旅好き、金沢好き、サウナ好きに話題! 金沢の中心地・香林坊に建つ「香林居」。築50年のギャラリービルをリノベーションした意匠的な建物には、蒸留所を併設し、ルーフトップサウナや瞑想スパ、台湾朝食など、この地の文化と異国情緒が交じり合う“処方”をテーマにしたホテルで、不思議とくつろぐ“ひとリートステイ”を、人気エディター東原妙子さんがレポートします!

ととのう 東原妙子 金沢 香林居 一度は泊まってみたい ひとリート

東原妙子

ファッションエディター、クリエイティブディレクター

東原妙子

東京生まれ。高校時代は読者モデルとして活躍し、大学卒業後は銀行OLを経て出版社に転職。現在はフリーのファッションエディターとして、女性誌を中心にブランドの広告やウェブコンテンツ製作などで幅広く活躍。アパレルブランドとのコラボ商品の開発や、ECブランドのクリエイティブディレクターも務める。ファッション以外にも、趣味はサウナ、温泉、旅行、漫画、グルメ(主に鮨)など多岐にわたり、飾らないキャラクターが人気のInstagramはフォロワー6.5万人超え。

こんにちは。
ご存じの方もいらっしゃると思いますが、生粋の『片づけられない女』東原妙子です。
世界中どんな場所でもたちまちゴミ屋敷の『東原家』を作り上げてしまう散らかしの才能に、旅友達からいつも惚れ惚れされています。

さて、そんな心の広い旅友達やサウナ仲間から、“金沢で泊まるならここ!”とおすすめされていたのが、今回訪れた全18室のホテル「香林居」です。

蒸溜所を併設。意匠的アーチをモチーフにした古くて新しい建築

ととのう 東原妙子 金沢 香林居 建築 眞美堂 リノベーション

「香林居」外観

金沢駅から車で約7分、香林坊の交差点からほど近い観光エリアの中心にあって、アーチ型の窓がひときわ目を引く個性的なたたずまいのビル。
古いのか?新しいのか? 一見時代感を見失うような何とも不思議なムードを放っています。

「香林居」は、九谷焼をはじめ古くから世界の工芸品を扱うギャラリー『眞美堂』の築50年のビルをリノベーションして2021年にオープンしたホテルです。
象徴的なアーチ状のファサードは、『眞美堂』ビルの時代に耐震補強のため手作業で造られたもので、「香林居」の内装や空間演出にはあちこちにこのアーチのモチーフが使われています。

ととのう 東原妙子 金沢 香林居 建築 蒸留所

1階エントランスに併設された蒸溜所

ととのう 東原妙子 金沢 香林居 書家 寺島響水

書家・寺島響水氏による「香林居」の屋号

中に入ると、配管がむき出しの空間に、何やら大きな機械がお出迎え。まるで工場のような様子に、思わず一度外に出て「香林居」の名を確認してしまいました。

ここ、何と実際に精油の精製を行っている蒸溜所なんです。
“この土地の匂いや気配を感じてほしい”という想いから、ホテルの中で白山の水と森林素材を毎日蒸溜。抽出したフレッシュな精油と芳香蒸溜水を、サウナ用のロウリュウウォーターやルームスプレーとして活用しているそう。 

ととのう 東原妙子 金沢 香林居 建築 ラウンジ チェックイン

2階ラウンジでチェックイン

蒸溜所を通り抜け、奥のエレベーターで2階のラウンジへ。
まずはこちらで、100年以上の歴史を重ねた九谷焼の茶器で桂花茶をいただきながら、チェックインを済ませます。

打ちっぱなしのコンクリートやモルタル壁には、様々なジャンルの本が並び、広いアーチ型の窓の外には金沢城跡の自然と、香林坊の街並みが交差する風景が広がります。

こちらのラウンジでは、宿泊者なら到着時からチェックアウトまで、いつでもオリジナルのドリンクをいただける嬉しいサービスも。

ととのう 東原妙子 金沢 香林居 アンティーク 九谷焼

『眞美堂』時代から受け継いだ、明治・大正期のアンティークの茶器

ととのう 東原妙子 金沢 香林居 建築 ラウンジ 水の森 海のビー玉

「香林居」のテーマのひとつである“水”にまつわる本が並ぶ

円弧と直線、光と影が交錯する全18室の客室

ととのう 東原妙子 金沢 香林居 建築 九谷焼 ルームプレート 丸谷牧子

プライベートサウナが付いた「ハイフロアスイート(サウナ)」から、1~2名向きのこじんまりとした「スタンダード」まで、「香林居」の客室は全18室。
今回は、3番目に広い「スーペリア」に宿泊しました。

ほの暗い廊下を進むと、先には302と書かれた九谷焼のルームプレート。
これは陶芸家・丸谷牧子氏の作品で、九谷焼というと絵付けの美しさが特徴のひとつではありますが、あえて白磁のつるっとした風合いを残したミニマルな雰囲気がここ「香林居」によく合います。

ととのう 東原妙子 金沢 香林居 意匠建築 ホテル ヴィンテージソファ

ドアを開けると、モルタル壁の広々とした空間に、クイーンサイズのベッドがふたつ。小さな書斎スペースと、デンマークからやってきたデザイナーズソファが設置されています。

ホテル全体の建築モチーフになっているアーチと、キリっとした直線がミックスする構成に、最小限に抑えた柔らかな照明と、それによって生まれるアンニュイな陰影、動きによって色を変えるカーテンの揺らぎ……。
無機質なようで、同時にどこか有機的なぬくもりも感じる、何だか穴倉のような、繭に包まれているような雰囲気が何とも心地いい。 

そうこうしているうちに、ものの1時間でふと気づけば、素敵に客室が見慣れた『東原家』の状態に(写真は自粛)。それだけ自宅のようにくつろげる空間ということですね。

ととのう 東原妙子 金沢 香林居 建築 ホテル ルームライト

アーチ型の傘が象徴的なペンダントライトは、香林居のために製作されたもの

金沢 ひとリート ベッドランプ 香林居 ホテル

ベッドサイドのライトも小さいながら存在感があります

金沢の風土や文化をまとうオリジナリティあふれるアメニティ

ととのう 東原妙子 金沢 香林居 サウナ ホテル バスルーム

バスルームには、ホーローのバスタブにアレカヤシの大鉢。
備え付けのバスアイテムは、すべて自社開発のアメニティブランド『Petrichor』のものです。
生命にとって欠かすことができない“水”を起点にしたレーベルで、原料には1階の蒸溜所と同じ白山麓の水を使用し、無香料・無着色・サルフェートフリー・シリコンフリーなど透明性のある成分にもこだわっています。

ととのう 東原妙子 金沢 香林居 サウナ ホテル アメニティ petorichor

「Petrichor」のバスアイテム。1階でも販売

また、この無国籍なムードのオリジナルの館内着は、JIL SANDERのデザインチームに所属していた「HARUNOBUMURATA」デザイナーの村田晴信氏が担当。
さすがの洒落たデザインながら、ゆったりと着心地も抜群です。

館内着だけでなくスタッフの制服も村田氏のデザイン。
「香林居」のテーマのひとつでもある“桃源郷(ユートピア)”という言葉からインスピレーションを得たそうで、こういうところもこのホテルの非日常感を生み出している要素のひとつですよね。 

ととのう 東原妙子 金沢 香林居 サウナ ホテル ジルサンダー 村田

ととのう 東原妙子 金沢 香林居 サウナ ホテル HARUNOBUMURATA ジルサンダー

客室には2種類の茶葉が置かれているので、自由に淹れて九谷焼の茶器でいただくことができます。
「浮世」と名付けられたこの茶器は、錦山窯・吉田るみこ氏の作品。夕暮れ時のおぼろげな時の移り変わりを表現したという薄藤色の淡いグラデーションが美しい。

その他、冷蔵庫に入っているご当地のお酒やソフトドリンクもご自由に。

ととのう 東原妙子 金沢 香林居 サウナ ホテル 九谷焼 錦山窯

浮遊する瞑想リラクゼーション「アイソレーションタンク」を体験

ととのう 東原妙子 金沢 香林居 サウナ ホテル アイソレーションタンク

“isolation”=遮断すること。アイソレーションタンクとは、光と音を遮断し、体温とほぼ同じ温度の高濃度エプソムソルト水溶液に全身を浮かべる装置です。
「香林居」では、この装置を使い、無重力に近い浮遊感に体をゆだねることで、深い瞑想状態へと導いていくリラクゼーションプログラムを体験できます。

カウンセリング後、全身をきれいに洗ったら、キングベッドくらいの大きさがあるマシンに裸で横たわり、自分でフタを閉めたら真っ暗闇の世界へ……! 軽く暗所恐怖症の気があるので最初はドキドキしていたのですが、すぐに慣れてきました。

ぷ~かぷかと全身を浮かべてみると、体中どこの筋肉も使わず、何にも触れていない、ただ空中に浮いているような不思議な感覚。
今までは瞑想のプログラムに参加しても、仕事のことや、「お腹空いたな~」とか、どうしても雑念が浮かんでしまっていたのですが、アイソレーションタンクにより音も光も皮膚感覚もすべてが遮断され、眠っているのか起きているのかも曖昧な状態で60分間を過ごしたあとは、頭のてっぺんからつま先まですべての緊張がほぐれ、心身ともに完全なる脱力状態に。

タンクから出てシャワーを浴びたら、石川の地サイダー『しおサイダー』を飲みながら、瞑想中の感想などを書き記してプログラムは終了。

これはスゴイかもしれない……。
生まれて初めてのディープリラックスを体感し、その夜はぐっすりと眠ることができました。

アイソレーションタンクは別途料金で、宿泊者でなくても利用できます。
60分(準備等含む所用時間120~150分) ¥9900 

ととのう 東原妙子 金沢 香林居 サウナ ホテル メディテーション 瞑想 アイソレーション

香林坊の街を一望するルーフトップサウナ&バス

ととのう 東原妙子 金沢 香林居 サウナ ホテル ルーフトップサウナ

事前に予約してあった、屋上のルーフトップサウナ&バスへ。
90分の貸切制(別途料金)なので、人目を気にせず自由に過ごせます。
エレベーターで最上階の10階に上がり、レンタル水着に着替えて、いざ! 

サウナ室は、寝転んでも十分な広さ。ホテル1Fの蒸溜機から抽出された芳香蒸溜水でセルフロウリュウをすると、フレッシュな木の香りで満たされて心地いい♡
屋上に出ると、左に水風呂、右にホットバスで、温冷交互浴もOK。

この日の金沢は大雪!
正直水風呂はおちおち入っていられない極寒でしたが、金沢市街のど真ん中で、真っ白な雪景色を見下ろしながらのユニークなととのい体験となりました。

こちらは宿泊者でなくても利用でき、地元のグループにも人気のようでした。
90分¥7480、定員最大4名 

ととのう 東原妙子 金沢 香林居 サウナ ホテル 貸切サウナ

ととのう 東原妙子 金沢 香林居 サウナ ホテル セルフロウリュウ ルーフトップサウナ

東洋医学思想をベースにした台湾朝食で体が目覚める

ととのう 東原妙子 金沢 香林居 ホテル 台湾レストラン KARCH

ホテル併設のレストラン「karch」

翌朝は、ホテルの半地下空間にある「karch」で体に優しい台湾朝食を。
香林坊という土地が、かつてここで営まれていた薬局の名前に由来することから、東洋医学思想をベースとしたタイワニーズキュイジーヌのレストランを併設したそう。

まずは、一杯の手作り豆乳からスタート。
メインの薬膳粥は3種類から選ぶシステムで、私は一番人気の薬膳鶏粥にしました。
他にも、加賀棒茶や、金沢名菜、のと豚など、地元食材も取り入れた滋味深い食事をいただき、ほっこりとお腹も満足♡

ちなみにディナー営業は行っていないので、前日の夕食はお目当てのお鮨屋さんでごちそうを。金沢の中心地なので、行きたいお店がたくさんあり食事に困ることはありません。

ととのう 東原妙子 金沢 香林居 ホテル 台湾料理 朝食 台湾粥

ととのう 東原妙子 金沢 香林居 ホテル KARCH タイワニーズキュイジーヌ

“新しい金沢時間を処方する”桃源郷のようなホテル

ととのう 東原妙子 金沢 香林居 ホテル ラウンジ リラックス 読書 

「香林居」のコンセプトは、“新しい金沢時間を処方する”。

『香林坊』という地名は、かつて延暦寺の僧だった「香林坊」という人物が、のちに還俗し加賀の薬種商として大成したことから、薬局に由来しています。
そんな歴史をふまえ、「香林居」のコンセプトは、“処方”をキーワードに組み立てていくことになったそう。

また、『香林』とは、さまざまな漢詩で詠われている中国の美景地区の名であり、異宗教と異民俗が融合した“理想郷”という意味を持つ言葉でもあります。
改装前のビルは、古くから世界の工芸品を扱うギャラリー『眞美堂』。そして、兼六園や21世紀美術館にもほど近く、香林坊は時代を超えて歴史や文化の香りをまとう場所。

ここにしかない豊かな時間を、心と体に処方するホテル。誰しもが心の奥底で夢想する“桃源郷”を——。
そんな想いから「香林居」が生まれたのです。

確かに滞在中は、ところどころにこの土地ならではの魅力を感じながらも、国も時代も何だか曖昧で、たびたび自分の現在地を忘れてしまうような非日常的なムードが漂っていて……。
ただ穏やかにゆったりと過ごすひとり時間、心身ともに深くリラックスすることができました。
旅仲間のリコメンドも納得!

まさに、疲れたらふとひとりでも立ち寄りたい“桃源郷”のような素敵なホテルに出会えました。 

ととのう 東原妙子 金沢 香林居 ホテル 処方

ととのう 東原妙子 金沢 香林居 ホテル ハーブティー

ととのう 東原妙子 金沢 香林居 サウナ ホテル 案内板 照明

金沢駅に到着したら大雪でした

画像デザイン/齋藤春香 イラスト/木村美紀 写真提供・構成・取材・文/東原妙子