“隠す”から“生かす”へ。その人が透けて見えるような肌が美しいと僕は思います
これまでも何度となく、吉川さんのお話に出ている“皮膚感”や“一体感”。吉川さんは、その人が持つ素の魅力を壊さないよう意識しながら、生き生きとし、血色感のある肌をつくり出すことをフィロソフィーとしています。それを体現するためのメイクアップブランド「UNMIX」も誕生し、現在はリップスティックやアイライナーを展開中。でも、吉川さんが強くこだわりを持っている“肌”を直接表現する、ベースメイクアイテムがいまだに登場していないのはなぜなのでしょうか?
無限? と思うくらいの試作品のほんの一部。仕事のメイクで使って、開発を進めています。
「ベースメイクについては、UNMIXを発表した当初から構想があります。現時点で徐々に形になってきているので、2023年のうちに出せたらいいな、とは思っています。とはいえ、作り手は僕一人なので、いろいろなことを試行錯誤しながら、成長した分だけ一歩前に進める、みたいなゆっくりしたペースなんです(笑)。
僕が作りたいベースメイクを言葉で説明するのはなかなか難しいのですが、目指したいのは、“人肌を再現する肌”。持って生まれた毛穴やきめ、産毛は、黒すぎない限り生かしたい。さらに言うなら、シミやシワ、傷だって、それはその人の魅力のひとつ。これまでNGだったものが『本当にNGなのか?』ということを、僕のメッセージ、プロダクト、ビジュアルを発信することで、もう一度考えてもらえたら。
その魅力を伝えるために必要なのは、これまでの僕のメイクアイテムのコンセプトと同じ、“透明感”を引き出すこと。必要な補整をしつつ、その人が透けて見えてくるような、限りなく本当の人間の肌に近い質感が引き出せるベースメイク、とでも言えばいいのかな。こういうブランドは少ないかもしれないけれど、それがリアルだし、そこに魅力を感じられたら、自分を好きになるということにもつながるんじゃないかと、僕は思っています」
これは素肌ではありません。すべてのUNMIXのビジュアルは、開発中の試作ファンデーションを使って作られているのです。
シミもシワもニキビもあって美しい、“最高潮な瞬間”をUNMIXで再現していきたい
肌には並々ならぬ思い入れのある吉川さん。以前任されていたブランドではスキンケアの開発も手がけましたが、UNMIXでもスキンケアを提案する予定があるのでしょうか?
「自分自身のケアは、というと、日々仕事に追われて正直ボロボロ。あまりにもケアができていないのが恥ずかしいくらい…でも、それだけボロボロになりながらも、みんながボロボロにならないものを見つけたいと思っているんです。
実は今、自分のアイデアでスキンケアの試作品を作っています。いつかわからないXデーに向かって。UNMIXがどう成長していくかわからないし、場合によっては世に出せないかもしれない。でも、自分が思いつくプロダクトは全部作るというつもりでやっています。美容って、朝起きてから寝るまですべてにかかわっているものだから、自分の生活に必要なものは全部作っていきたいんです。今作っているものも、『出るのが5年先だとしたら?』と、未来を想定して設計しています。そういう意味では、スキンケア開発はもうすでにスタートしているとも言えますね。
僕が作るスキンケアだから、コンセプトはメイクアイテムと同じ。あくまでも“健康で美しく”がモットー。僕は常日頃から、『人間らしさってなんだろう?』『その人が魅力的に見えるにはどうしたらいいんだろう?』ということばかりを考えています。それは年齢とは関係ないんですよね。いろいろな人たちが、いろいろなシーンの中で、きれいだと思える瞬間がある。そこにシミやシワ、ニキビがある、なしは関係ないんです。
美しく見える瞬間、すなわちその人にとっての“最高潮”を引き出したい。だから、スキンケア開発といっても、とてつもなく新しい成分を開発しているわけではなく、ましてや『年をとらない』なんて、ミラクルなことも考えず、もっとシンプルに、肌を乾かさないもの、24時間、自分の肌のいい状態を一貫してキープできるもの、心地よく人生を送るためのものとして考えています。
とかくシミやシワなどは気になりがちだけれども、皮膚科学的見地から見れば、必ずしも不健康ではない。年齢やこれまでの人生を考えたら、シミやシワがあってもいいんじゃないかと僕は思うんです。それを踏まえて、瞬間瞬間の自分を“最高潮”に近づけてくれる美容があればいい。
調子のいい素肌のように見えるベースメイクは最高のよそゆきのルック。それを多くの女性に感じて欲しいから、UNMIXのほとんどのメインビジュアルは一般女性で撮影しています。
エイジングサインとして気になるシワは、やっぱりないほうがいいという人もいるかもしれません。であるなら、スキンケアでなるべくシワができにくいような肌状態を保てばいいんです。それでも結果的にシワができてしまったとしたら、シワのある顔を魅力的に見せればいい。エイジングに対してNOと言いつづけていたら、年齢を重ねることに嫌悪感が生まれてしまいます。それでは楽しくありませんよね。毎日を楽しく生活していたら笑顔になれます。人が生きるということは、すなわち年齢を重ねるということだし、僕は人生を否定しない美容を伝えていきたいんです。
僕が考えるスキンケアは、絶好調の自分を見せるためのもの。ケアすることで最終的には気分も上がり、それを見ている人まで気分がよくなる。それはつまり、一生の間の姿形のことではなく、年々容姿が変化していくなかでも、いかに“自分が笑顔でいられる”かってこと。僕はこれからも、このことを伝えていきたいと思っています」
肌トラブルやコンプレックスがあると、そこばかりに目が行き、気持ちも落ちがちに。でも、とらえ方ひとつ、スキンケアやメイク次第で、ネガティブをポジティブに変換し、毎日を楽しくすることだってできる。このことを、吉川さんはいつも私たちに教えてくれます。
撮影/Mikako Koyama 取材・文/藤井優美(dis-moi) 企画・編集/木下理恵(MAQUIA)