「女性の健康総合センター」開設で日本女性の健康はこう変わる！【増田美加のドクタートーク Vol.106】

増田美加（以下、増田）：女性の健康総合センターができたことで、女性の健康の何がどう変わるのでしょうか？

小宮ひろみ先生（以下、小宮先生）：女性特有の月経（生理）周期にまつわる不調、月経痛やPMSなどの正しい対処法や治療が進んでいくと思います。また、更年期の症状や更年期障害へのケアや治療の重要性も社会に広く認知されていくことも期待されます。「アンメットニーズ（まだ満たされていないニーズ）」という言葉がありますが、これら月経周期や更年期の不調は、日本では「アンリコグナイズドニーズ（認められていないニーズ、認知されていないニーズ）」であるという可能性もまだ否定できないと思っています。  

たとえば、「生理痛は痛くて当たり前」「生理前の頭痛をPMSと気づいていない」「疲れて仕方がないことを更年期障害と思っていない」など、我慢するのが当たり前で「治療すべき病気ではない」と思っている人もまだまだいらっしゃいます。

自分で気づかないうちにそれらの不調がQOLを低下させ、勉強や仕事、人間関係に影響していることもあると考えられます。 病院に行くのは、“大出血をしてから”ではなく、“少し不調だな”と思ったら、アクションを起こしてほしい。「我慢しなくていいんですよ」「それは健康な状態ではないんですよ」と強調したいです。この具合の悪さは、やはりウェルビーイングな状態ではないことに気づいてもらうことが大事だと思っています。

女性の健康総合センターの研究で、データが出て来てくれば、「こんなデータ出たから、ぜひこうして欲しい」とエビデンスをもとに言えると思っています。そうすれば、政策提言として、国に女性の健康を支援する体制の必要性をもっと説得力をもって言えると思います。

増田：月経痛、PMSなどに悩む女性が多いですが、女性の健康総合センターで解決、対策できることはありますか？

小宮先生：月経痛やPMSなどの女性のデータを解析して、今後さまざまなデータが出てきます。これから、さらに女性の健康支援に貢献していきたいと思いますので期待してほしいです。また、女性総合診療センターが、国立成育医療研究センター内に設置されました。女性総合診療センターでは、ライフステージと性差を意識して診療を進めています。 

女性特有の症状や病気はもちろんのこと、性別にかかわらずにかかる病気のうち、女性が多くかかりやすい病気に対して、女性内科、女性精神科、女性歯科が中心となって、性差を意識した診療を実施していきます。

ここでは、患者さんを中心にした医療（Patient-centered medicine）を心がけていて、体と心をトータルでみる医療を提供します。 診療科としては、女性内科、女性外科／婦人科、不妊診療科、女性精神科、女性歯科があります（女性外科および女性精神科は準備中）。

これらの診療科が連携して、患者さんを診療していきます。 また、必要に応じて、成育医療研究センター内の周産期・母性診療センターやほかの診療科、地域の医療機関とも連携をとっています。

増田：具体的には、どんな病気を診ていただけるのでしょうか？

小宮先生：子宮筋腫、子宮内膜症など婦人科の病気、月経困難症やPMS、更年期の不調、女性がかかりやすい内科の病気（甲状腺や膠原病など）、うつや不安症などメンタルの病気、歯科では歯肉炎、歯周病などの治療や歯のメンテナンスケアもします。

各科の専門医が担当し、センター内で連携をします。また、国立成育医療研究センター内にある周産期・母性診療センターは妊娠・出産に関すること、また女性の健康総合センターは産後のフォローを含め妊娠・出産以外の女性の健康を担当します。

さらに、どこの病院に行っても検査で異常なしと言われるが、めまい、動悸、疲れやすいなど体調が悪いという方にも、話をよく聞いて、漢方療法などで治療していきます。

増田：月経痛、PMSなどの悩みをもつ女性たちは、どんなアクションを起こせばいいのでしょうか？

小宮先生：産婦人科医としては、生活習慣が大事なことをお伝えしたいです。食事と運動と睡眠を大切にして、見直してほしい。まず自分でできることですから。

生活習慣を見直しても、よくならない、つらい症状が続く場合は、我慢しないで産婦人科へ行ってほしいです。自分に合うクリニックと治療法がきっと見つかると思います。 　

もしも、クリニックに行ってよくならないことがあっても諦めないでください。薬や治療法を変えることもできます。 たとえば、つらい月経痛でホルモン剤のLEPが合わない、よくならないときは、漢方薬を取り入れてみることもできます。

私は漢方専門医で漢方薬をよく処方していますが、月経痛やPMSが漢方薬だけでよくなる方もいます。

増田：自分に合った治療をしてくれるクリニックを見つける方法はありますか？

小宮先生：「女性外来」という名前を出している施設は全国に300くらいあります。もちろん婦人科でもいいですが、女性外来では、女性医療を専門にする医師が診療しています。

話をよく聞いて、患者さんの希望に合わせてくれると思います。また、日本女性医学学会で、女性の医療や健康を専門にした医師「女性のヘルスケア専門医」の認定を行なっています。

全国の専門医リストがありますので、そちらも参考にしてはいかがでしょうか。１か所であきらめないで欲しいです。医師と話をして薬や治療法を変えてもらうこともできます。話をすることで、医師と患者の信頼関係ができます。そうすることで、適切な治療にきっと出合えます。

■女性セルフケア専門医の全国リスト　 

増田：不妊、産後ケアなど、女性たちの悩みにこたえる（利用できる）窓口や対策はありますか？

小宮先生：不妊症は、全身疾患のひとつの症状という可能性を考えて、内科的な合併症などもフォローできるように、女性総合診療センターでは「不妊診療科」と「女性内科」が連携して診療を行っています。

妊娠成立後の母体に対する負担も考え、安心して妊娠・出産を迎えられるよう、健康状態を整えながら不妊治療を行うためです。

また、精神的なストレスに関しては、今後「女性精神科」ができますし、また近隣の医療機関との連携も図っています。 妊娠が成立した場合は、当センターの産科で出産することが可能ですし、ハイリスクの管理が必要な場合は、専門外来で対応しています。

産後ケアは、「日本助産師会」の全国の相談窓口があります。助産師さんに相談することも大切です。またそれぞれの自治体でも産後の相談窓口はありますので、自治体のホームページなどで探してみてください。 

■「日本助産師会」全国相談窓口

増田：ありがとうございます。まだまだ日本女性は、月経痛やPMSなどの悩みがあっても、何もケアせず、我慢している人が少なくありません。情報をアップデートして、女性の健康総合センターや女性総合診療センターのほか、小宮先生から紹介いただいた、さまざまな医療機関や相談窓口を利用して欲しいと思います。

イラスト／大内郁美　企画・構成・取材・文／増田美加