日々、当たり前のように行なっている「睡眠」。実は、私たちが健康に過ごすうえで欠かせない重要な役割を担っています。その仕組みや役割はもちろん、睡眠不足のデメリットから“質のいい眠り”を手に入れるためのアドバイスまで、医学博士の西野精治先生に教えていただきました。

睡眠 レム睡眠 ノンレム睡眠 黄金の90分 西野精治-1

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Q1.基本的な睡眠の仕組みが知りたい。良質な睡眠につながる理想的なリズムってありますか?

教えていただいたのは…
西野精治

医学博士

西野精治

スタンフォード大学医学部精神科教授、同大学睡眠生体リズム研究所所長。日本睡眠学会専門医。ブレインスリープの創業者兼最高研究顧問。著書に『スタンフォード式 最高の睡眠』(サンマーク出版)、『眠れなくなるほど面白い 図解 睡眠の話』(日本文芸社)など。

A1.睡眠中は「ノンレム睡眠」と「レム睡眠」が交互に繰り返されます

睡眠の状態には、「ノンレム睡眠(脳も体も眠っている深い眠り)」と「レム睡眠(脳は起きているが体は眠っている浅い眠り)」があります。睡眠中は、このノンレム睡眠とレム睡眠が交互に繰り返されています。

夜になるにつれて、眠りを促すホルモン「メラトニン」の分泌が少しずつ増えると、体温、 血圧、脈拍が下がり、自然と眠くなっていきます。さらに、起きてから14〜16時間ほどたっていれば「睡眠圧(眠りたい欲求)」も十分に高まっているので、多くの人はベッドに入って目を閉じてから10分程度で入眠します。

入眠後は段階的に眠りが深くなり、最初の深いノンレム睡眠にたどり着きます。ノンレム睡眠の深さは4段階に分けられ、入眠直後のノンレム睡眠はもっとも深く、長く続きます。ノンレム睡眠の持続は、一晩で4〜5回出現しますが、2回目以降のノンレム睡眠が1回目より深くなることはありません。

そして、ノンレム睡眠のあとに現れるのがレム睡眠です。レム睡眠時の脳は覚醒しているときと同じくらい働きますが、体は眠っているので筋肉は弛緩し、ほとんど動かず眠ります。その後、一定の周期でノンレム睡眠とレム睡眠を繰り返し、朝を迎えます。

このノンレム睡眠の始まりからレム睡眠の終わりまでのセットを睡眠周期(スリープサイクル)の1回(1周期)として数え、その長さは約90分とされています。ただし、睡眠周期は80〜120分と個人差があるうえに、健康状態などで睡眠パターンそのものが乱れることもあり、90分の倍数がいつも1周期にあたるとは限りません。

正常な睡眠パターンの場合、ノンレム睡眠は次第に浅く、レム睡眠は徐々に長くなっていきます。さらに、明け方に向けて、覚醒作用のあるホルモン「コルチゾール」の分泌が増え、体温、血圧、脈拍が上がると、体も起きる準備が整っていくのです。

「黄金の90分」が眠りの質を左右する

質のよい睡眠を目指すうえで意識してほしいのが、入眠後、最初に現れるノンレム睡眠です。寝始めのノンレム睡眠は、睡眠周期の中でいちばん深く、およそ90分続きます。ここでしっかり眠れると、その後の睡眠もよい状態になります。睡眠全体の質を左右する最初の90分を、私は「黄金の90分」と呼んでいます。

入眠後、眠りが徐々に深くなることで、自律神経は交感神経優位から副交感神経優位な状態へと切り替わり、脳も体もリラックスします。自律神経が整うと、ホルモンバランスもよくなります。なかでも人の成長や新陳代謝にかかわる成長ホルモンは、最初のノンレム睡眠時に全体量の70〜80%が分泌されます。

つまり、最初の90分で質のよいノンレム睡眠が現れないと、ホルモンの分泌量を大きく減らしてしまいます。「黄金の90分」をいかに深く、快適に眠るかが、睡眠の質を高めることにつながるのです。

構成・取材・文/国分美由紀
出典/『眠れなくなるほど面白い 図解 睡眠の話』(日本文芸社)