犬山紙子さんへのインタビュー後編では、犬山さんの子育てにクローズアップ。娘を育てる中で感じた不安を解消したいという思いから生まれた新著『女の子に生まれたこと、後悔してほしくないから』を書く中で変化した意識とは? 亡き母との関係や、子どもを持つか悩んでいた過去についても語ってくれました。

エッセイスト
1981年生まれ、大阪府出身。ファッション誌の編集者を、母親の介護のために離職。2011年にブログ本『負け美女』(マガジンハウス)を出版し、人気エッセイストに。近著に『私、子ども欲しいかもしれない。』(平凡社)、『すべての夫婦には問題があり、すべての問題には解決策がある』(扶桑社)など。TVコメンテーター、ラジオパーソナリティとしても活躍。2018年には、児童虐待問題の解決に取り組む「こどものいのちはこどものもの」を立ち上げる。プライベートでは、2014年に劔樹人氏との結婚を発表し、2017年に女児を出産。
子育てを通して、厳しかった自分の母親の気持ちがわかるようになった

——現在、7歳の娘さんを育てている犬山さん。著書『女の子に生まれたこと、後悔してほしくないから』でさまざまな方に取材をする中で、子育てで気をつけるようになったことはありますか?
犬山さん:子どもで自己実現をしないことを、より一層意識するようになりました。自分の「こうしてほしかった」「こんなふうに育ててもらいたかった」を娘に押し付けていないか、娘を守りたいがあまり自分の理想通りに育てようとしていないか、娘の気持ちをヒアリングしながら確認するようにしています。
例えば子どもの将来を考えて英語を習わせることも、子どもの意志がなければ、一種の押し付けですよね。でも親としては、できるのであれば、子どもが稼げるようになって、自分の手でごはんを食べられるようになってほしい。そのためには、ある程度勉強をちゃんとしないと心配!と感じてしまうのは、今の資本主義の社会においてはしょうがないと思います。バランスがすごく難しいんです。
本書の取材で専門家の方々に話を聞いた結果、私は、子どもの話をきちんと聞くことに落ち着きました。子どもがつらい、苦しいってなったときに、きちんと察知できるようにする。そして、子どもがやめたいと言えなくなるような圧をかけない。そのうえで、子どものためになりそうなことは、チャレンジしてみない?とすすめています。
——本書のあとがきで、犬山さんのお母さまは勉強や門限にとても厳しい方だったと書かれていました。そんなお母さまの当時の気持ちを、ご自身が母親になった今は「痛いほどわかる」という言葉が印象的でした。
犬山さん:母は2年前に他界したのですが、本書を書きながら、母との関係を改めて振り返ることができました。必要以上に厳しかった母に対して、いろいろと思うことはあるけれど…母は母なりに私を守ろうとしていたんだな、と感じられたんです。
父親を早くに亡くし、経済的に豊かではない環境で育った母からすると、塾に行けることも、大学に行けることも、最高の贅沢だったのでしょう。その気持ちを、よかれと思って私に全部注いだんだと思う。門限に関しても、もしかしたら母も危険な目に遭ったことがあり、自分と同じ思いをしてほしくないから、娘を門限で縛ったのかもしれないな、って。
子どもが罪悪感を感じることのないよう、社会の問題点を伝えて一緒に考える

——性暴力から身を守るための自衛について、本書のSHELLYさんとの対話でも深く掘り下げていました。性暴力から女性が身を守るためは、時には割りきって、何かを我慢したり言動を制限しなければいけないというのが今の現実です。そんな不条理な状況を、お子さんにどのように伝えていますか?
犬山さん:私は、まず「気をつけてね、ってあなたに言うけど、本当は子どもをさらおうとしたり、危害を与えようとしたりする人が100%悪いんだからね。もし被害に遭ったとしても、あなたは何も悪くないからね」と何度も念を押します。そのうえで、子どもを取り巻く犯罪の種類や、身を守るためにできる行動、そして犯罪を減らすために努力している大人もいることなど、希望も必ず加えて伝える。
最近は性被害や性教育を題材にしたよい本がたくさんあり、性について子どもに伝えるうえで、とても役立っています。『子どもを守る言葉「同意」って何? YES、NOは自分が決める!』は、境界線の意識や同意の大切さをわかりやすく説明していて、とてもよかった。それから、『いのちをまもる図鑑 最強のピンチ脱出マニュアル』もおすすめです。サメに襲われたらどうする?といった子どもの興味を引く内容から始まり、最終的には性被害や虐待、いじめなどに遭ったときの対処法を、すごくあたたかい目線で網羅しています。
そもそも子どもに自衛させるなんておかしいし、腹が立ちますよね。最近は“触らない痴漢”(混んでいないのに背後や横に密着する、においを嗅ぐ、息を吹きかける、聞こえるように卑わいな言葉を発する、卑猥な画像を見せてくる等)が話題になっていますが、メディアで取り上げられるたびに、女性に自衛を求めるコメントばかりが目立つ。もちろん自衛は大事だけれど、まずは、加害者が絶対的に悪であり、女性や子どもが自衛しなければいけない状況を申し訳ないと伝えなければいけないのに…。
——被害に遭いやすい立場の子どもが行動を制限させられたり、恐怖を感じながら生きなければいけないのは、本当に悲しく腹立たしいです。
犬山さん:ルッキズムも同じですよね。社会にルッキズムの構造があるから悩んでしまうわけで、悩む本人は何も悪くない。親としては「そのままで可愛いよ! 悩まなくていいじゃん」と言いたいけれど、自分の経験上、それで解決されないこともわかるんです。
だからまずは、悩んでしまう気持ちに寄り添う。それからルッキズムの構造を説明して、その問題点やできることを一緒に考えるようにしたい。解決する魔法の言葉はないので、傾聴し孤立をさせない、自尊心を守る、多様な美しさに触れる、時にカウンセラーの力も借りる、伴走し続けることが大切だと思うんです。それこそ「整形したい」って言われても、多分親はそれを言われると傷ついて、自分が否定されたような気にもなるから強い言葉で否定してしまいそうになるけれど、その時こそ傾聴ですよね。
とはいえ私自身、今もコンプレックスはつきません。無意識に「太った!」と漏らしたり、夫と外見の老いをいじり合ったりしていましたが、本書の取材をきっかけに、子どもの前では言わないと決めました。夫も私も「一緒に年齢を重ねていくのって楽しいよね」という感覚を持っているので、お互いの加齢を慈しむ関係を見てもらいたいし、そうやって呪いの再生産をなくしていきたいな、と。
子育てを楽しめているのは、自分のことも大切にしているから

——本書では、現代の子どもを取り巻くさまざまな問題や不安を取り上げています。それらの不安と向き合い対処しながら、忙しく働く中で、子育ての喜びを実感するのはどんなときでしょうか?
犬山さん:元々子どもが特別好きなわけでもなかった私ですが、朝起きて娘の寝顔を見た瞬間から超絶幸せ、毎朝幸せな気持ちでいられるってすごいことですよね。娘と一緒にいる時間は、「あーー可愛い!!」ってずっと思っていて、日々の幸せが底上げされています。でもそれは、今いい塩梅に夫と仕事を分担できていて、人の力も借りていることが大きいと思います。以前、忙しくて自分の時間がいっさい取れなくなったときに、その幸せな気持ちをあまり感じられなくなっちゃったんです。
その経験から、心のゆとりと余裕が大事だと痛感し、1日に1時間は必ず自分の時間を持つようになりました。その時間は絶対に仕事をしないと決めて、お絵描きをしたり、本を読んだり、ゲームをしたり。自分のことを大切にすることは、子育てにもよい影響を与えるのだと学びました。
もしも、子どもを持つことに不安を感じたら

——女性であるために傷ついたり、生きづらさを感じている人の中には、「この社会で子どもを育てる自信がない」「子どもに自分のような思いをさせたくない」という思いから、子どもを持つことに不安を抱いている人もいると思います。そう感じている人に、どんな言葉をかけたいですか?
犬山さん:まず、子どもが欲しくないのに無理をして産む必要はまったくないと思います。近年は少子化の圧が増し、すべての責任が女性にあるような言葉が続々と出てきてげんなりしますよね。でも少子化は女性のせいではないし、子どもを産まないと国のために貢献できていない、などと絶対に思わないでほしいです。
もしも子どもが欲しいけれど不安が理由で二の足を踏んでいるのであれば、信頼できる人に話を聞くことをおすすめします。私も、自分に育てられるか不安で悩んだ時期は、たくさんの人に相談しました。自己責任論の時代と言われる今、他人に迷惑をかけずに子どもを育てなきゃいけない!と思ってしまいがちだけど、みんな案外いろんな人や制度の力を借りています。それがわかるだけで視野は確実に広がり、勇気が生まれるかもしれない。
そして、子どもを持つ決断をしたら、絶対に孤立はしないでほしいです。どんなときも、自分を守り、自分をケアすることをいちばん、大切にしてくださいね。
撮影/浜村菜月 取材・文/中西彩乃 企画・構成/木村美紀(yoi)