今週のエンパワメントワード「変えられるものを変え 変えられないものを受け止める勇気を」ー『カミーユ、恋はふたたび』より_1

カミーユ、恋はふたたび
ブルーレイ&DVD発売中  DVD¥4,180、ブルーレイ¥5,170/発売:gnome  販売:ポニーキャニオン
©︎2012 Fcomme Film, Ciné@, Gaumont, France 2 Cinéma

過去を引き受ける勇気が、歩み出す力になる

もし過去に戻れたら、まずは何をしたいだろう。あのときできなかったことをやり遂げたい。もう一度青春を楽しみたい。何より、取り返しのつかない過去を書き換えたい。でも結局は何も変えられないのだとしたら、過去に戻ることにどんな意味があるのだろう。


『カミーユ、恋はふたたび』は、40代の主人公が高校時代をやり直す、いわばタイムスリップの物語。監督であり女優としても活躍するノエミ・ルヴォウスキーが、パリに住む40代の「カミーユ」役を自ら演じている。


10代の頃に妊娠し娘を出産したカミーユは、女優の仕事を細々とこなしているが、酒に溺れ、夫の「エリック」とは離婚間近。うんざりした彼女は大みそかのパーティへ出かけるが、途中で気を失ってしまう。やがて目覚めるとなんと時代は80年代。理由は不明だが、高校時代に戻ってしまったのだ。


おかしいのは、カミーユが過去に戻っても見た目は40代の姿のままなこと。それなのにまわりは「どこからどう見ても10代だ」と言うばかりで、カミーユ自身もそんなバカなと吹き出してしまう。ただし、ルックスのおかしさに固執し続けないのがこの映画のいいところ。最初はアンバランスに見えた40代の高校生姿が、見ているうちに違和感がなくなるのも不思議だ。


タイムスリップの理由も戻る方法もわからないまま、カミーユは80年代風ファッションに身を包み、学校へ通いだす。そうして再び青春時代を満喫しようとする。最初の戸惑いはどこへやら、年の功を生かして同級生にタバコのかっこいい吸い方をレクチャーしたり、積極的に男の子を誘ったりと、楽しみ放題。だが、ここにエリックが現れる。高校時代に出会ったふたりは、あっという間に恋に落ち、すぐに妊娠し結婚したのだ。だがその結婚生活が悲惨なものになることを、彼女は嫌というほど知っている。もう一度過去をやり直せるなら、エリックとは恋に落ちたくない。でもそれでは娘も生まれてこないのでは…?


悩んだカミーユは、ある日不思議な時計屋の主人と出会う。名優ジャン=ピエール・レオ演じる時計屋は、意味ありげな表情で、彼女にある言葉をかける。〈変えられるものを変え 変えられないものを受け止める勇気を〉。実はこれは、アメリカの神学者ラインホールド・ニーバーによる言葉の引用だ。この意味深な言葉に導かれるように、カミーユは、ゆっくりと過去とのつき合い方を学んでいく。


変えられないもの、それはエリックとの過去だ。お互いに別の人生を歩んだほうがいい。そう確信していても、エリックに惹かれるのをとめられない。彼がなんという言葉をつぶやき、どんなタイミングで初めてのキスをするのか、カミーユはすべて覚えている。覚えていてなお、それをとめる術がない。あの頃のような情熱はなくても、やっぱり彼は特別な存在なのだ。


恋に落ちることも、大事な誰かの死をとめることもできない。それならばその痛みと悲しみを引き受ける勇気を持てばいい。カミーユは、演劇の場面を繰り返し演じるように、エリックとの恋をやり直す。大好きな母の死を受けとめ、その痛手と向き合おうと努力する。こうして〈変えられないものを受け止める勇気〉を得た彼女は、やがて自分の手で〈変えられるもの〉の存在に気づく。そう、過去は変えられなくても、現在を変えることはできるのだ。


変えらたのは、とてもささやかなもの。それでもカミーユは、確かに大きな一歩を踏み出す。

月永理絵

編集者・ライター

月永理絵

1982年生まれ。個人冊子『映画酒場』発行人、映画と酒の小雑誌『映画横丁』編集人。書籍や映画パンフレットの編集の他、『朝日新聞』 『メトロポリターナ』他にて映画評やコラムを連載中。

文/月永理絵 編集/国分美由紀

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