脳と腸は互いに影響し合っていた!? 脳と腸の蜜月関係=“脳腸相関”について、前回の記事で大塚亮先生に詳しく解説をしていただきました。その仕組みがわかったところで、後編となる今回は“脳腸相関”で重要な役割を担う腸内環境の整え方について、引きつづき掘り下げていきます。

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おおつか医院 院長

大塚亮(おおつかりょう)先生

医学博士、循環器専門医、オーソモレキュラー・ニュートリションドクター(OND)認定医。大阪市立大学医学部附属病院循環器内科、Columbia University Irving Medical Cancer,Adult cardiology、西宮渡辺心臓脳・血管センター勤務を経て、おおつか医院院長に就任。日本内科学会・日本循環器学会・日本抗加齢医学会に所属。

セロトニンをつくるために、鉄や亜鉛を積極的に取り入れるべし

――腸内環境が悪いと、その状態が脳にも伝わり、どんどん負のサイクルに入ってしまうんですね。腸内環境を最善の状態に整えるには、どんな栄養素を摂取すればよいのでしょうか?

大塚先生:まずセロトニンの材料になるトリプトファンは必要不可欠です。これは必須アミノ酸といって、体内で合成できない栄養素で、食事からとらないといけません。トリプトファンが多く含まれる豆類や乳製品は積極的に食べたほうがいいですね。それから鉄、亜鉛、ビタミンB6がセロトニンの合成に必要ですが、不足している女性が非常に多い。それらが多く含まれるのが肉類全般と赤身の魚です。

――腸内環境を整えるのには食物繊維も必要ですか?

大塚先生:非常に大事ですね。食物繊維には不溶性と水溶性があるのですが、特に水溶性食物繊維が大事です。水溶性食物繊維はその名のとおり水に溶ける食物繊維で、腸内細菌の善玉菌が伝達物質や環境を整えるための物質をつくるときにどうしても必要になるのです。ごぼうのほか、山芋、オクラなどのネバネバしたものや、海藻類、キノコ類にも多く含まれているので、積極的に食べるようにしてください。それから発酵食品もオススメです。特に味噌や麹、納豆といった日本で発達した発酵食品を選ぶのがいいと思います。

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メンタル不調の改善には、朝からタンパク質が正解!

――ではメンタルを整えるという観点で、食べた方がいい食材はありますか?

大塚先生:鬱までいかなくても、なんだか元気が出ない、朝起きられない、立ちくらみがするなどの症状がある人の多くは鉄や亜鉛が不足していたり、タンパク質も足りていない人がほとんど。そういう人に限って「ちゃんと食べてます」と言うのだけど、量が少なかったり、選択しているものが悪かったりするので「それでは摂取したことになりませんよ」と伝えています(笑)。それらが不足すると、脳の中にある感情をコントロールする物質をつくることができなくなって、メンタルのバランスを崩すことにつながってしまいます。先ほど言った食材を選べば、おのずとメンタル面も整ってくると思います。

――なるほど。より効率的に摂取できるタイミングがあれば教えてください。

大塚先生:特にこの時間帯がいい、などということはないのですが、3食バランスよく食べることは大前提です。朝ごはんを食べない人や昼を簡単に済ませる人が多いけれど、特に朝食は必ず食べてほしいですね。食事をすることで胃や小腸が動き出し、腸の中のセロトニンが分泌を始め、自律神経も活動を始めます。前の晩にサラダを準備しておいて、卵料理をパパッと作って食べるだけでもいいので、とにかく朝ごはんを食べる習慣を作ってください。朝にパンを食べて昼は麺類で済ませ、夜に初めてタンパク質や脂質をとる人も多いと思うのですが、バランスが悪いのでやめましょう。

簡単にできる腸内環境を整えるレシピ3選!

――大塚先生は『お医者さんが薦める免疫力をあげるレシピ』をはじめ、数々の料理本も出されているということで、ぜひyoi読者にオススメな簡単にできる腸内環境が整うレシピを教えてください!

大塚先生:そうですねぇ。色々ありすぎて絞るのが大変なのですが、料理というほどでもない本当に簡単なものだと「アボカド納豆」。アボカドは腸の働きに効果的な水溶性食物繊維が入っています。脂肪が多いというイメージを持っている人が多いと思うのですが、腸内環境をよくする脂肪酸が多いので太りません。僕は納豆1つに対してアボカド半分くらいを入れて、納豆のタレとオリーブオイルで味つけしています。



――アボカド好きな方には朗報ですね!

大塚先生:毎日食べて大丈夫ですよ。アボカドに多い脂質は体に吸収されても同じものになるわけではないんです。脂質は1度分解されて脂肪酸になって吸収されるのですが、ほとんどはホルモンの材料や毎日入れ替わる細胞膜の成分として使われています。腸は必要のない脂を吸収せずきちんとコントロールしているので安心してください。むしろ気にすべきは炭水化物、糖質、デンプンです。この3つはとりすぎている人がほとんどで、とり過ぎた分は中性脂肪などに合成され、脂肪細胞としてため込まれてしまうから太るのです。タンパク質と脂質をしっかり摂る生活をしていたらそんなに太らないので、肉も魚もアボカドも気にせずたくさん食べてください

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担当ライターMがトライ! アボカドを切って混ぜるだけで超簡単。

大塚先生:アボカド納豆よりは難易度が上がりますが「アクアパッツァ」もオススメです。僕は鯛を使うことが多いですが、白身魚ならなんでも合うと思います。もちろん切り身でも問題ありません。オリーブオイルで魚を焼いたら、ニンニクを加え、トマトやブロッコリーなどの好きな野菜をたっぷり入れて、水とワインで煮込むだけなので簡単ですよ。

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担当エディターKがトライ! 白ワインに合う味♡ ホットプレートで作ると、簡単かつそのまま食卓に持っていけるので便利。

大塚先生「炊飯器でできるカオマンガイ」もオススメです。お米、鶏肉、調味料を炊飯器に入れて待つだけなので、忙しい方でも手軽にできるのではないでしょうか。お米は白米でもいいのですが、もち麦を入れることで食物繊維もとれるのでぜひやってみてください。

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担当エディターKがトライ。たっぷりの生姜が効いてる! ジャスミンライスを使うと、本格エスニックの味に。

良質な睡眠、適度な運動、入浴習慣が腸内環境を整える

――腸内環境を整えるために日々気をつける行動があれば教えてください。

大塚先生いちばん大切なのは睡眠です。寝るときに腸を働かせる副交感神経に切り替わるので、寝ている間に腸が整うんです。それから運動も大事ですよね。デスクワークで座りっぱなしの人は、自律神経が刺激されないので腸の動きも悪くなりやすいです。もうひとつ、習慣として取り入れてほしいのが入浴。40度くらいのお風呂に入ると、副交感神経が刺激されるので、腸にとっていい影響が出ます。

――運動習慣がない人は、仕事の行き帰りで一駅歩いたりするだけでもよいですか?

大塚先生:もちろん。運動が苦手なら、太極拳やヨガもオススメです。ゆっくりと呼吸をすることでセロトニンが分泌されやすくなるので、脳にも腸にもいい影響があります。それから、朝日を目に浴びるというのも実は大事です。網膜に太陽の光が入ることで自律神経のスイッチが入ります。ちょっとしたことですがその後の活動に大きく影響してくるので、ぜひ習慣として取り入れてください。

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――朝の行動が1日をつかさどるってことですね!

大塚先生:その通りです。ちなみに腸が悪いと下痢や便秘になるだけでなく、他の病気も誘発することも。最近では、腸の状態が悪くて便秘ぎみの人がパーキンソン病になる率が高いことがわかってきました。疫学的な理由はまだわかっていないのですが、色々なところに腸の環境が影響しているわけです。

――便秘気味の方は、要注意ですね…!

大塚先生:そうですね。腸の状態はよいに越したことはありません。腸の周りで神経細胞が発達していったという証拠のひとつが発表されたのが2〜3年前で、まだまだ解明されていない部分がたくさんあります。保有している腸内細菌も個々でかなり違っているので、アスリートや学者など、職種によってパターンがあるのではないかという研究も進んでいます。

余談ですが、とある先生が、自分の腸内にある菌を殺して、優秀なアスリートと同じパターンの腸内細菌を注入するという実験を行なったのですが、性格まで変わってしまったそうです。気さくで明るくてお酒が好きな先生だったのに、実験をやった後にはまったくお酒が飲めなくなり、性格もストイックになったのです。結局元の細菌の方が強いので、1年くらいかけて徐々に元の性格に戻られたようです。

――腸が脳をコントロールしているということがよくわかる例ですね!

大塚先生:腸が第2の脳と言われていましたが、実は腸が僕らにとって第1の臓器であり、腸を健やかに保つことが、脳へもよい影響を与え、日々の幸せにもつながります。ぜひ腸内環境を整える生活習慣を取り入れてみてくださいね。

取材・文/菊池美里 企画・編集・イラスト/木村美紀(yoi)