「セルフプレジャー」というワードが広く聞かれるようになり、女性が性についてオープンに話すことが少しずつできるようになってきた昨今。そんな状況が、セクシャルウェルネス業界の“中の人”にはどう見えている? 業界を支える4人の女性をお招きして、セルフプレジャーの今とこれからを語り合いました!
参加メンバーはこの4名

フリーランスPR
20代にアダルト業界で働き始めたことで、特にバイブの魅力にハマる。現在はフリーランスPRとして活動しながら、セクシャルウェルネス関連のイベントを企画中。
アダストリア『Mood is me. 』部長
2004年にポイント(現アダストリア)入社。『Heather』のVMDとエリアマネージャーを兼任、『repipi armario』でブランドディレクターや事業部長に従事。2022年より新規事業の立ち上げ準備にかかわる。年齢や性別を問わず、自分の素直なキブン(Mood)に目を向けてフィジカルとメンタルを整え、ポジティブなキブンを引き出すことで「心身ともに健康で美しくあること」を提案するウェルネスブランド『Mood is me.』を、2023年9月にスタート。ブランドのサイトでは、フェムテック・フェムケア商品を多数取り扱っている。
irohaブランドマネージャー
大学卒業後、出版社をはじめメーカーや女子大学等で事業開発・組織開発支援のサービスデザインに携わった後、連載執筆活動の傍ら大学院で文化人類学を専攻し、ジェンダー/セクシュアリティをテーマに調査研究活動に従事。性/生にまつわる仕事に関わりたい想いを強くし、2022年4月に株式会社TENGAへ入社し、2023年9月よりフェムケアブランド「iroha」のブランドマネージャーに。プレジャーアイテム®ブランド「iroha」やデリケートゾーンケアブランド「iroha INTIMATE CARE」の事業推進に携わる。
※「プレジャーアイテム」は株式会社TENGAの登録商標です。
4者4様の、セクシャルウェルネスとの出合い

——皆さんセクシャルウェルネス業界で活躍されていますが、まずはセルフプレジャーやセクシャルウェルネスに興味を持ったきっかけをお一人ずつ聞かせてください。
渥美昌子さん(以下:渥美):私はずっとアパレル業界で働いてきたんだけど、上司から「何か新しいことをやってみたら?」と持ちかけられて。何をしようか悩んでいたときに、何人かの友人から「ウーマナイザーがすごくいい」という話を聞いたんです。その友人たちがすごくおしゃれでかっこよかったんですよ。だから次に何かするならセクシャルウェルネスがいいかも、と思って動き出して、今『mood is me.』というセレクトショップで、ファッションと合わせてセクシャルウェルネスを広めようと活動しています。
マドモアゼル ヴァギナ(以下:ヴァギ):処女なのにひょんなことから約10年前からアダルト業界で働き始め、バイブと出会いました。私に何ができるだろうって考えて「処女の自分がバイブを使ったらどう感じるか、何が気持ちよくて何が痛いのか、どのくらいの時間が必要なのか」をとにかく試しまくりました。その結果バイブが大好きになって、今持っているバイブは120本くらい。お喋りが好きなので、オンラインよりは対面してフィジカルでバイブの魅力を伝えたいと思っています!

山本あやのさん(以下:山本):私は大学生の頃、“起業”をテーマにした授業を受けていて、そこに特別講師として来た弊社代表の北原みのりの講義を聞いたのがきっかけでした。セクシャルウェルネスの話をしながら「私のPCのUSBポートに差してあるこれもバイブレーターです」って見せられたりして…こんな仕事があるのか!と衝撃を受けました。そのまま学生のうちにインターンとして働き出して、もう10年ほどこの業界に身を置いています。
真仲潤さん(以下:真仲):私は『iroha』に携わって3年になります。実は子どもの頃の経験から、性的なことに対してトラウマを抱えていたんです。
そんな私がこの業界に興味を持ったきっかけは、地元を出て大学の寮で友達と一緒に雑誌のセックス特集を見て、初めて女性のためのセルフプレジャーグッズを目にしたこと。実際に触れてみたら、女性が女性を想って作られているのが伝わってきて感動してしまったんです。性的な快感は他者から与えられるものだと思い込んでいたので、イメージがガラッと明るいものに変わりました。その後ジェンダーやセクシャリティを学んで、現在はセルフプレジャーの魅力を皆さんに伝えるべく『iroha』で働いています。
ここ数年で感じる、セルフプレジャーグッズの変化は?
——皆さん、さまざまなきっかけからセクシャルウェルネス業界に身を置き、今に至るんですね。では、セルフプレジャー界隈で感じる変化はありますか?
ヴァギ:トイ(セルフプレジャーグッズ)の素材! 以前はいわゆるAVで観るような、塩化ビニルのスイング(先端が可動する機能)するタイプが主流だったんですけど、最近はシリコンが当たり前になりましたよね。
山本:塩化ビニルは夏の暑さで溶けるんですよね、ベタベタするというか。海外では10年前にはすでにシリコン製もたくさんありましたが、日本はここ5年くらいでやっと増えた印象です。

近年主流となったシリコン素材のトイ。
ヴァギ:バイブ・バーに来るお客さんも、トイは“男性が女性に使うもの”という認識の人が多くて。でも“女性が女性自身のために使うもの”という扉を開いてくれたのは『iroha』さんだと思います。水原希子さんとコラボしたり、間口を広げてくれましたよね。
真仲:ありがとうございます。たしかに水原希子さんや、『ウーマナイザー』とコラボした渡辺直美さんなど、著名な方が発信してくれることで、イメージも大きく変わりますよね。

(左上のパッケージとアイテム)2024年に発売した、『ウーマナイザー』の渡辺直美さんコラボモデル。(右下の3点)ブランド10周年を迎えた2023年以降続いている『iroha』と水原希子さんのコラボシリーズ。
ヴァギ:お笑い芸人のゆりやんレトリィバァさんも、GQ JAPANの動画コンテンツで『ウーマナイザー』を紹介してました
渥美:“プレジャートイを持っているのってかっこいい”という認識が広まってほしいですね。それこそ水原希子ちゃんがYouTubeでプレジャートイを見ながら「これ持ってる!あ、これも好き!」って話しているのを見て、すごくかっこいいなと思ってて。
真仲:普段プレジャートイに触れる機会がない人でも「希子ちゃんが言ってたアイテムだ」って話題に出しやすいですよね。海外ではビリー・アイリッシュとかZ世代に人気のある人がセルフプレジャーについて発言することもありますが、日本でもオピニオンリーダー的な存在が増えてきたことがうれしい!
日本と海外のセルフプレジャー市場の違いとは?

——日本もセルフプレジャーの認知度が上がってはいますが、海外との差を感じることはありますか?
渥美:この前バルセロナに行ってきたんですけど、プレジャートイのお店がとにかく可愛くて。こんなにおしゃれなの!? ここはアップルストア!?って思うくらいクリーンな空間で。しかも大学のすぐそばにあったりするんです。こういうお店が日本でも出せたらなぁ、って考えているんですけど。
ヴァギ:『アダストリア』さんにお店出してほしい! ドイツのブレーメンに住んでいる友達が写真を送ってくれたのですが、駅前でドイツのトイブランド『ファンファクトリー』がポップアップを開催してました。本当に駅の目の前でバイブが並べられていて、すごく可愛かった!
山本:海外だとガラス張りのお店も多いし、街に溶け込んでますよね。『ピュイサント』というフランスのトイブランドは、コスメと一緒にナチュラルでおしゃれなショップで販売されていて、とても素敵。日本だとなかなか表立って販売できなかったり、ポスターなどの販促物も規制が厳しいんです。
真仲:ポップアップストアをやることになっても、場所によっては「デリケートゾーン用ソープだけならOK」と言われてしまうこともあります。『iroha』はプレジャーアイテムのブランドなのに、まるで違った佇まいになりそうなこともあって…(笑)。
真仲:海外だと移動販売車でプレジャーアイテムを売っていたりもしますよね。

トレーラーで全米を回っているトイブランド『CRAVE』のアイテム
山本:そうそう、この『CRAVE』というブランドは「プレジャーツアー」と題してトレーラーで全米を回っているんです。ブランドの代表の方や社員の方が車に乗って、製品を販売しながら使い方をレクチャーしたり、性教育を行なったり。
渥美:かっこいい! そういうオープンさが欲しいですね。
「セルフプレジャー」という言葉と一緒に売り場も広がった
——身近な友人やお客さまなど、まわりの意識が変化したと感じることはありますか?
真仲:「セルフプレジャー」や「プレジャーアイテム®︎」というワードが徐々に認知されてきたな、と思います。
渥美:セルフプレジャーって当たり前に言うようになっていますよね。それでかなり会話がしやすくなった! いつから使っているのかは覚えていないんですが…。
山本:セルフプレジャーって『iroha』さんが作ったワードだと思っていました。
真仲:もともと海外では広く使われていた言葉でした。『iroha』を立ち上げたときに、オナニーやマスターベーションというワードはなかなか口に出しづらいから、もっと話しやすい共通のワードとしてセルフプレジャーを使いはじめたという感じです。
ヴァギ:でも未だにセルフプレジャーを正しく理解していない人も多いですよ。「結局自慰行為のことでしょ?」って。女性にとっては体のため、メンタルの健康のため、リラックスのためでもあるのですが、そういった認識がないみたい。バイブ・バーで働いていたときは、特に男性のお客さまに必死に説明していました。ここで負けるわけにいかない!って(笑)。
渥美:さすが! ヴァギちゃんのギャルマインド最高だよね。

山本:セルフプレジャーは自分の体を知ること、大切にすることだと思うんです。2020年以降フェムテックというワードが流行って、その中にセルフプレジャーがあったことによって、格段に認識が広まりましたよね。
わかりやすいところで言うと、売り場が圧倒的に増えました。10年前だとバラエティショップのカーテンの向こう側やアダルトショップでしか買えなかったけれど、今は百貨店でも買える。売り場が広がったことで認知度も上がったし、お客さまが手に取る機会も増えた気がします。
真仲:販売チャネルがすごく多岐にわたっていますよね。それこそ『mood is me.』。アダストリアというメジャーな会社で販売されているのは、本当にすごいことだと思います。お洋服と一緒にオンラインで購入できる!って。
渥美:うれしい、ありがとうございます。最初に『mood is me.』を立ち上げるときも男性陣からは「うちの会社でやる必要あるの?」という目を向けられることが多かったんだけど、会長が「こういう文化は江戸時代からあるものだし、健康の一環だ」と背中を押してくれて。
山本:すごい! 会長、素敵! 本当に健康の一環ですよね。
渥美:そうそう、性欲は食欲・睡眠欲に並ぶ三大欲求のひとつだし。あとはプレジャートイのデザイン自体がポップになったことで、かなり手に取りやすくなっているとも思います。

見ているだけでワクワクするような、ポップなデザインのプレジャートイたち。
真仲:年々可愛くなっていますし、肌触りも機能性もパワーアップしていますよね!
ヴァギ:『iroha』さんも『ラブピースクラブ』で扱っている海外ブランドも、開発側に女性が増えてくれたおかげな気がします。
“プレジャートイを持っている人=おしゃれ”な世界をつくりたい!
——では、日本のセルフプレジャー業界は今後どんな発展をすると思いますか?
渥美:『アダストリア』のサイトでスタッフのコーデやアイテムを紹介する「STAFF BOARD」というコンテンツがあるんだけど、そこでバイブを紹介するとPV数がめちゃくちゃ上がるんですよ。みんな興味はすごくあるはずなんですよね。
山本:SNSでも、『ウーマナイザー』の吸引部分が見られる動画はとにかく伸びますね。規制されてしまうこともあるので難しいところですが…でもそれを見て『ラブピースクラブ』の店舗に来てくださるお客さまも多かったんです。誰もが情報にアクセスしやすくなっているはずなので、その方法ももっと広がるといいですよね。
渥美:この仕事を始めて「(アイテムは)何がおすすめ?」とか「(セルフプレジャーって)大事だよね」と声をかけてくれる人が増えたんです。直接的な言葉を使うのはまだ抵抗があっても、「セルフプレジャーって大事なことだよね」と関心を示してくれるのがすごくうれしくて。私はやっぱりファッションの領域からアプローチして、おしゃれで素敵なものなんだよって伝えたいですね。
ヴァギ:ファッション業界の子たちがセルフプレジャーグッズに興味を持ってそれが流行りになったら、すごくたくさんの人に広がると思っています。おしゃれな人が使ってる、じゃあ使うことがおしゃれなんだ!って思ってもらいたいし。
渥美:おしゃれな人が使っていると、マネしたい、やってみたいって思う人も増えそうだよね。
ヴァギ:そうなんですよ! スタイリストの小泉茜さんが始めた『THE NEW CHAPTER』とか、バッグブランドの『nana-nana』のディレクターが作ったチャーミーちゃん(チャーム型の吸引バイブ)とか、めちゃくちゃ可愛いじゃないですか。やっぱり見た目って大事だし、本気でプレジャー業界の認知度を上げたい!と思ったら、アイテムも発信の仕方もおしゃれにならなくちゃって私は思ってます。
山本:さっき、ワゴンで販売をしていると紹介したブランド『CRAVE』のアイテムも、アクセサリーとして取り入れられて、めちゃめちゃおしゃれ!

『THE NEW CHAPTER』のローション。

『CLAVE』のネックレス型バイブレーターVesperと、リング型バイブレーターTEASE RING。バッグにつけたのはチャーミーちゃん。

チャーミーちゃんは容器を開けると吸引型のトイが!
山本:会社の上層部はまだ男性であることが多いですし、男性主体で運営されているような昔ながらのアダルト業界こそ、セルフプレジャーへの理解がない人がまだまだいます。そういう人たちには、アダルトグッズをおしゃれにするという発想自体がないんですよね。だから、女性たちが頑張っている『iroha』はさぞかし大変だっただろうな、と…。
真仲:まさに戦いの歴史ですね(笑)。そういえば、この前母校の後輩からOG訪問したいと連絡をもらって、それがすごくうれしかったんです! プレジャーアイテムの開発や販売に興味を持ってくれる、自分よりも若い世代がいてくれるんだって心強かったですね。
渥美:未来が明るい! まだまだこれからだね!
後編では、4人が本当におすすめしたいプレジャートイを熱いコメント付きでお届けします。下記リンクからご覧ください。
撮影/wacci 取材・文/堀越美香子 企画・構成/木村美紀