実は、セックスで必ずオーガズム(オルガズム)が得られる女性は半数以下。10人に1人は、セックスによるオーガズムを一度も得られたことがないという報告もあるといいます。けれど、もし毎回オーガズムを得られない状態が長く続いているとしたら、それは「女性オーガズム障害」かもしれません。女性のオーガズムと女性オーガズム障害について、女性医療クリニックLUNAネクストステージの中村綾子先生に教えていただきました。

教えていただいたのは…
中村綾子

女性医療クリニックLUNAネクストステージ院長

中村綾子

横浜市立大学医学部卒業。横浜市立大学附属病院勤務等をへて、女性医療クリニックLUNAネクストステージ院長に就任。女性骨盤底のエキスパートとして、尿漏れや腟のゆるみなどのフェムゾーン疾患やフェムゾーン美容の診療を日々行う。日本で数少ないフェムゾーン医療美容外来や女性性機能外来を立ち上げ、情報発信も積極的に行っている。

Q1.オーガズムを感じないのはおかしいこと?

女性オーガズム障害 セックス 性交痛-1

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A1.おかしなことではありません。性交中に必ずオーガズムに達する女性は半数以下と言われています

オーガズムに必要な刺激の量や種類には個人差があります。多くの女性はクリトリスの刺激によってオーガズムを得ることができますが、性交中に必ずオーガズムに達する女性は半数以下にすぎず、女性の10人に1人は性交によるオーガズムを一度も得られたことがないという報告もあります。また、男女ともに最初のオーガズムは思春期の頃。男性は一般的に10代後半の17~18歳頃にオーガズムの頻度がピークに達しますが、女性は年齢とともにオーガズムの頻度が上がっていき、30代で定期的にオーガズムを経験する可能性が高くなります

女性は十分な刺激を与えられないとオーガズムが得られないという
仕組み自体をパートナーが理解していないことに加えて、恥ずかしさなどからパートナーに言えないまま我慢して、パートナーだけがオーガズムに達している場合が多いのではないかと思います。実際に、女性の7割が性交痛を感じた経験があり、セックス=痛いものだと感じています。

Q2.男性のオーガズムと女性のオーガズムは何が違う?

A2.男性は女性に比べてオーガズムを得やすい状況にあると言えます

一般的に、女性は男性に比べてオーガズムを得られにくいと言えます。男性のオーガズムは性行為や視覚的な刺激によって得られやすく、1回の刺激があれば、それ以上の刺激はなくても射精によってオーガズムに達すると言われています。また、ほとんどの男性は第二次性徴の過程で100%に近い人がオーガズムに達すると言われ、比較的獲得しやすい状況にあります。

一方、女性の場合は男性器の挿入だけでオーガズムを得られるケースはなかなかありません。多くの人はクリトリスへの刺激によってオーガズムを得やすくなりますが、挿入の際もクリトリスを刺激され続けないとオーガズムに達せない人もいます。刺激によってオーガズムに達しやすい性感帯(性的快感を強く感じやすい部位)はクリトリスが7割、Gスポット(腟から3〜5cmほどの深さで恥骨の裏側に位置するエリア)が5割、ポルチオ(子宮最下部の腟とつながる部分)が3割と言われます。性感帯を刺激することで腟から潤滑油が分泌されますが、刺激がうまくいかないと性交痛につながってしまうので十分な刺激が必要です。

Q3.「女性オーガズム障害」とは?

A3.どんな状況でもオーガズムを得られない状態が6カ月以上続いていること

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女性が十分な性的刺激を受け、精神的および感情的な性的興奮があるにもかかわらず、性的興奮のピーク(オーガズム)に達しなかったり、オーガズムの遅れや頻度が低い、あるいはオーガズムの強さが大幅に低下したりする障害を意味します。オーガズム障害のある女性の多くは、セックスやセルフプレジャー、性的に非常に興奮するといった状況でも、オーガズムを得られません。その症状が少なくとも6カ月間持続していることが診断基準となります。

性的活動を始めたときからオーガズムに達したことがない「一次性」の女性は10%ほどと言われています。LUNAネクストステージに来院される患者さんの場合、以前はオーガズムを得られていたのに障害が生じた「二次性(後天性)」の方が多いですね。

Q4.「女性オーガズム障害」の原因は?

A4.主な要因はメンタル、フィジカル、ライフスタイルの3つです

米国精神医学会(APA)による精神疾患の診断基準・診断分類のひとつである「DSM-5」では、次の3つが挙げられています。

(1)心理的要因
不安、抑うつ、ストレス、過去の性的トラウマ、身体イメージの問題などがあります。「パートナーを喜ばせたり満足させたりすることができないかもしれない」といった性的パフォーマンスへのプレッシャーや、パートナーとの関係の問題も心理的ハードルにつながります。

例えば親が厳しくて、テレビなどで性的なシーンがあると違うチャンネルにされたり、テレビの電源を切られたりといった形で性的なものをシャットダウンされてきた場合、性欲=いけないものという強烈な刷り込みによってオーガズム障害を起こすこともあります。

(2)身体的要因
性的反応に影響を与える神経系やホルモンの問題、薬の副作用、慢性的な健康問題(糖尿病、神経疾患など)が関与するほか、一部の抗うつ薬や抗精神病薬が原因となることもあります。また、性交痛があることでセックスそのものが嫌になり、心理的な要因からオーガズム障害を起こすケースも少なくありません。

特に性交痛は、若い頃から性交痛があってオーガズムが起きない人や、閉経後に性交痛を感じるようになる人など、幅広い年代の方が抱える悩みのひとつ。妊娠・出産やピルの内服などによるホルモンバランスの変化から発症することもあります。また、一般的には骨盤底筋が締まりづらいとオーガズムが得られにくいと言われます。

(3)ライフスタイル要因
疲労、睡眠不足、過度の飲酒、薬物乱用、運動不足なども性的機能に影響を与えることがあります。例えば、移住や引っ越し、転職といった環境の変化によって性欲低下が起こったり、オーガズムに達しなくなったりして受診されるケースもあります。

▶︎後編では、改善に向けた具体的な方法やアドバイスを伺います。