといいます。

「“Unfriend(アンフレンド)”です。おもにSNSでフォローをはずすことを指す言葉ですが、リアルな人間関係においても、よりウェルビーイングなつき合い方やメンタルヘルスを守るための選択肢として、今注目を集めている言葉だと知りました。ケンカ別れしたり絶交したりするわけじゃない、ポジティブな選択肢としての“友達との距離の置き方”って誰も教えてくれない。でも、友情に限らず、生きていくなかで人との関係は変わっていくのが自然だと気づいたんです。

“不変の友情”も素晴らしいけれど、自分のメンタルヘルスに向き合ううえでは、もっと自由で多様な友人関係のあり方が必要だと思いました。その選択肢のひとつとして、アンフレンドがあってもいいはず。それに、アンフレンドは友だち関係にピリオドを打つことじゃない。お互いにとって適切な距離を見直すためのカンマを打つことだと思うんです」

多様な人とのつながり方を教えてくれたカルチャー作品3選

“ずっと友達”に疲れたら? 友人関係に悩んだときにおすすめのカルチャー作品3選【国際フレンドシップデー】_3

アンフレンドという選択肢を持ったことで、メッセージのやりとりやSNSをチェックする頻度をぐっと減らし、自分の気持ちや時間を優先できるようになった海渡さん。友人たちと一定の距離を置くようになったことで、まわりとの働き方や価値観の違いにプレッシャーを感じることなく、お互いを尊重する心の余裕ができるようになってきたともいいます。ところが一方で、近しかった人と距離を置くことには少なからず寂しさも感じていたそう。

「自分にとって必要な選択だったとはいえ、こうした悩みに向き合うことについて、共感できるロールモデルがもっとあればいいのにという思いが募りました。そんな私の思いを救ってくれたのは、やはり音楽をはじめとするカルチャー作品でした。しかし、たくさんの作品に触れるなかで気づいたのは、世の中には『友達って最高!』っていう作品のほうが圧倒的に多いこと。だからこそ今回、国際フレンドシップデーを機に、私が救われた作品をレコメンドすることで、今悩んでいる人を少しでもエンパワメントできればと思ったんです」

1. 細野晴臣氏のドキュメンタリー映画『NO SMOKING』(2019)

『NO SMOKING』特別映像

「デビュー50周年を迎えた音楽家・細野晴臣さんの軌跡と創作活動に迫ったドキュメンタリー。『エイプリル・フール』『はっぴいえんど』『イエロー・マジック・オーケストラ(YMO)』など、時代ごとにいくつものバンドで活動を展開してきた細野さんの人生をたどると、“大切な人との関係を保つ秘訣は、変化を受け入れること”だと気づかされます。

細野さんとさまざまなアーティストとの交流の模様も映し出されている本作。環境やライフステージによって、相手はもちろん、自分自身の興味・関心や価値観が変化するのは当たり前のこと。そのときにお互いの変化を認め合い、それぞれが心地よいと感じる距離感を大切にすれば、友情は何十年でもゆるやかに続いていくことを教えてもらいました」

2. THE 1975の楽曲『How To Draw / Petrichor』と『The Birthday Party』

「今年8月に開催される『SUMMER SONIC 2022』への出演、10月には新アルバム『Being Funny In A Foreign Language』のリリースを控える、UKを代表するバンド、The 1975。現代社会が抱えるあらゆる問題を描写した楽曲を多く生み出しています。そんな彼らの曲から、SNSの“いいね”やコメントを通しての友人のコミュニケーションにうんざりしたり、友人の投稿に気持ちが乱されたり…オンライン上で友人とつながることに疲れたときに聴きたい2曲をレコメンド」

The 1975 - The Birthday Party

✔︎ アルバム『ネット上の人間関係についての簡単な調査』(2018)収録『How To Draw / Petrichor』
「メディテーション音楽のような心地よいサウンドからスタートする楽曲。〈Don’t let the internet ruin your time〉というフレーズが、SNSと距離を置いてみることの大切さを思い出させてくれます」

✔︎ アルバム『仮定形に関する注釈』(2020)収録『The Birthday Party』
「この曲のMVでは、フロントマンのMattyのアバターが、『マインドシャワー』という名の施設で、自分を取り戻すためにデジタルデトックスをする様子が描かれています。MVの冒頭では、“あなただけの旅を始めて、本当のあなたを見つけましょう”、“デジタルデトックスをして自身の主導権を自分に戻しましょう”というメッセージが。オンラインコミュニケーションに心をかき乱されないためには、自分で自分を冷静にコントロールすることが重要だと気づかされます」

3. Arlo Parksのアルバム『Collapsed In Sunbeams』(2021)

Arlo Parks - For Violet (Official Lyric Video)

「良好な友人関係は、自分自身のメンタルヘルスが整っていないと築けない。もし、距離感の近すぎる関係に疲れてしまったときは、まるで耳元でささやくように歌い、心をなぐさめてくれるArlo Parks(アーロ・パークス)のアルバムを。そのなかでも、友情に境界線を引くことを肯定してくれる『Bluish』と、自分を守りつつつらい状況にいる友人を助けるにはどうすればよいかを歌った『For Violet』、そしてエンパワメント連載でも紹介した『Hope』もおすすめです」

人とのつながりに必ずしも肩書は必要ない。ゆるやかなつながりへ

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これらの作品を通して、「友達だから〜」という型にはめられることなく、自分と相手の心を大切にしながら関係を築くことができはじめたという海渡さん。それは、「友達」という肩書にすらしばられない、もっと曖昧でゆるやかな関係だといいます。

「人との関係って“名前がないと成立しない”わけじゃないと気づきました。逆に名前があると、『家族/恋人/友達だからこうあるべき』っていう社会から刷り込まれた理想にしばられやすいんです。だから、今は肩書のないつき合い方を築こうとしている最中で、それがとっても面白くて。

お気に入りのカフェに通い詰めて、社会問題に詳しいオーナーさんと仲良くなったり。ワーケーションを兼ねた旅先で出会った人と仕事の話をしたり。行きつけの古着屋さんの店主に、ファッションのことを教えてもらったり。必ずしも『友達』と言える関係でなくても、自分の知的好奇心や興味・関心の世界を広げてくれる人は世の中にたくさんいます。もちろんトライ&エラーの繰り返しですが、より多様な人間関係からインスパイアされる経験が、今の自分を成長させていると感じます。そして、今はアンフレンドの関係になっている友人とも、またいつかぐっと距離を縮める日が来るかもしれない。そのときは、もっと素敵な友人関係を築ける自信があります」

海渡さんがおすすめするカルチャー作品、そして国際フレンドシップデーをきっかけに、今の自分にとってヘルシーで心地よい友人関係について考えてみませんか?

企画・編集/高戸映里奈(yoi) Photos by Softulka/istock/Getty Image plus