日々、当たり前のように行なっている「睡眠」。実は、私たちが健康に過ごすうえで欠かせない重要な役割を担っています。その仕組みや役割はもちろん、睡眠不足のデメリットから“質のいい眠り”を手に入れるためのアドバイスまで、医学博士の西野精治先生に教えていただきました。今回は、「免疫との関係」について。

睡眠 レム睡眠 ノンレム睡眠 免疫 西野精治-3

Alphavector/Shutterstock.com

Q3.睡眠不足だと免疫が低下するって本当ですか?

教えていただいたのは…
西野精治

医学博士

西野精治

スタンフォード大学医学部精神科教授、同大学睡眠生体リズム研究所所長。日本睡眠学会専門医。ブレインスリープの創業者兼最高研究顧問。著書に『スタンフォード式 最高の睡眠』(サンマーク出版)、『眠れなくなるほど面白い 図解 睡眠の話』(日本文芸社)など。

A3.本当です。睡眠不足は免疫力を低下させ、感染症のリスクを高めてしまいます

免疫力と睡眠は、深く関係しています。カリフォルニア大学の調査では、健康な164人に点鼻薬で風邪ウイルスを投与し、睡眠時間別の発症率を調べたところ、睡眠時間が5時間未満の人たちは7時間以上の人に比べて、発症率がおよそ3倍にもなりました。睡眠には、細菌やウイルスに対する抵抗力、つまり自然免疫を強くする効果があるといえます。

風邪やインフルエンザにかかると、熱が上がって苦しくなり、とても眠くなります。これは免疫が正しく機能している証です。ウイルスが体内に侵入すると、その情報を受けとった免疫細胞が「サイトカイン」という生理活性物質の一種を出して、別の免疫細胞に指令を送ります。すると、指令を受けた細胞がウイルスに感染した細胞への攻撃を始めます。

サイトカインは、免疫細胞が十分に機能してウイルスと闘えるように体温を上げ、体を休めるなどといった指令も出してサポートしています。そのため熱が出たり、眠くなったりするのです。「風邪は寝て治す」としばしば耳にしますが、免疫が正しく機能するように、適切な睡眠で体を整えておくことも大切なのです。

さらに、予防接種をしても睡眠が十分でないと抗体反応が弱く、その効果が認められなかったという報告もあります。睡眠不足は感染症にかかるリスクを上げるだけでなく、感染からの回復も遅くさせてしまいます。日頃から十分な睡眠を確保して、免疫力を高めておくことが有効なのです。

若い頃からの睡眠不足が認知症にも影響する

人の体を構成する3兆個もの細胞はそれぞれの代謝にともなって老廃物が生じます。老廃物はリンパ組織などを通して、細胞外へ排出されます。特に脳は体重の2%程度の重さしかないにもかかわらず、ほぼ休みなく活動するため、体全体のエネルギーの2割近くを消費しているといわれます。

代謝が活発に行なわれると、そのぶん老廃物も多く生じます。ところが、脳にはリンパ組織がありません。そのかわりに、脳の老廃物は脳内をめぐる脳脊随という液体で洗い流されています。老廃物の除去は主に睡眠中に行なわれているので、睡眠不足が続くと老廃物の処理が十分にできず、脳に蓄積されてしまいます。

そのなかでも、使い終わったタンパク質(アミロイドβ前駆体)の代謝によって生じる老廃物のうち、特に1カ所に集まって固まりやすい老廃物「アミロイドβ」がたまると、脳に老人斑というシミをつくり、アルツハイマー型認知症の原因にもなると考えられています。

「アミロイドβ」の蓄積は、認知症発症の20年も前から始まるといわれます。つまり、若い頃からたまり続けた睡眠不足が、認知症にも影響すると考えられるのです。

構成・取材・文/国分美由紀
出典/『眠れなくなるほど面白い 図解 睡眠の話』(日本文芸社)