「ヨガニドラ」という言葉を知っていますか? ヨガの古典的なエッセンスがベースにありながら、20世紀中盤に体系化された、現代人の悩みに効く、究極の疲労回復法なんです。今回は、自身のYouTubeチャンネルで多くの「ヨガニドラ」コンテンツを発信し、多くの支持を集める、瞑想・ヨガ指導者の綿本彰さんにその効果や現代人にぴったりな理由を教えてもらいました。

お話を聞いた人
綿本彰

日本ヨーガ瞑想協会会長

綿本彰さん

全米YOGAアライアンス認定500時間指導者トレーナー。幼い頃より父である故綿本昇師からヨガを学ぶ。大学卒業後、インドなど世界各地でさまざまなヨガ、アーユルヴェーダを学び、1994年から指導を開始。現在は日本全国、世界各国でヨガや瞑想の指導にあたる。雑誌や書籍をはじめ、メディア監修多数。ヨガニドラのガイド音声を配信しているYouTube「綿本彰 眠りと瞑想チャンネル」では総再生回数2000万回を突破している(2025年6月11日時点)。

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「ヨガニドラ」とは?

──まずは「ヨガニドラ」とは何なのかを教えてください。

綿本彰さん(以下、綿本):「ヨガニドラ」はサンスクリット語(古代インド・アーリア語に属する古典言語)で、直訳すると「ヨガの眠り」を意味します。ルーツは古代インドですが、比較的最近できたメソッドで、スワミ・サティアナンダ氏によって20世紀中頃に体系化され、広く知られるようになりました。

具体的な方法としては、寝た姿勢のまま誰かの誘導の声を聞きながら、寝落ち直前のギリギリの覚醒状態を保ち、執着や固執、こだわりを手放していく瞑想法の一種です


誘導の音源としてCDなどもありますが、いちばん手軽なのはYouTube
10分程度の短いものからさまざまなパターンのものがあり、初めて実践する人でも気軽に利用できます。誰かの声を聴きながら、完全に受け身でいることが「ヨガニドラ」において最も大切なことです。

──CDやYouTubeで流す誘導の音声は、具体的にどんな内容なのでしょうか?

綿本:まずは大願(たいがん)という、自分にとって“大きな”願いごと、例えば「私は幸せに満ちている」「私は夢をかなえている」などを心のなかで唱えるように語りかけられます

誘導の音声に従って大願を唱えることは、覚醒状態に留まる助けになります。また、人の脳は大きな願いを持つと、他のことを手放しやすくなるので、「ヨガニドラ」においては重要な要素なんです。

次に、体の部位に意識を向けるボディスキャンを行うように語りかけられます。例えば「右の肩甲骨、左の肩甲骨、背中の真ん中あたり・・・」といった感じに、まずは細かいパーツから。

ひと通り全身の部位に意識を向けたら、今度は背中全体といった、より広い範囲に意識を向けたり、呼吸を通して全身を感じたり、徐々に俯瞰的な視点に変えていくのが「ヨガニドラ」のガイドの特徴です。


意識を向ける対象を指定しながらも、流れるように語りかけられるので、日常の気がかりなことからは意識が遠のくとともに、神経が高ぶらない程度のほどよい集中が生まれ、ギリギリの覚醒状態を保つことができるのです。

間が長すぎると寝てしまうのですが、寝落ちしそうな絶妙なタイミングで誘導の音声が入るのもポイント。

「ヨガニドラ」はもともと睡眠のツールではなく、ギリギリの覚醒状態を保つことが目的なので、そのための工夫がちりばめられているメソッドになっています

※YouTubeを使う場合は、終了のタイミングで広告が流れることを防ぐため、スリープタイマー機能を活用したり、自動再生をオフにしたりしてください。

脳疲労軽減、自律神経調整、睡眠の質向上…。「ヨガニドラ」のすごい効果

──「ヨガニドラ」を実践することでどんな効果が得られるのでしょうか?

綿本:先ほど申し上げた通り睡眠法ではないのですが、ストレスを低減させることで、入眠を促したり、眠りの質を高めたりすることがわかっていて、結果的に睡眠に活用している人が多くいます。

私たちは日常でいろんなことに意識が奪われ、執着し、それによってストレスが生まれ、脳は常に疲れています。

考え事でいっぱいだったら、当然眠れませんし、すぐ寝落ちしてしまっている場合は、眠っていても考え事をしている状態が続くので、眠りの質が悪くなってしまいます

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綿本:「ヨガニドラ」をすることで、気になっていることを手放すことができ、脳を休めてから眠れるので、睡眠の質の向上につながるのです。

他にも筋肉の疲労軽減や、自律神経の調整などにも効果があることがわかっています。「ヨガニドラ」は、科学的な検証が多く行われており、これらの効果にはエビデンス(※)もあります。

※「ヨガニドラ」に関する論文の出典元の例
Suruchi, 2024, "Functional connectivity changes in meditators and novices during yoga nidra practice." , Sci.Rep.
Karuna, 2021, "Yoga nidra practice shows improvement in sleep in patients with chronic insomnia: A randomized controlled trial." , Natl.Med.J.India.
Roberta, 2017, "Using Yoga Nidra to Improve Stress in Psychiatric Nurses in a Pilot Study." , J. Altern. Complement. Med.

現代人に「ヨガニドラ」がフィットする理由

──「ヨガニドラ」のガイドなどを提供している綿本さんのYouTubeチャンネルではチャンネル総再生回数が2000万回を突破するなど多くの方が利用していらっしゃいます。「ヨガニドラ」が現代人に必要とされているのはどんな理由があるのでしょうか?

綿本:まずは“タイパ”という言葉が普及し、隙間時間を何かで埋めようとマルチタスクで詰め込む傾向が現代人にはあると思います。

すると、寝る直前まで脳の緊張状態が続いてしまうので、そういう方々のストレス低減に「ヨガニドラ」が役立ちます。

そして、“ラクしたい”というのも現代人の特徴のひとつだと思います。同じ効果を得るにしても極力ラクをして、効率よく、という傾向が強くなっていますよね。

本来、脳の疲れを取るには全力で体を動かすというのがいちばん効果的です。でも、疲れるし時間も取られるから嫌だ、となったときに、「ヨガニドラ」なら、ただ聞いているだけなので、究極的にラクして脳疲労を解消でき、現代人のニーズに合致します

そして3つめは、現代人は執着が増している、こだわりが強くなっている傾向があるという点です。

今ほど技術が発達していなかった時代に生きていた人たちにとっては、思い通りにいかないことのほうが当たり前だったと思います。でも、現代では自分の思い通りになるのが当たり前で、少しでも思い通りにならないだけでストレスを感じてしまいませんか?

自分の思い通りに物事を進めようというこだわりはストレスの原因となり、その気持ちが強いほど、「まあ、いいか」と簡単に手放すことができなくなってしまいます。

でも、そんな現代人でも1日のうち、唯一、執着がまったくない状態を経験しているんです。それが、眠りに落ちるギリギリの意識状態のとき。逆に執着があると眠ることはできません。

「ヨガニドラ」は、その状態を保ち続けることによって、背負っている執着やこだわりを手放す時間。執着は生きていくうえで必要なものではありますが、一時的に手放せる状態を自分で作れるスキルを持っておくことは健康な毎日にとても大切です。

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リラックスして聞くだけ! 超簡単な「ヨガニドラ」実践法

──具体的な実践方法を教えてください。

綿本:入浴中や運転中など、寝落ちすると危険な場所やタイミングを除いて、安心できる環境でリラックスできる姿勢で「ヨガニドラ」用の音声を聞きながら行いましょう。

基本はあお向け推奨ですが、リクライニングを使っても、横向き寝でも構いません。仰向けで腰が痛い方は膝を曲げて、膝の下に丸めた毛布や枕を入れて、毛布などをかけ、体が冷えないようにしてください。

食後30〜60分を除き、いつでも実践できまどうしても集中できないときは音を聞き流すだけでも、途中でやめてもOKです。

エディターが実践! 寝落ち必至の「ヨガニドラ」

普段から眠りの質が悪く、睡眠時間も短めで、一度眠れないと、明け方まで眠れないこともあるエディターの長谷が「ヨガニドラ」を実際に自宅で実践。

今回は、夜遅くまで仕事があり、神経が高ぶった状態が寝る直前まで続いていると感じたタイミングで実践。綿本さんのYoutubeから、誘導音声10分バージョン(スリープタイマーをセット)をベッドで流して聞きました。

ベッドに入った直後は頭がかなり冴えていたにもかかわらず、ボディスキャンが始まると意識がぼんやりしてきて、10分たたないうちに自然と眠っていました

これ以来、すっかり「ヨガニドラ」にはまり、眠れないときは、20分バージョン、45分バージョンなどいろんな音声を活用しています。特別な準備もいらず、音源も簡単に利用できるので、ぜひ皆さんも実践してみてください!

画像/Shutterstock 取材・文/長谷日向子