仕事、人間関係、恋愛、健康…、毎日を過ごす中で、なんだかモヤモヤと心が重くなることって、ありますよね? 心が疲れたら、ひと息ついてもいいんです。臨床心理士のみたらし加奈さんと、ちょっと甘いものでも食べながら、お話しませんか? メンタルヘルスをもっと身近に考えるためのヒントをお教えします。

臨床心理士・みたらし加奈の、毎日を生きやすくするブレイクトーク。「ちょっと甘いものでも。」1.【前編】_1

この連載では、みたらしさんがみたらし団子になってお話します。

みたらし加奈

臨床心理士

みたらし加奈

総合病院の精神科で勤務したのち、ハワイへ留学。帰国後は、フリーランスとしての活動をメインに行いつつ、SNSを通してメンタルヘルスの情報を発信。現在は一般社団法人国際心理支援協会所属。NPO法人『mimosas(ミモザ)』の副理事も務める。著書に『マインドトーク あなたと私の心の話』(ハガツサブックス)がある。

今回の相談者さん
マフィンさん(仮名)

マフィンさん(仮名)

30代。元看護師。現在は学生時代の留学経験と看護師の経験を生かして、医療翻訳の仕事をしている。夫と二人暮らし。

1.【前編】 働き方にモヤモヤし続けているうちに30代半ばに。 何度転職しても「思っていたのと違う」と感じてしまう……。

今回ちょっとひと息つきにきてくれたのは、30代の女性、マフィンさん(仮)。語学系の大学を卒業後、オーガニック食品会社で販売を1年経験し、その後退職。看護学校に通ったのち、看護師として総合病院に勤務しました。そして、昨年末に5年間勤務した病院を離れ、今年2度目の転職を経験。大学時代に培った英語と5年の実務経験を持つ看護の資格を生かして、現在は医療翻訳の仕事に就いています。しかし、なかなか「これ!」という仕事に巡り合えず“モヤモヤ”が募っているそう。まずは、みたらしさんが、マフィンさんの「心のうち」とゆっくり対話をはじめました。「これ!」という仕事に巡り合えず“モヤモヤ”が募っているそう。まずは、みたらしさんが、マフィンさんの「心のうち」とゆっくり対話をはじめました。


※これから行われる対話はカウンセリングではありません。

マフィンさん これまで2回転職をしているんですが、思い描いていたような仕事になかなかたどり着けず…モヤモヤしているんです。

みたらしさん 話せる範囲で大丈夫ですので、転職の経緯を教えていただけますか? 

マフィンさん 新卒のときは、大学時代の留学をきっかけに農業や食育に興味を持ち、食品会社への就職を決めました。今でこそ広く普及していますが、当時はオーガニックフードやヴィーガンといったものが日本ではほとんど浸透していなくて、健康や食の持続可能性などについて考えながら食べるものを選ぶという思想に感化された私は、「これだ!」と突っ走ってしまったんです。それまで語学関係の仕事を希望していたので、周囲からは「語学を使わなくていいの?」、「本当にそれがやりたいことなの?」と反対されてたんですけどね…。その時は聴く耳を持てなくて。

みたらしさん 食品会社では、どんなところにモヤモヤしたんですか?

マフィンさん いざ働きはじめてみると、事前に聞かされていた食育に関わるような事業はまったくやっていなくて。「仕事の内容が思ってたのと違う」と相談したら部署を変えてくれたりして、親身になってくれる会社ではあったんですが…「このままいてもモヤモヤするだけだな」と思い、1年くらいで退職しました。

友人たちのアドバイスに耳を傾けず、その時の感情の盛り上がりで最初の仕事を決めてしまったことを後悔している様子のマフィンさん。そこで、改めて語学系の仕事を探すのかと思いきや、彼女が次に選んだのは「看護」の道でした。

臨床心理士・みたらし加奈の、毎日を生きやすくするブレイクトーク。「ちょっと甘いものでも。」1.【前編】_2

みたらしさん 退職後、看護学校に通おうと決めたきっかけはなんだったんですか?

マフィンさん 気持ちの糸がプツッと切れてしまった感じで辞めたので、転職先については考えられていなくて…。一度は語学を使える職を探したんですが、中途採用となるとかなりの実務レベルが求められてしまう。ちょうどリーマンショックの頃だったこともあり、なかなかうまくいきませんでした。そんなとき、看護師だった母から「何か資格を取ったら?」とすすめられたことで、「看護師」という選択肢ができたんです。看護の資格があれば食いっぱぐれることはないし、国境なき医師団など、語学が生かせる可能性もあるかもしれないという気持ちもあって。

みたらしさん 食品業界から医療業界へ、会社勤めから看護師という専門職へと、その転身はマフィンさんにとって大きなものだったと思います。なかなか簡単にできる決断ではないですよね。

マフィンさん コツコツと勉強するのは得意だったし、実習までは「看護師なら続けられるかな」と思ったんです。ただ、いざ業務に入ってみると、仕事が単調に感じてしまうことがあって。朝病院に着いたらカルテを見て、先生からの指示を確認して、巡回して、検温して、ナースコールに対応して…それが永遠と続いていくんじゃないかって疲れてしまったんです。結局、5年続けてもやりがいが見出せませんでした。追い討ちをかけるように異動やコロナ渦の影響も重なって、心身ともにすっかり疲弊しきっちゃったんです。

リーマンショックによる就職難、実力不足の壁、親からのアドバイス……。マフィンさんが看護師を選んだのは、さまざまな偶然が重なったことも大きかったのかもしれません。とはいえ、看護学校に通ってまで資格を取ったにも関わらず、2度目の転職に踏みきることとなります。

臨床心理士・みたらし加奈の、毎日を生きやすくするブレイクトーク。「ちょっと甘いものでも。」1.【前編】_3

みたらしさん マフィンさんは看護師としてのお仕事でルーティンを見つけつつ、同時にそれに疲れも感じてしまっていた。しかし、5年続けていたお仕事を変えるのは勇気のいることかもしれません。2度目の転職は、いかがでしたか?

マフィンさん 語学力と看護の経験を生かして、今度は「ヘルスケア」に関する仕事に携われたらいいなと思って就職活動をしたんです。ただ、また転職活動でつまずいてしまって…。いいなと思っても縁がなかったり、希望の職種になかなかたどり着けなかったり。最終的に、外資系の医療翻訳の会社に就職を決めたのですが、モヤモヤは今も晴れないままです。英語も使うし、看護の知識も役には立つけれど、どちらも必須のスキルではなかったというか…。自分のキャリアを存分に生かして輝ける、想像していた仕事ではなかったことに、またもやがっかりしてしまいました。

みたらしさん そうなんですね。仕事を探すときの「基準」みたいなものがある方は多いと思いますが、マフィンさんにとって「ここが大事だな」と思う部分はどういうところですか?

マフィンさん そうですね…。自分にとって何が大事なのか、わかっているようでわかっていないのかもしれません。まだ向き合いきれていなくて…。

みたらしさん では、マフィンさんが子どもの頃や学生時代に想像していた「将来の自分像」と「現在の自分」には違いがありますか? それとも、想像していた通りの大人になっていると思われますか?

マフィンさん 子どもの頃は、30代の自分はバリバリのキャリアウーマンになっているだろうと想像していました。好きなことをガンガンやっている女性に憧れがあったんです。だから、今の自分にギャップを感じているのかもしれない…。

話している間、幾度となく「自分と向き合いきれていないのが悪い」と口にしていたマフィンさん。「自分で選んだのに」「留学までしたのに」「看護師資格も取ったのに」。そんな言葉に追いつめられてきたのか、終始自信がなさそうだった彼女から、「バリバリのキャリアウーマンが理想」という思わぬキーワードが出てきました。ここから少しずつ、マフィンさんの本音が見えてきます。

臨床心理士・みたらし加奈の、毎日を生きやすくするブレイクトーク。「ちょっと甘いものでも。」1.【前編】_4

みたらしさん もしかするとマフィンさんをモヤモヤさせているものの中には、「理想と現実のギャップ」があるのかもしれないなと感じました。もちろんどちらも大切ですが、理想と現実のグラデーションの中で納得していく作業も必要かもしれません。ちなみに、差し支えなければですが、パートナーさんとは共働きですか? それともマフィンさんが働かれている?

マフィンさん 二人とも働いています。

みたらしさん もしかしたらマフィンさんには、「働く」、「働かない」というふたつの選択肢があるかもしれない。そこで「働く」を選ぶ理由を教えていただけますか?

マフィンさん
 夫の収入だけでもある程度やりくりすることは可能だと思うんですが、働く女性への憧れもありましたし、買い物をしたり食事をしたり、干渉されずに好きなことにお金を使いたくて。自分の自由のために働きたい、という気持ちのほうが強いですね。

みたらしさん そうなんですね。「自分の自由のためにお金を稼ぐ」という理由、すごく共感をしました。ひとつ気になったのが、マフィンさんのお話をうかがっていると、その中にも「やりがい」であったり「好み」があるように感じました。そのあたりはどうですか?

マフィンさん そう言われてみると…。それが仕事に結び付けていいものかわからなかったものの、「こういう仕事に惹かれるな」というのはいろいろあった気がします。いつも「次は失敗しないように」という思いが先行して、「本当に自分が働き続けたい仕事なのか」「自分はなにが好きでなにを突き詰めていきたいのか」という想像力に欠けていたかもしれません。しかも、「最初の就活時にもっと自分と向き合っていれば違ったんじゃないか」とか、今は仕事が面白くなくて、「看護師をもう少し続けていればよかったかな」とか、過去を振り返ってタラレバばっかり考えちゃったりして。

みたらしさん 理想とする自分の姿、仕事の内容、そして働き方。いろんなモヤモヤのループから抜け出せなくなってしまったんですね。マフィンさんは「自分のことはわからない」とお話をしてくれました。しかしお話を聞いていると、マフィンさんはマフィンさんにとっての最善の選択を直感的に選んでいるような側面もあるかもしれません。看護師は5年“も”続けられた。食品会社に勤める際に健康に関心を持ったことで、そこから一貫してヘルスケアへの興味も続いている。個人的にはひとつの勤務先で5年続けるのってすごいことだと思いますよ。そのうえ、「ヘルスケア」というマフィンさんのキーワードも見つけられた。ご自身と向き合い続けて模索してきたからこそ、専門性の高いスキルや経験を得ることができているのではないでしょうか? 確かに「失敗」は怖いですよね。でもまずは、何年も模索しながら頑張ってきたそんな自分を認めてあげて、そんな自分が「本当にやりたいこと」を一緒に考えてみませんか?

モヤモヤ”の理由がひもとかれ、“理想の自分”が見えてきたマフィンさん。
▶︎次回後編では、みたらしさんのひと言から、自信のなかったマフィンさんが“自分のやりたいこと”を素直に打ち明けはじめます。


別腹トーク「みたらしな日常」

みたらしさんが出合った、なにげない日常のひとコマをご紹介。

臨床心理士・みたらし加奈の、毎日を生きやすくするブレイクトーク。「ちょっと甘いものでも。」1.【前編】_5

「雨上がりの夜の散歩。道の脇を見ると小さなパンジーがこちらを見ているようで可愛かったです」(みたらしさん)

撮影/花村克彦(みたらしさん) 山崎ユミ(みたらし団子、マフィン) 取材・文/千吉良美樹 企画・編集/高戸映里奈(yoi)

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