張り詰めていた糸がプツンと切れたように、突然やる気を失い、すべてがどうでもよくなってしまった......。このような「燃え尽き症候群(バーンアウト)」は、まじめで努力家な人ほど陥りやすく、女性のほうがなりやすいといわれています。知っているようで知らない「燃え尽き症候群」の症状や原因について、精神科医の竹内今日生先生にお話を伺いました。
精神科医
1974年生まれ、東京都出身。 帝京大学医学部を卒業後、全国的に臨床を重視した精神科として有名な福岡大学病院で、思春期から老年期までの神経症性障害や、ストレス関連疾患の臨床・研究・教育を行う。複数の精神科勤務を経て、平成26年5月より医療法人社団「ひびきメンタルクリニック」に在籍。理事長を務める。著書に『みんなのメンタルクリニック入門』(文芸社)、『子どもの悩み、家庭の悩み ハブ機能としてのメンタルクリニック』(文芸社)などがある。
保有資格
・精神保健指定医
・日本精神神経学会専門医
・日本医師会認定産業医
・日本児童青年精神医学会所属
Q1.燃え尽き症候群はどんな症状?

A1.労働によるストレスを原因とする心身の疲労感が主な症状です。
竹内先生:燃え尽き症候群とは、それまで意欲的に活動していた人が突然「燃え尽きた」ように元気を失ってしまう症状のことです。
「症候群」というのは「症状」を指す言葉で、診断書やカルテで使用される「病名」とは違うものなのですが、WHOによって定められている、世界中の医療現場での診断基準を統一するための手引書「国際疾病分類(ICD-11)」には「燃え尽き症候群」も含まれており、正式な医学用語として認められています。
Q2.うつ病と燃え尽き症候群の違いは?

A2.燃え尽き症候群は「うつ病の一歩手前」、もしくは病態の一部といえます。
竹内先生:「うつ」という言葉も、一時的な症状としての「うつ状態」と、その症状が長期的に続いた場合の病名である「うつ病」で使い分けられています。
うつ病は「病名」ですが、燃え尽き症候群は「症状」という扱いです。
従って「燃え尽き症候群からうつ病へ進行してしまう」「うつ病の症状の中に燃え尽き症候群が当てはまる」ということがありえます。
スマホで例えるなら、燃え尽き症候群の場合は、スマホの電池残量が非常に少ないという状態。しっかり充電することで早期回復も見込めます。
一方でうつ病の場合は、スマホ本体が故障していて、充電しても起動しないような状態です。短期的な休養や服薬での全快は難しく、原因を見極めて根気よくつき合っていかなくてはなりません。
Q3.なぜ燃え尽き症候群になってしまうの?

A3.「頑張りすぎ」が主な原因。進行度合いは3段階に分けられます。
竹内先生:抱えきれないほど重たい荷物を持ったとき、パッと手を離して荷物を放り出せば自分の骨は折れませんが、なんとかして持ち続けようとしていると、ある瞬間にボキッと折れてしまう。
心もこれと同じで、限界まで我慢してしまうとその分ダメージが大きくなってしまいます。
燃え尽き症候群の場合は、自分自身のほか、家族も含めた進級・進学・就職などで環境が大きく変化する季節になる方が多く、受診される方の6〜7割が、春から夏にかけての年度はじまりに集中しています。
症状のプロセスには、大きく分けて下記の3段階があります。
①情緒的消耗感
燃え尽き症候群の初期症状。頑張りすぎて疲れきってしまった状態で、今までやりがいを感じていたことにも無気力になる。
②脱人格化
情緒的消耗感の次に生じる状態。イライラする場面が多くなり、言動が粗暴になるなどして対人関係に支障が生じる。
③個人的達成感の低下
①と②の状態が続くことでアウトプットの質が大きく低下し、「自分はダメなんだ」という自己否定の感情が強くなる。
Q4.女性のほうが燃え尽き症候群になりやすいって本当?

A4.相対的な発症リスクは女性のほうが高い傾向にあります。
竹内先生:医療・保育などの現場や、接客業・販売業に就き、相手のために自分の気持ちを抑制する必要がある「感情労働」を担っている方は、心の消耗頻度が高い傾向にあります。
加えて、現代では仕事と家事・育児・介護などとのバランスを保つことが精神的な負担になりやすい。
女性は特に他者への共感性が高いという研究もあり、これらを相対的に見て、女性のほうが燃え尽き症候群になるリスクが高いと思います。
構成・取材・文/月島華子 イラスト/大内郁美