日々、当たり前のように行なっている「睡眠」。実は、私たちが健康に過ごすうえで欠かせない重要な役割を担っています。その仕組みや役割はもちろん、睡眠不足のデメリットから“質のいい眠り”を手に入れるためのアドバイスまで、医学博士の西野精治先生に教えていただきました。今回は、「眠れないときの対処法」について。
Rimma R/Shutterstock.com
Q12.ベッドに入ってもなかなか眠れないとき、効果的な対処法はありますか?
医学博士
スタンフォード大学医学部精神科教授、同大学睡眠生体リズム研究所所長。日本睡眠学会専門医。ブレインスリープの創業者兼最高研究顧問。著書に『スタンフォード式 最高の睡眠』(サンマーク出版)、『眠れなくなるほど面白い 図解 睡眠の話』(日本文芸社)など。
A12.「モノトナス」で脳を眠りモードにスイッチしましょう
脳への刺激は、いい眠りの大敵です。悩みや心配があったり、寝る直前まで仕事やスマホゲームをしていたりすると、脳の興奮状態が続くのでなかなか眠りが訪れません。ほかにも、暑さや寒さで眠れない、明るくて眠れない、うるさくて眠れないなど、眠りをさまたげる環境要因はさまざまです。
脳は、ささいな環境の変化や刺激にも反応します。眠る前の脳には極力、余計なことを考えさせないようにしましょう。「考えるな」といわれると余計に考えてしまうものですが、例えば電車の車窓から変わらない風景を見ているとき、難しい本を読んでいるとき、静かな映画を見ているときには、なぜだか眠くなる人も多いのではないでしょうか。
これは、脳が「モノトナス(単調な状況)」に退屈して眠くなっているのです。退屈は、日常生活ではあまり歓迎されないものですが、よい眠りのためには有意義なことといえるでしょう。
【モノトナスの一例】
⚫︎難しい本
⚫︎クラシック音楽
⚫︎変わらない風景
⚫︎古典芸能
⚫︎静かな映画
⚫︎炎のゆらめき など
また、「眠れないときは羊を数えるといい」という話がありますが、その際のポイントは「羊が1匹、羊が2匹…」ではなく、英語で「Sheep,Sheep,Sheep…」と数えること。「Sheep」は発音しやすく、息をひそめるような響きもあいまって、自然と脳をモノトナスな状態にすることができます。
そして、「決まった時間」に「いつものパジャマ」を着て、「いつも通りの照明と室温」で「いつものベッド」に入るなど、眠りにつくまでのルーティンを決めておくと、考えることが減るので眠りやすくなります。
眠くないときはベッドから離れる
不眠には、心理的な要因も大きく影響します。不眠に悩む人は、「寝られない」「眠らなくては!」という不安にとらわれがちなので、眠れないまま長い時間をベッドで過ごしていることが多いのではないでしょうか。
その結果、無意識のうちにベッドや寝室を「眠れなくて苦しいところ」と思い込んでしまい、ベッドに入っても不安で落ちつかなくなり、ますます不眠になる…という負のループに陥ってしまいます。
そんなときは、認知行動療法を試してみましょう。認知行動療法とは、誤った思考のクセ(認知)や悪い生活習慣(行動)を修正・改善することで、不安な気持ちやネガティブな感情がふくらまないようにする精神療法です。専門のセラピストの指導のもと、睡眠の正しい知識を学んで理解を深めたうえで自分の睡眠状態を正しく把握し、間違った認識や行動パターンを改善する方法を探っていきます。
例えば、眠れないときには次のような行動を通じて、ベッドや寝室を「よく眠れて心地よい空間」と感じられるように認知と行動を変えていくのです。
【眠れない日のおすすめアクション(一例)】
⚫︎眠くなるまで、寝床に入らないようにする。
⚫︎10分ほどしても眠れないときは、いったん寝室から出る。
⚫︎夜中に目が覚めてすぐに寝つけないなら、一度寝床から出る。
⚫︎寝床で読書や食事などをせず、寝るだけの場所と体に覚えさせる。
⚫︎日中昼寝をせず、夜は眠る時間と習慣づける。
蛍光灯や太陽光のような短い波長のブルーの成分を含む強い光は、日中に浴びれば覚醒を維持し、活動的に過ごせますが、夕方以降も浴びつづけると睡眠ホルモンである「メラトニン」の分泌が抑えられ、入眠を妨げてしまいます。夕方以降は波長の長い暖色系の赤い光に切り替えましょう。暖色系の光は、体内時計やメラトニンの分泌に対する影響が小さいことがわかっています。
眠る1時間前には明るさをさらに落とすとメラトニンの分泌が促されて、より眠りやすくなります。真っ暗だと不安で眠れなくなる人は、間接照明の控えめな暖色系の明かりを足もとに置いて灯すとよいでしょう。
構成・取材・文/国分美由紀
出典/『眠れなくなるほど面白い 図解 睡眠の話』(日本文芸社)