2024年のスギ花粉シーズンは、日本気象協会の予報では2月上旬から九州、四国、中国、東海、関東甲信の一部で飛散開始となります。日本人の約40%が花粉症と言われています。花粉症治療の第一人者である耳鼻咽喉科専門医、大久保公裕先生に今シーズンの花粉症対策を伺いました。

大久保公裕(おおくぼきみひろ)先生

日本医科大学大学院医学研究科頭頸部・感覚器科学分野教授

大久保公裕(おおくぼきみひろ)先生

日本医科大学卒業、同大学院耳鼻咽喉科卒業後、アメリカ国立衛生研究所留学、日本医科大学医学部講師、准教授を経て、2010年より教授。花粉症、特に舌下免疫療法など新しいアレルギー性鼻炎の治療、研究を進めている。著書に『シリーズ専門医に聞く「新しい治療とクスリ」4 花粉症』(論創社)ほか多数。

2024年のスギ花粉はいつから?

花粉症の女性

増田:2024年のスギ花粉の予測はどのようなものでしょうか? 2月上旬には、花粉を感じて鼻がムズムズしている人もいるようです。

大久保先生:今年は1月1日からスギ花粉はほんの少しですが、飛んでいます。それを敏感に感じている人はいると思います。気象庁では、1月以降、1平方センチメートルあたり1個以上のスギ花粉を、2日連続して観測した最初の日を、その観測地点の「花粉の飛散開始日」としています。ですから、飛散開始日以前でも、わずかな花粉で症状が出ることがありますので、注意が必要です

日本気象協会によると、今シーズンの花粉飛散傾向は、例年に比べると、九州・四国・中国・東海・北陸・関東甲信は120~140%とやや多い、近畿・東北は160%と多い、北海道は200%以上で非常に多い予想です

前シーズン(2023年)比では、北陸・関東甲信は60%と少なく、九州・四国・中国・近畿は70~80%とやや少ない、東海は90%と前シーズン並みの見込みです。しかし、東北は180%と多く、東北南部は少なめですが、東北北部は非常に多いとされています。北海道はもともとスギの木が少なく、前年が1シーズン1センチあたり100個程度と少ないので、このような結果になっています。全国的に暖冬傾向なので、飛散の開始も例年より早めですね。

花粉症は治療しない限り、自然には治らない

増田:毎年シーズンになると、今年こそ花粉症が治っていないかな? と期待を持ちます。花粉症は自然には、治らないのでしょうか?

大久保先生残念ながら花粉症は、年をとっても治療しない限り、まず治るということはありません

花粉症のアレルゲンとなる花粉は、スギ以外にもヒノキ、ブタクサなど、日本には約60種類もあります。日本人の40%が花粉症というのもうなずけます。ちなみに、スギ花粉症は、日本にしかありません。

日本人に最も多いのは、このスギ花粉症ですが、そのうち約7割の人はヒノキ花粉症も併せ持っています。こういう方は、重症化する傾向にあります。逆に、ヒノキだけの人は、ほとんどいません。

男女差はなく、30~40代は2人に1人、50代は2~3人に1人で、更年期を過ぎてもあまり減りません

花粉症の症状から重症度をチェックするには?

増田:病院で花粉症の症状を伝えるときの重症度の調べ方があると伺いました。どのようにチェックするのでしょうか?

大久保先生:花粉症のくしゃみ、鼻水、鼻づまりの症状から重症度をチェックできます。

1日のくしゃみの回数、鼻をかんだ回数、口呼吸を自覚した時間をチェックします。病院では「くしゃみ・鼻水タイプ」か「鼻づまりタイプ」か、「重症度はどうか」を伝えましょう。自分で思っている以上に、重症の可能性もあります。

最重症:くしゃみの発作回数 21回以上/鼻をかんだ回数 21回以上/口呼吸の時間 1日中

重症:くしゃみの発作回数 20~11回/鼻をかんだ回数 20~11回/口呼吸の時間 1日のうちかなりの時間

中等症:くしゃみの発作回数 10~6回/鼻をかんだ回数 10~6回/口呼吸の時間 1日のうちときどき

軽症:くしゃみの発作回数 5~1回/鼻をかんだ回数 5~1回/口呼吸の時間 口呼吸はないが鼻づまりはあり

花粉症対策にはセルフケアがおすすめ

花粉症のセルフケア

増田:花粉症対策に、セルフケアは有効でしょうか?

大久保先生:花粉症対策にとって、医療的ケアと同様に大切なのがセルフケアです。どんなに効果のある薬を服用しても、花粉が体内に大量に入ってきたら、症状は抑えきれなくなります。また、まだ花粉症になっていない人にとっても、花粉が体に入ってこないようにすることで、発症しないようにする予防になります

花粉が体に入ってこないようにする対策は、症状を軽くすることにもつながり、薬の量を減らすことにもなります。ヨーグルト、お茶、青汁などのセルフケアが効くという情報を聞くこともありますが、効果を実証できていないものもあります。まずは、花粉を寄せつけないセルフケアをぜひ行ってください。

そして、すでに花粉症の方は、花粉がたくさん飛び始める前、症状を感じ始める前から、お薬を飲み始めるほうが効果的です。そろそろ飲み始めたほうがいいタイミングですね。

今日からできる花粉症対策のセルフケア

部屋干しで花粉症対策

大久保先生:以下に、自分でできる花粉症対策をまとめましたので、参考にしてください。

外出時の花粉症対策

・花粉情報をチェック:花粉が多く飛びやすい条件は、晴れや曇り、気温が高い、湿度が低い、やや強い南風が吹き北風に変化、前日が雨の日などです。花粉対策を十分にして出かけましょう。
・午後1~3時の外出は控えめに:花粉飛散が多いのは、午後1時~3時頃です。その時間帯の外出をなるべく控えるだけでも違います。
・外出時は防備して:メガネ、マスクでかなり防げます。さらにできればマフラーをつけ、コートはツルツルした花粉がつきにくい素材にします。髪の毛にもつきやすいので、帽子などで防御しましょう。
・玄関でシャットアウト:衣服やペットについた花粉は、玄関外で十分に払ってから、玄関を開ける習慣を。

家の中での花粉症対策

・窓を閉める:花粉の飛散が多いときは、窓を開けないでシャットアウトしましょう。換気をするときには、花粉がやってくる前の早朝か夜に。網戸やカーテンを閉めたままにします。
・掃除はこまめに:掃除機はこまめにします。フローリングは、拭き掃除を行うとさらに効果的です。
・洗濯物や布団は外に干さない:洗濯物は部屋干しにします。部屋の加湿にもなって一石二鳥です。
・空気清浄機と加湿器を使う:リビングなど空気が舞うところには、空気清浄機を。寝室では加湿器を使って、湿度を50%程度に保ち、のどや鼻の乾燥を防ぎましょう。

就寝時の花粉症対策

・入浴で花粉を流す:入浴やシャワーは朝ではなく、花粉の時期は寝る前にしっかりと。花粉をしっかり洗い流してからベッドに入りましょう。
・枕元の花粉を拭き取る:花粉を吸い込まないように、枕まわりをウエットティッシュやタオルで拭き取ってから寝ましょう。
・加湿をする:室内に漂う花粉は、加湿器で重くして下に落とせます。就寝中はベッドの近くにも置いて。

花粉症対策になる生活習慣

・帰宅後は、すぐに洗顔とうがいを:体についた花粉は、すぐに洗い流すことが基本。毎日の習慣にしてください。コロナ対策にもなります。
・人工涙液目薬で目を洗う:目のかゆみは、水道水ではなく、防腐剤の入っていない人工涙液という目薬で洗います。
・スギ花粉と関連する食材(トマト)は要注意:スギ花粉症の人はスギ花粉とタンパク質が似ているトマトなどを食べると、症状が出ることもあります。
・腸内環境を整える:腸内細菌叢が乱れていると花粉症が悪化する人もいます。腸活は、花粉症対策にも大切です。

増田:花粉症対策は、セルフケアがかなり有効だということがわかりました。花粉を避ける生活を工夫していこうと思います。先手必勝。症状がひどくなる前の対策が大切ですね。次回は花粉症の新しい薬について、大久保公裕先生に引き続き伺います。

増田美加

女性医療ジャーナリスト

増田美加

35年にわたり、女性の医療、ヘルスケアを取材。エビデンスに基づいた健康情報&患者視点に立った医療情報について執筆、講演を行う。著書に『医者に手抜きされて死なないための患者力』『もう我慢しない! おしもの悩み 40代からの女の選択』ほか

取材・文/増田美加 イラスト/大内郁美 企画・編集/木村美紀(yoi)