日々、当たり前のように行なっている「睡眠」。実は、私たちが健康に過ごすうえで欠かせない重要な役割を担っています。その仕組みや役割はもちろん、睡眠不足のデメリットから“質のいい眠り”を手に入れるためのアドバイスまで、医学博士の西野精治先生に教えていただきました。今回は、「睡眠不足とメンタルヘルスの関係」について。

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Q11.睡眠不足とメンタルヘルスの関係を教えてください。

教えていただいたのは…
西野精治

医学博士

西野精治

スタンフォード大学医学部精神科教授、同大学睡眠生体リズム研究所所長。日本睡眠学会専門医。ブレインスリープの創業者兼最高研究顧問。著書に『スタンフォード式 最高の睡眠』(サンマーク出版)、『眠れなくなるほど面白い 図解 睡眠の話』(日本文芸社)など。

A11.睡眠不足はイライラを増長させ、ポジティブな気持ちを減少させます

20代の健康な若者を対象に、「8時間睡眠を5日間続けた後」と、「4時間睡眠を5日間続けた後」で、さまざまな表情の人の画像を見せて脳活動の様子を調べました。すると、睡眠時間が短いと、恐怖や怒りなど不快な表情を見たときに気分を悪くしたり、不安になったりしやすいことがわかりました。

脳には、感情が暴走しないようにブレーキをかける「前帯状皮質」と「扁桃体」がありますが、睡眠不足の状態だと、それらのブレーキがかかりにくくなることが明らかになったのです。周囲の人のちょっとした言動になぜかイライラしてしまうときは、睡眠が足りていないのかもしれません。たった2日程度の睡眠不足でも、ブレーキがかかりにくくなる変化がみられたという報告もあります。

また、ノルウェー科学技術大学の研究報告(2020年)によると、睡眠を減らすと、翌朝のポジティブな気持ちが減少してしまうこともわかりました。ポジティブな感情が失われることは、うつ病など多くの心の健康にもかかわります。質のよい睡眠は、イライラを抱え込まず、気持ちを前向きにさせてくれる、よりよい生活に欠かせないものなのです。

体内時計を整えるために実践したい5つのポイント

質のよい睡眠を手に入れるためには、体内時計が正常に機能していて、日中のメリハリが保たれていることが前提です。私たちの体は朝がくるとともに覚醒し、日中は活動状態を維持し、夜がくると眠くなり、睡眠状態へと移行します。本来のリズム通り規則正しい生活を送ることができれば、心身の健康は保たれます。

しかし実際は、さまざまな事情によって生活サイクルが乱れ、それにともなって体内時計もズレてしまう…ということが頻繁に起こります。安定した体内時計のリズムを保つポイントは、寝る時間と起きる時間をできるだけ一定にすること。

体内時計はもともと後ろにズレやすいので、前に戻すのは大変です。「休みだから」といつもより遅い時間に寝て、遅く起きると、週末のたった2日間でも、休み明けの朝には起きづらくなってしまいます。「休日はたっぷり寝たい」と感じるときは、睡眠負債がたまっている証拠。まずは平日の睡眠時間を増やすことを心がけてください。

体内時計を整えるためには、規則正しい生活を送ることが何よりも大切です。普段から、次の5つのポイントを習慣づけておくと、ちょっとしたズレなら問題なく調整できるようになるはずです。

⚫︎習慣① 起きる時間をなるべく一定にする
体内時計を前に戻すのは大変なので、毎朝できるだけ同じ時間に起きる。休日など特定の日にたくさん眠っても、睡眠負債の根本解決にはならない。毎日の睡眠時間を増やすように心がける。

⚫︎習慣② 朝起きたら、光を浴びる
光には体内時計をリセットする効果がある。起きたらカーテンを開けて、太陽の光を全身で浴びる。逆に眠る前は、強い光を浴びすぎないこと。

⚫︎習慣③朝食をきちんととる
朝食を食べると、体内時計がリセットされる。食べものをよく噛むことで覚醒度はさらにアップ。

⚫︎習慣④日中はしっかり活動する
日中、しっかり活動して夜間とのメリハリをつけることで体内時計が正しく機能する。適度な運動で疲労感を味わうことも、夜眠りやすくするためのポイント。

⚫︎習慣⑤体温変化を活かす
体温が上がると覚醒し、下がると眠くなることを生かして生活する。入浴などをうまく活用して、体温変化をコントロール。

取材・文・構成/国分美由紀
出典/『眠れなくなるほど面白い 図解 睡眠の話』(日本文芸社)