マインドフルネスやメンタルヘルスを高める手法として最近注目されるようになった「ジャーナリング」ですが、実際どんなことをするの? と思っている人も多いはず。そこで今回、15歳からジャーナリングを続けるヨガ講師・ウェルネスメンターの吉川めいさんに、その意味や目的、やり方のポイント、私たちの心や生活にもたらしてくれる効果について教えていただきました!

吉川めいさん

「ジャーナリング」が”書く瞑想”といわれる理由

――まず、「ジャーナリング」とはどんなことをするのか、どんな目的でするものなのかを教えてください。

「ジャーナリング」という言葉をシンプルに日本語訳すれば「記事を書くこと」なのですが、最近メンタルヘルスの観点から注目されているジャーナリングは、書くことで心の整理をしたり見直したりする、という意味が含まれています。目には見えない自分の意識や心の中にあるものを、紙の上にアウトプットすることで、自分の「心の洗い出し」をすることがジャーナリングの大きな目的です。

ジャーナリングをするときに重要なのは、ど素直にど直球に、きれいにまとめようなどと考えず、ただ手に書かせてあげること。今、自分が考えていることがなんなのかわからなければ「わからない、わからない…」と書いてください。ほとんどの方が最初は不慣れだし、「こんなことして効果あるのかな」と思うんですけど、そのうち「わからないけど、何かにムカついている」「わからないけど、不安になっている」と、だんだん違う感情が出てくることに気がつきます。いざ書きはじめたら、すごい勢いで何ページも書いてしまったという人も。それで「私、こんなに吐き出したいことがたまってたんだ」と気づくんですよね。

吉川めいさん

――「瞑想」というと目を閉じてじっと心を観察するようなイメージがあったのですが、ジャーナリングが「書く瞑想」といわれるのはなぜですか?

まず瞑想とは何かを簡単に説明すると、“心を静かにする”ということ、そしてその“静かな状態を保持する”ことです。そのためには、“静かなまま観察している”ということにフォーカスしつづける必要があります。ところが、多くの人は、瞑想をしてみましょうと始めてみると、5分くらいでだんだん「このあと買い物行ったほうがいいかな」とか「仕事先へ連絡しなきゃ」などと、あれこれ考えだしてしまうんですね。これは“静かなまま観察しつづける”ことへの集中が切れてしまうから。瞑想の入り口には、まず集中があります。

そうはいっても、私たちは普段の暮らしのなかでトレーニングをしていないので、集中を保持しつづけることが難しい。そこで役立つのが“書く”ことです。

例えば、「『愛』と書きつづけてください」と言われて、書きつづけていると、そのあいだはしばらく「愛」のことだけに意識をフォーカスしつづけることが可能になります。さらに、書きつづけていると今度は、「愛」以外のことについて考えてしまった自分にもハッとします。「あ、今『愛』と書いているのに、『上司ムカつく!』と考えてしまっているな」とか(笑)。書きつづけることで、自意識がより際立ってくるんです。

――“書く”ことで自分の意識に集中する、まさにマインドフルネスの状態が作れるのですね。メンタルヘルスの観点から注目される理由もわかってきました。

そうですね。マインドフルネスというのは、自分を観察する意識を持ち続ける、気づきの意識「Awareness」を持ちつづけるということです。そしてこの気づきの意識は、メンタルヘルスや、心のよりよいバランス、自分のウェルネスを検討するのに必要不可欠なもの。最近、メンタルヘルスやマインドフルネスが注目されるようになるなかで、ジャーナリングは瞑想よりもより手軽で身近なAwarenessの手法として、興味を持つ人が増えているようです。

瞑想する吉川めいさん

ジャーナリングの前には、少しの時間目を閉じて、心を落ち着かせてからノートに向かうのがおすすめだそう

ノートは自分だけの安心安全な場所。15歳から始めた“書いて吐き出す”こと

――そもそも吉川さんがジャーナリングを始めたきっかけはなんだったのでしょうか?

きっかけは、14歳のときに両親の離婚を経験し、行き場のない思いをノートに吐き出しはじめたことからです。当時の私は、それまで信じていた家族や愛のあり方が失われたことがものすごくショックで、でもその気持ちを友達にも、先生にも話すことができずにいました。離婚後の母と2人で暮らすことが難しい時期もあり、歳の離れた姉の家に居候をしていたこともありました。当時は、スーツケース2つに自分の人生を全部詰め込んで、渡り歩いていたんです(笑)。

そういう不安定でよるべない環境のなかにいたら、誰しも自分の頼れるものを探すと思うんですが、そこで私が見つけたのは、小さい頃から好きだった「書くこと」。ノートを広げると、自然と自分の気持ちをアウトプットできたんです。ノートは自分にとって安心安全な場所。自分の存在の確認場所にもなっていたように思います。

吉川さんのジャーナリングノート

この日、吉川さんが持ってきてくれたのは、15歳から今までの28冊のジャーナリングノート! 「表紙も大きさもバラバラだけど、そのときの自分が現れているかも」と吉川さん

吉川さんのノート

表紙には、「自分を見つめるLOG BOOK」。自分の軸を観察しつづけることをテーマにしたノートだそう

吉川めいさんが伝授! 自分の本当の声に気づくジャーナリングの始め方

ジャーナリングを始めたい! と思ったら、まずどんなことをすればいいのでしょう? 吉川さん流のジャーナリング方法を教えていただきました。

吉川めいさん

●まず用意するものは?

ペンとノート、あとは邪魔の入らない静かな環境があるといいですね。特別なセッティングはいりませんが、自分が凛とした状態で書くことに臨めるような場所やノートを選んでください。また、決まった場所、決まったノートで行うほうが、ジャーナリングへと自然と気持ちが向かうリズムをつくりやすいと思います。ただ一方で、ペンとノートさえあればどこでもできるのもジャーナリングのいいところ。旅先で、その環境のなかでどんなふうに自分が変化するのか観察するのも面白いですよ。

初心者の方は、ジャーナリングのプログラムに参加してみたり、ジャーナリング専用のノートを使ったりするのも手です。「こういうものなんだ」と理解してから自分流にアレンジしていくと、無理なく始められると思います。

●初めに何を問いかければいい?

ひとつめは、「わたしは今、何を感じているの?」

最初のクエスチョンは、今の自分の気持ち。モヤモヤやむしゃくしゃ、悲しい気持ちなどをすべてわーっと書いて、まずは自分の気持ちを吐き出しましょう。ここで大切なのは、最初にもお伝えしたとおり、とにかく格好つけず、ど素直に、ど直球で書くこと。そして、すっきりしたと感じるまで書ききってください。

ノートと手元

ふたつめは、「なぜ、そう感じているの?」

ひとつめの問いかけに対してすべて吐き出しきれたら、この「なぜ?」を投げかけてみてください。すると、「本当はこうなってほしかった」「こうなるはずじゃなかったのに」という、モヤモヤや、むしゃくしゃの元となった理屈や観念が出てきます。自分の感情がどんな理屈や観念の上に成り立っているのかに気づくための問いかけです。

みっつめは、「もしもこの観念が絶対的でなかったら? この観念を変えてみたら?」

ここでポイントとなるのは、ふたつめまでの問いかけに対して、新しい視点を探ることです。「こんなはずじゃなかった」という、自分がすべてだと信じている理屈を「でも、そんなこともないんじゃない?」と問いかけると、拍子抜けするんですね。「あれ? もしかしてここにこだわる必要ないのかも」と気づくと、ひとつめで書いたモヤモヤやむしゃくしゃの感情が、また別の感情に変わったり、すっきりしたりするはずです。

むしゃくしゃしたら24時間以内に! ジャーナリングを深めるコツ

最初は、毎日5分だけとか平日だけとか、決めたリズムをキープして継続していただくと、そのなかで浮き彫りになってくる自分の心の変化が見えやすくなります。慣れてきたら必要に応じて行うのでも構いません。私の場合は、なにかむしゃくしゃしている! と感じたときに、その原因を明確にするため、24時間以内にジャーナリングすることにしています。

心を落ち着けてノートに向き合えるように、空間にアロマを香らせることもあります。私がよく使うのはジャスミンサンバック。ヨガを学びに行っていた南インドを思い出す、とても心が落ち着く大好きな香りです。アロマは効果効能にこだわりすぎず、その日の自分の気分で選ぶのがいいのではないでしょうか。

吉川めいさん

――吉川さんの主宰する「Veda Tokyo」では、「書く瞑想」のプログラムがあるんですね。

はい。毎月、第1土曜日に開催しています。毎月の自分の見直しに活用いただいている方も多いですね。コロナの状況下で、10年間南青山で続けてきたスタジオをクローズして完全オンライン化しようと決めたとき、これからは生徒さんに、自分の力で自分の心地よさを見つけてもらわないといけないと思ったんです。ですから、「Veda Tokyo」では「自分軸を持つ」ということをいちばん大切に考え、自分の軸を見つけるために最適なジャーナリングのプログラムを取り入れることにしたんです。

参加した方からは、「自分の大切にしたいものが何かわからなくなってしまい、不安を感じていましたが、書く瞑想でクリアになりました」「視点が変わったことでまわりへの対応が変わり、自分だけじゃなく家族や子供たちも恩恵を受けています」といった声をいただき、毎回泣いてしまいます(笑)。

吉川めいさん

本当に求めていることは何? ジャーナリングで自分を知ろう

――ジャーナリングを習慣化することで、自分との向き合い方、つき合い方が大きく変わりそうですね。

朝、目を覚ましてからまず何をするかというと、スマホを見るという人が圧倒的に多いですよね。すると、メールにSNS、ネットニュースなどから情報がワーっと流れ込んできますが、それらはすべて“自分ではない誰か”がキュレーションした情報です。それから、普段、「仕事先に迷惑かけないように」とか「パートナーや子どもを優先しなきゃ」などと、まわりに合わせながら生きている人もとても多い。こうして考えると、私たちは、自分を主軸にして考える時間が圧倒的に少ないんです。

「Veda Tokyo」のプログラムでも、これまで自分が何を求め、何をしたいのか、今日何を着て、どこへ行きたいか、改めて自分に聞いてみたことって実はなかった、という人がたくさんいます。誰にも合わせる必要のない、誰にもジャッジも批判もされない、なんの制限もない場所でそんな質問を問いかけてみると、きっと自分の本当に求めていることや、やりたいことが見えてくるはず。現代人にとってジャーナリングは、自分を取り戻すための特効薬だと思うんです。

吉川めいさん

――今、モヤモヤや不安を抱えている方へ、ジャーナリングをメンタルヘルスのために有効に使うためのアドバイスをお願いします。

ジャーナリングを続けるなかで、きっといろんな自分の感情や思考を知ることになると思うんです。でも、不安にならなくて大丈夫。「自分はこう感じているんだな」と受けとめ、自分を信じてあげてください。

そうしているうちに、だんだんひとつの思考に執着しなくなり、視点も心構えも変わっていきます。その変化が波紋となって、今度は家族や友人や会社の上司など、まわりの人も変えていくんです。

ジャーナリングを始めたら世界が変わったと驚く人も多いのですが、それはあなた自身の力です! と伝えたい。そう、セルフエンパワメントというのは、自分で自分を信じることから始まります。自分の感覚を信じること、自分の決断を信じること、自分の思いを信じること。そのために、まずは自分を知ることがとても大切なんです。

吉川めい
吉川めい

Veda Tokyo主宰、ウェルネスメンター。日本で生まれ育ちながら、幼少期より英語圏の文化にも精通する。母の看取りや夫との死別、2人の息子の育児などを経験するなかで、13年間インドに通いつづけて得た伝統的な学びを日々の生活で生かせるメソッドに落とし込み、自分のなかで熟成させた。ヨガ歴21年、日本人女性初のアシュタンガヨガ正式指導資格者であり『Yoga People Award 2016』ベスト・オブ・ヨギーニ受賞。adidasグローバル・ヨガアンバサダー。

Veda Tokyo
Veda Tokyo

変化のときの自己探求型ラーニングサービス。 自分自身をよく知り、呼応するためのヒントを伝え 「心身の本質」にアプローチする独自プログラムを提供する。

「書く瞑想」プログラムは毎月第1土曜日に開催。

40分ほどのプログラムの中で、テーマとなったインスピレーションワードをもとに3つの視点から書き出していく方法を学ぶことで、モヤモヤしていた不安や悩み、そして感情に気づいたり、また、日々続けていくことで自分の「クセ」も発見できる。
https://vedatokyo.com/

取材・文/秦レンナ 撮影/長田果純