三重県・湯の山温泉エリアに、「アクアイグニス」の別邸としてオープンした「湯の山 素粋居」は、8つの素材をテーマにした美術館のような全室離れの宿。各部屋に備えた源泉かけ流し露天風呂と、併設された選べる名店レストランで、美食と癒しにひたる自由な旅を、エディターの東原妙子さんがレポート。

こんにちは。
世にもどうでもいい情報なのですが、実は石フェチな東原妙子です。
山や川辺で気を抜くと何時間も石を愛でてしまったり、石の器を集めたり、かつては自分のアパレルブランドで石の写真をプリントした“石T”まで作ったことがあります。
そんな私が今回ワクワクしながら向かったのは、石を含む8つの素材がテーマの宿。
名古屋から車で約1時間。
三重県・菰野町御在所岳の麓、湯の山温泉エリアにある「アクアイグニス別邸 湯の山 素粋居」(以下、「素粋居」)です。
こちらは、“癒し”と“食”をテーマにした複合温泉リゾート施設「アクアイグニス」の別邸として、2020年にオープンしました。
8つの素材をテーマに意匠を凝らした12棟のヴィラ

車で伺う場合、エントランスから入ってそのまま宿泊するヴィラまで乗りつけて目の前に駐車でき、客室でチェックインというスムーズな流れ。
敷地内に立ち並ぶ12棟の客室ヴィラは、「石」「土」「木」「鉄」「漆喰」「和紙」「漆」「硝子」という8つの天然由来の素材がテーマになっていて、外観からして材質や作りもひとつとして同じ建物はなく個性的。
私が今回選んだ「石砬(せきろう)」は、その名の通り「石」がテーマの棟。
入口ドアの脇にどーん!と置かれた巨石が目印です。
世にもどうでもいい情報なのでもう早くもお忘れかと思いますが(笑)、私、冒頭でお伝えしたとおり、石フェチなもので。

「石砬」のリビングに置かれた巨大な石!!!
リビングに入ると、これまたどどーん!!
室内に置くには異質なほど、とんでもなく大きな石が鎮座しています。ぐるりと360°見回してみると、下が細いのにグラグラもせず、見れば見るほど不思議な存在感。
なぜに倒れないのか?
どこからやってきたのか?
どうやってここに運び入れたのか?
そして、寝室に入るとそこにもすかさず石……。
ベッドと間違えて石の上で眠ってしまう人はいないのか?
石フェチとはいえ、謎は深まるばかりです。
これらの石は地元で産出する「菰野石(こものいし)」。
石フェチ的には、一晩中、誰にも邪魔されずに、目の前で石を眺めたり触れたりできるという幸せ空間。存分にその癒しとパワーを浴びることができます♡

ベッドルームにもすかさず石!

「今月の#由美たえこ」は地中から湧き出た感じでお送りいたします
全棟100%源泉かけ流しの露天風呂つき。
リビングの目の前で、まるで地面の中に埋めこまれたような作りがアート作品のようにユニーク!
ここにもまわりに石が敷き詰められています。
露天風呂含め、インテリアや照明、本、アートなども、各棟のテーマに合わせて選ばれていて見れば見るほど興味深い。
また、どのヴィラも広さが90㎡以上あり、ベッドルームと和室を完備なので、お風呂上がりに畳の上で大の字になって寝転がれるなんて最高!

棟のテーマに合わせて石やアートに関する本が並ぶ
ウェルカムスイーツ辻、スイーツの世界大会で数々の優勝経験を持つパティシエ・辻口博啓氏のオリジナルの焼き菓子。
「アクアイグニス」内にパティスリーショップがあります。
客室に備えられた、「猿田彦珈琲」×「素粋居」オリジナルブレンドのドリップコーヒーとともに。

食事は5つのチョイス。ライブ感のある直火料理を堪能

食事の選択肢が多いのも「素粋居」の魅力。
敷地内に併設された、直火料理、うなぎ、そばの3つのレストランに加え、姉妹施設「アクアイグニス」には、イタリアン、割烹料理もあり、気分に応じて自由に選ぶことができます。
今宵は、フランスで活躍するシェフ・手島竜司氏監修の直火料理「HINOMORI」へ。
こちらでは、薪や炭などの直火を使った料理のコースをいただきます。
当日のメニューに合わせたタイミングで火を起こすため、食事は18:30一斉スタートのみ。
木々が生い茂る小道を歩いて向かうと、隠れ家のようにひっそりと佇む一軒家。
ほの暗い通路の先には、照明を落とした中に窯の火が力強く燃え盛る、まるで劇場のような空間が広がっています。

調理場が見渡せるL字のダイニングスペースがさながら観客席のよう
豊かな食材に恵まれた三重県。
熟成後じっくりと塊でローストした赤身肉をメインに、薪火の香りをまとった旬の魚介類や採れたて野菜など、厳選された食材と炎が生み出す味わいの繊細さと豪快さを堪能できます。
ノコギリ(!)や窯でダイナミックに調理している様子を目の前で眺める臨場感!
料理人の方とのおしゃべりも楽しく、ドラマチックな時間を過ごしました。

まずは桑名産しじみスープから。地味深く胃の調子を整えてくれる

活きた伊勢海老を目の前で調理。味付けはシンプルに、燻製の香りで風味づけ
メインの熟成肉は、なんとノコギリで調理!

熟成サーロインと鹿肉のグリルをこだわりの調味料で
翌日の朝食も「HINOMORI」にて、旬の焼き魚の和定食を。
この日は雨でしたが、庭の緑が深くみずみずしく、落ち着きのない私でもしっとりと心が落ち着く時間でした。

併設のお店や「アクアイグニス」でランチも楽しい

「そば切り 石垣」ざるそば2種 (1,650円)
翌日のランチは、「素粋居」敷地内の「そば切り 石垣」へ。
こちらは完全自家製粉の手打ち蕎麦を広めた「翁達磨」の系列で、ミシュラン1つ星の「なにわ翁」で研鑽を積んだ石垣雄介氏のお店。
湯の山温泉の豊かな水を使い、国内各地から仕入れた玄蕎麦を自家製粉した二八蕎麦の香りと味わいに癒されます。

「アクアイグニス」内「片岡温泉」
周辺散策なら、ぜひ徒歩5分の場所にある姉妹施設「アクアイグニス」へ立ち寄ってみて。
約49,000㎡という広大な敷地に、広々とした源泉かけ流しの温泉施設「片岡温泉」があり、食事は、辻口博啓氏のスイーツと石窯パン、奥田政行氏のイタリアン、笠原将弘氏の和食など有名料理人が監修するレストランがずらり。さらに、ギャラリー、いちご農園、宿泊棟まである一大施設!
旅行者も地元の方も皆さんワイワイ過ごしていて、「素粋居」のプライベート感とはまた違った楽しさがあります。
こちらの「片岡温泉」は、宿泊者なら無料で利用可能。
施設内には、新しい温浴習慣として注目される、ミネラルミスト浴「ルフロ」(別途料金)があり、こちらでもきっちりととのってまいりました!
絵的にはなかなかにシュールですが…(笑)。

ミネラルミスト浴「ルフロ」体験中
訪れるたび新鮮な気持ちで楽しめる唯一無二の空間

緻密な石組が特徴の「碉石(ちょうせき)」
リピーター率が高いと言われる「素粋居」。
かくいう私も、こちらに宿泊するのは実は今回で3度目。
それも納得。ひとつひとつのヴィラがテーマに沿った唯一無二の空間になっていて、すべて個性がまったく違うので、泊まるたびに新たな気持ちで楽しめるんです。
一方で、各棟のテーマである8つの素材はどれも自然由来で、置かれたアートや骨董品も、一般的なラグジュアリーホテルのような豪華さはないけれど、それぞれの空間に映えるよう目利きされた粋なセレクト。
それはまるで、とびきりセンスのいい友人の家を訪れたような居心地のよさがあります。
また、「アクアイグニス」の施設も含め、食事やリトリートの選択肢が多いのも、飽きずにリピート滞在を楽しめる理由のひとつ。
アーティな感性に刺激を受けると同時に、気負わずくつろげる癒しの空間で、美食を楽しみ、温泉につかって、ごろんと畳の部屋で寝転びながら、「自宅として住むならどこがいいかな~?」なんて夢物語に想いをめぐらせる。
そんな過ごし方も、ここ「素粋居」の醍醐味ですよね。


画像デザイン/齋藤春香 イラスト/木村美紀 写真提供・構成・取材・文/東原妙子