これからの季節、気温上昇や紫外線の増加、さらに梅雨の湿気により、肌環境が大きく変化します。気温や湿度の変化と共に、紫外線の影響によって起こりやすい肌悩みについて、美容皮膚科医に聞いていきます。
美容皮膚科タカミクリニック副院長
美容皮膚科医。埼玉医科大学卒業後、東邦大学医療センター大橋病院皮膚科、三井記念病院皮膚科ほかを経てタカミクリニック勤務。2021年より現職。ニキビ、毛穴などの治療から、シミ、シワ、たるみなどのエイジングケア治療を行なう。日本皮膚科学会、日本抗加齢医学会、日本小児皮膚科学会、日本美容皮膚科学会所属。
“A派”は肌の奥からシワやたるみに。“B波”は肌表面のシミ、そばかすの原因に

増田美加(以下、増田):紫外線は、肌老化に大きな影響を及ぼす要因です。紫外線の波長が長い順に、UV-A、UV-B、UV-Cの3つに分類されています。この3つのうち、肌に影響を与えるのは、どれでしょうか?
山屋雅美先生(以下、山屋先生):紫外線のUV-Cは、波長が短く、ほとんどがオゾン層に吸収されてしまいます。地表に到達するのは、おもに、UV-AとUV-B。つまり、紫外線対策では、UV-AとUV-Bから肌を保護する必要があります。最も影響するのが、肌に炎症を起こす日焼けです。
増田:UV-AとUV-Bが肌に与える違いはなんでしょうか?
山屋先生:UV-Aを浴びると、メラノサイト(色素細胞)が刺激され、メラニンが生成されることで肌が黒くなります。これは一種の防衛反応。肌を黒くすることで紫外線が皮膚の奥深くまで達するのを防ごうとしているのです。UV-Aの影響は、肌が黒くなるだけではありません。波長が長い紫外線なので、肌の奥深くの真皮まで到達し、そこにあるコラーゲンを破壊して、シワやたるみの原因を引き起こします。
特に、UV-Aには窓ガラスを通り抜ける性質があり、室内でも対策は必要です。また、UV-Aは、紫外線を浴びたあとに肌がヒリヒリするといった症状がなく、気づかない間に影響を受けているので要注意です。長い時間をかけて、ジワジワ影響を及ぼしていくのがUV-Aの特徴です。
一方、UV-Bは 表面的なトラブルが出やすい紫外線です。UV-Bに当たると、肌が炎症を起こして赤くなり、やけどのような状態になります。
日焼けして肌がヒリヒリし、水ぶくれができたりするのはUV-Bの影響です。 UV-Bは波長が短く、肌の奥深くにまで達することはありません。そのため、肌表面の細胞を傷つけ、炎症を引き起こします。シミやそばかすなどの肌トラブルの原因になるのがUV-Bです。
紫外線の季節、天気によるケアの違いは?
増田:紫外線は、季節や天気を問わずに降り注いでいるものの、紫外線量は季節や天気によって異なると聞きます。紫外線量の季節、天気による違いを教えてください。
山屋先生:紫外線は一年を通じて降り注いでいるため、季節を問わず油断はできません。もちろん季節による変化はあり、基本的には3月から強くなります。気温が上がると、だんだん強くなってピークは7月、8月。その後、下がってきますが10月までは強いと考えていいでしょう。
UV-Aは、冬でも夏の半分ほどの量があります。無防備な状態でいると、ジワジワと紫外線の影響を受けてしまいます。冬でもしっかり紫外線対策をすることが大切です。UV-Bが多いのは、4月~9月頃で、冬は夏の5分の1程度となります。
天気によっても紫外線の強さは変化します。晴れの日の紫外線量を100%とすると、薄曇りの日は約80%、厚い雲の日は約60%、雨でも約30~40%の量の紫外線が降り注いでいます。天気が悪いからと日焼け止めを塗らないで外出すると、日焼けをしてしまうので注意しましょう。

データ出典:気象庁「日最大 UV インデックス(観測値)の月平均の数値」2022 年〜2024年平均(つくば)
増田:すぐ赤くなる人、赤くならないが黒くなる人、赤くなるけど黒くならない人など、人によって違います。特に、どういう人が注意すべきなのでしょうか?
山屋先生:赤くなるのは、やけどのような炎症を肌に起こしている証拠です。赤くなる人は要注意です。黒くなる人は、メラニン色素が出て、皮膚に入らないように肌が防衛反応を起こしているので、そういう人のほうが肌へのダメージは少ないです。
肌の色が白く、太陽に当たっても肌が赤くなるだけで黒くならない人は、メラニンがほとんど産生されません。紫外線を浴びると光老化が進行しやすいため、注意が必要です。
SPFはいつも50をつけるべき?

増田:日焼け止めは、SPFいくつのものを使うのが、費用対効果を考えるといいでしょうか? SPF50を年中使うのは、肌に負担をかけますか?
山屋先生:日焼け止めの紫外線を防ぐ効果の高さは「SPF」や「PA」で表されます。SPFは、UV-Bを防ぐ効果を示すもので数値が大きいほど、UV-Bの防止効果が高く、日本では最大値は50+です。
PAはUV-Aを防ぐ効果を示し、「+~++++」までの4段階で、+の数が多いほどUV-Aの防止効果が高いことを表します。 選び方ですが、紫外線があまり強くない2月くらいまでは、SPF35が目安でいいと思います。
オゾン層の破壊が進み、昔より冬でも紫外線が強くなっているので、SPF20、30だと弱いとされています。3月になったら、SPF50に切り替えるようにおすすめしています。
ちなみに私は、犬の散歩で1時間外に出るので、冬でも天気の良い日にはSPF50を使っています。1年中、SPF50でもいいと思います。ただ、SPFが上がると肌への負担も少しは上るので、敏感肌、乾燥肌の人はSPF35くらいに留め、まめに塗り直すことでもいいかもしれません。
UV-B波が高いときはUV-A波も高いので、UV-Bに合わせてSPF50を使うときには、UV-Aも++++の4段階のものを選びます。
日焼け止めの塗り方の基本は2回塗り?

山屋先生:日焼け止めを塗る際は、塗りムラが出ないようにたっぷり、2回重ね塗りすることをおすすめします。塗る量が不十分だと、記載されている紫外線防止効果が得られません。
また、耳や襟足、胸元なども塗り忘れのないように。汗や摩擦で落ちることがあるので、昼休みなどに塗り直すことが大切です。
SPFが含まれた下地クリームやファンデーションだけでは、日焼け止め効果が薄いので、不十分です。下地やファンデーションを塗る前に、日焼け止めを塗ることをおすすめします。上まぶたに塗り忘れる人が多いので、塗り忘れないように。
髪の毛には、スプレータイプや、UVケアできるワックス、スタイリング剤に日焼け止め効果が入っているものもあります。髪も日焼けすると、色が抜けたり、頭皮のメラニンが破壊されたりして白髪の原因になる可能性もあります。
髪のキューティクルが破壊されて切れ毛など、髪を痛める原因になりますので、髪にもUVケアは大切です。
飲む日焼け止め、日傘・帽子はどの程度有効?

増田:飲む日焼け止めはどうなのでしょうか? 服用していれば、日焼け止めを塗らなくて済みますか?
山屋先生:飲むものと塗るものを一緒に併用するのは、効果が高くていいと思います。でも、飲む日焼け止めだけでは、十分な効果が得られません。塗る日焼け止めが大事です。
飲む日焼け止めは、日に焼けないわけでなく、紫外線を浴びることでDNAが傷つけられて活性酸素が発生することを防ぐ作用があります。
ほかにサプリメントで言えば、ビタミン剤は肌の修復再生に必要な成分ですので、ビタミンC、ビタミンB、ビタミンD(骨にも重要)を摂取しておくのはいいと思います。紫外線の強い南の島などへの旅行の場合は、飲む日焼け止めもビタミン剤も前もって飲んでおくといいですね。
増田:あわせて、サングラスや帽子も有効ですか?
山屋先生:目に紫外線が入ると、脳を介して肌のメラニンが作られ、肌が黒くなり、シミにも繋がります。白内障の原因にもなりますので、UVカットの眼鏡をかけることは大事です。
濃い色がついているサングラスは、眩しさを防いでくれますが、色が濃過ぎると良く見ようとして、目の光彩(瞳孔)が開いてかえって紫外線を吸収しやすくします。眩しいのが苦手でなければ薄い色でUVカット機能がついている眼鏡をかけましょう。
UVカットの日傘をさすことも紫外線対策に効果的です。顔や首、胸などへ紫外線が直接当たるのを防ぎ、紫外線の影響を抑えられます。ただし、地面からの照り返しの紫外線は防げません。やはり、日焼け止めをきちんと塗ることが基本です。
増田:紫外線による肌トラブルで、皮膚科を受診したほうがいい症状や病気はありますか?
山屋先生:紫外線リスクは美肌だけでなく、皮膚がんにもつながります。年齢が上がってできたイボは、良性のことも多いですが、皮膚がんの可能性もあります。大学病院の皮膚科、あるいは大学病院の皮膚科出身の医師に診てもらうことが重要です。
美容以外の皮膚科をしっかり学んでいない医師では、悪性腫瘍の知識が少なく見逃してしまうこともあります。 また、単なる日焼けでも、ひどいやけど状態で、水ぶくれや熱をもっていて、ヒリヒリ痛いなどがあれば、ステロイド剤の塗り薬や場合によっては飲み薬もありますので、皮膚科を受診してください。
みずぶくれは火傷なので、あとが残る場合や、感染症を起こす可能性もあります。
イラスト/大内郁美 企画・構成・取材・文/増田美加