自身もミックスレイシャルというバックグラウンドを持ち、アートギャラリーで働きながらマイノリティの方々のリサーチを行っている、yoiクリエイターズのくどうあやさん。本記事では、くどうさんが出会ったマイノリティコミュニティに属する方へお話を聞き、どのような思いでそのコミュニティに属し、社会とかかわっているのかを深掘りします。
【yoiクリエイターズとは?】 yoiの読者としての目線を生かし、語学やアート、文章表現などのクリエイティブスキルを発揮して、情報を発信していくクリエイターのこと。ビューティーやウェルネス、カルチャーや社会派の記事など、それぞれの得意分野でyoi読者におすすめのコンテンツを毎月配信します。メンバーは25年4月現在石坂友里さん、くどうあやさん、高橋琴美さん。
今回インタビューをさせていただいたのは、日本に暮らす外国人永住者を取り巻く問題について情報発信を行う団体「Blob」のリーダーを務めるAiさんです。
今回は、大学に通いながらSNSの情報発信を中心に活動の幅を広げているAiさんに活動内容や、学業と社会活動の両立についてお話を伺いました!

Blob代表/大学生
大学に通いながら、海外のルーツを持つ自身の経験を生かしてBlobの代表を務め、永住許可取消し法案の廃案を目指す。
「Blob 」とは?
正式名称は「Belonging, Love, and Opportunities for Blended community」。
主に、永住許可取消し法案(入管法の永住者の在留資格の取消事由を拡大する法案)についての情報を、SNSを中心に発信する。
日本/海外における差別・人権問題について、Speak Upできるような情報を共有することと、問題意識を持つ人、まだ知識を持っていない人同士を繋ぐプラットフォームを作ることを目的とする団体。
Instagramアカウント▶︎https://www.instagram.com/nyannyanblob/
知られていない人権問題を知ってもらうために
くどう まずは、Blobについてご紹介をお願いします。
Aiさん Blobは、日本や海外で話題になっている差別や人権問題についてピックアップして、それに関していろんな人が意見交換できるような情報を共有することを目指し、主にSNSで活動しています。
常にさまざまな背景を持つ人が共生する社会で、すべての人が平等な機会を得られるようになって欲しいと思っています。 Blobができたきっかけは、2024年の1月30日に永住許可を容易に取り消すことを可能にする法案が出るという報道が話題になったことでした。この法案は2024年5月21日に衆議院で可決され、3年以内に施行されることが決まっています。
永住許可取消し法案とは?
既存の出入国管理及び難民認定法から、永住者の在留資格を取り消す事由を拡大した改正案。在留資格を持って日本で暮らしている外国人の在留資格を、税金や社会保険の滞納、法令違反を犯した場合などに取り消すことを可能にする。当事者の声を反映せずに突如可決されたこと、日本で生まれ育った永住者などさまざまな背景を持つ人々の存在を考慮していないことが問題となっている。
うわさが流れていた当時からSNSでは外国人の永住許可に関してのヘイト投稿がすごく多かったので、当事者やその家族が「永住許可取消し法案」に表だって反対することがとても難しかったんです。そこで、匿名性が確保できる形で発信できる場として、24年2月頃にBlobを発足しました。
くどう どのような活動をしているのですか?
Aiさん もともとは永住許可取消し法案の廃案を目指し、連絡会などで声明を作ったり、賛同メッセージを募ったりしていました。
社会運動は過激なイメージや親しみにくいイメージもあるので、ステッカーなど多くの人が手に取りやすいアイテムを作ったりしています。
くどう 私も友人がスマートフォンにステッカーを貼っていたことがきっかけでBlobのことを知りました。身近なものに貼って問題提起をすることができるのはいいですね。
親しみやすいキャラクターで、社会運動のイメージを覆す
くどう Blobは、マスコットキャラクターの「Blobちゃん」がとても可愛いです。どうやってできたのですか?
Aiさん BlobちゃんはもともとAndroidの猫の絵文字なんです。Googleがこの絵文字を廃止してからは、ライセンス明記の上で自由に改変・使用していいことになっています。blobでは、入管法改悪反対アクションで使用したことをきっかけに、協力者の方にイラスト化してもらってBlobちゃんができました。
社会運動の硬いイメージを覆すような可愛くて馴染みやすいキャラクターがいるといいと思って作りました。
くどう 可愛いキャラクターだからこそ、小さな意思表示としてステッカーを使えたり、デモとかでも使いやすいですよね。
Aiさん 大学の友達など、日本で日本人としてずっと生きてきた人に、「永住許可などのトピックに興味を持っている」と伝えると、「思想が強い」と言われることがあるんです。そんな時にも、キャラクターやステッカーが可愛い、素敵だね、ということをきっかけに話せるようになればいいなと思っています。
デモに合わせて作成した「My body, My choice」のプラカードは毎日新聞に掲載された写真にも写っていて、目撃情報も色々な人から聞いて嬉しかったです。Blobが作ったプラカードが身近な社会運動のシンボルになるといいなと思っています。
くどう 確かに、デモの報道写真に可愛いプラカードが写っていると、デモに対する印象も変わります。
社会運動に参加しやすくなる入口を作りたい
——Aiさんはどのように活動にかかわっているのでしょうか?
Aiさん 私は、Blob立ち上げの1カ月後くらいに入ったんです。当時メンバーが全然いなかったそうで、立ち上げた方に声をかけられて入りました。
以前は、立ち上げた方と私で共同代表をやっていたのですが、今は私が一人で代表をやっています。立ち上げた方が途中で辞めることになったとき、700人ぐらいまでフォロワーが増えていたんです。私は、もっと成長させたいと思って引き継ぎました。
くどう そうだったんですね。私はインスタのアカウントで紹介されていた「反差別プレイリスト」がすごく気になっていたんです。邦楽も洋楽も入っていて大ボリュームのプレイリストですが、メンバーと一緒に作っているのですか?
Aiさん プレイリストはBlobのメンバーみんなで考えることもあるし、音楽が好きな協力者の方に手伝ってもらうこともあります。メンバーから募るときは10曲ぐらい入れて、後から追加みたいな形で。つい最近、プレイリストのパート3ができました。
身近なところから参加して欲しいという思いからできたプレイリストです。プレイリストを聴くことも、小さな社会運動になると思っています。
くどう 確かににそうですね。
Aiさん はい。インスタグラムの投稿も、新たに関心を持ってくれる人が増えるように工夫をしています。
特に永住許可の問題は、一般の方々の中ではまったく話題にならずに法案が通ってしまったイメージがあるので、多くの人に知ってもらいたいと思っています。わかりやすく説明するために、インスタグラムは10枚まで(現在は20枚まで)投稿できることを活用して、細かく情報を分けるように心がけています。
「永住許可」の問題は、当事者が直面している実体験と、「永住許可」という言葉から世間の人がイメージするものの差がすごく大きくて。対象となる人々の中には、日本で生まれ育って日本語しか話すことのできない人や、経済的に追い詰められている若者などもいます。
くどう 法案が通ったときには私もニュースを見ましたが、正直、十分に理解できていないと思っています。
Aiさん その違いを理解してもらうには、本当はたくさんの会話が必要だと思うのですが、やはりSNS上だけで伝えることはなかなか難しいですね。
また、永住許可を持つ当事者は日本語ができないことも多く、永住許可取消し法案についても、しっかりとした情報がないままに噂だけが広がってしまったことも問題なので、現在はいろんな人に協力してもらって多言語に翻訳してもらっています。重要な情報はできるだけ複数言語で伝えたいですね。

自分のペースで継続していきたいです
くどう 学業と並行してのBlobの活動は忙しくないですか?両立するために工夫していることはありますか?
Aiさん 永住許可の法案が通る前の、24年5月頃は賛同メッセージを募って、それをSNSに連日投稿していた時もあって、とても忙しかったんですけど、最近は、週に1つ投稿できるかという頻度です。
メンバーが増えたら、もっといろんな投稿が作れるなと考えることもあります。でも、のびのびと活動できているし、月に3つぐらい投稿し続けられればいいかなと思っています。
私の学校のスケジュール次第で投稿を企画・制作していて、私が大学のテストなどがある期間は他のメンバーがSNSを動かしてくれるんです。社会人のメンバーが多く、学生に比べて自由な時間が少ないので、ある程度は私が投稿を作り、誤字脱字を見てもらったりとか、追加で調べものをしてもらったりしています。
忙しい時は、Blobのグループチャンネルに「私のすること」みたいな感じで、やるべきことを書き込んでいるんです。目に見える形で残して「全部終わったよ」と報告をしています。
くどう 活動を続けるうえで、社会運動や永住許可の問題に対して考え方が変化しましたか?
Aiさん 当事者が声を上げるのは難しいんだなっていうのは、やっぱりひしひし感じています。永住許可の問題についてSNSで発信するとすごくひどいコメントがつくことが多いです。その反面、Blobの活動に共感して関わってくれる人たちを見ると「温かい人もいるんだな」と希望持てる瞬間もあります。プラカードを印刷したときにBlobのSNSアカウントをメンションして投稿してくれたり、ステッカーを印刷したことをDMで報告してくれる人たちもいます。
くどう Aiさんは今後どのような活動をしていきたいと考えていますか?
Aiさん 私は法学部に通っているんですけど、国際私法、国際法を専攻して大学院に行きたいと思っています。移民やマイノリティに関することを法学的な視点で勉強したいなと思っているんです。 私自身はミックスルーツや永住許可を持つ家族がいる当事者ですが、Blobのメンバーの中には障害のある人とか、もっと上の世代では女性が働きながら生活する難しさを知っている人がいたり、私が知らない視点を持っている人がいます。そういった視点を私も学びたいと思っています。
もうちょっとメンバーがいて、いろんな話ができたら、もっといろんな投稿も作れるなっていう思いはあるんです。でも当事者のメンバーもいる中、簡単に人を入れることも難しくて、活動の幅を広げたくても広げられない事情があります。
また永住許可関連で動きがあったときには、いろいろな人にとっての情報源になりたいので、フォロワーを頑張って増やしたいと思っています。

イラスト・取材・文/くどうあや