今週のエンパワメントワード「私は世界に一人ぼっちの存在ではない。あなたとつながっている。」ー『ののはな通信』より_1

ののはな通信』三浦しをん ¥880/KADOKAWA(角川文庫)

濃密に語らい、想いを交わした先に広がる世界

祖母は筆まめな人だった。
昨年の夏、97年の生涯を終えた彼女を見送り、遺品の整理をしていたところ、何十冊もの日記帳と、お菓子の空き箱いっぱいに詰まった祖母あての葉書きや手紙の数々が、書棚から出てきた。


祖母は自分の多くを語らない人でもあった。
戦後ほどなくして夫を失い、女手ひとつで3人の子を育て、50代で始めた書の道を晩年まで生きた彼女は、しずかに孤独を受け入れる人のようにも見えていた。けれど。
日記帳や手紙の中に生きていた祖母は、私の知る祖母とは違っていて、とりわけ、女学校時代に出会った女友だちと文で通じ合うとき、彼女の純真さは際立って見えた。


三浦しをん『ののはな通信』は、女子校で出会い、運命の恋を得た二人の少女の20年あまりを、すべて手紙のやり取りで紡いだ書簡小説だ。
庶民的な家庭で育ち、頭脳も明晰、クールで毒舌な「野々原茜(のの)」と、外交官の家に生まれた帰国子女、天真爛漫で甘え上手な「牧田はな」。正反対なようでいて、なぜか気が合う二人は、言葉を通じてかけがえのない間柄になっていく。


学生の頃、休み時間や放課後にさんざんしゃべって、夜に電話もするのに、授業中に先生の目を盗んで、あるいは睡眠時間を削ってでも書かずにはいられなかった手紙の記憶がある人にとっては、「のの」や「はな」の姿に懐かしい友の姿を思い浮かべるだろう。


いわゆる“シスターフッドもの”とも読めるが、その関係は一筋縄ではいかない。
互いに友情以上の気持ちを抱くようになり、密やかに始まったはじめての恋。ある裏切りからの絶縁と、時を経た再会。それぞれが大人として立ち、仕事やパートナーを得たのちも、親密感ややきもちや依存心や拒絶感がないまぜになったドロリとした感情とともに、くっついたり離れたりしながら関係を続けていく。
そんな年月を重ねて二人が辿り着いたのは、再び交わることのない人生を受け入れてなお、確かめ合える絆の深さだった。
〈私は世界に一人ぼっちの存在ではない。あなたとつながっている。〉


祖母あての手紙は、友人からの詫び状を最後に途絶えたきりだった。
以降の祖母の日記の中には、彼女にたいするいくつかの記述が見て取れたけれど、手紙になんと返したのか、あるいはなにも返せぬままだったのかはわからない。私にそれを知る術はない。


けれどいま、祖母の声でこの言葉が聞こえるのだ。
〈私は世界に一人ぼっちの存在ではない。あなたとつながっている。〉
家族にさえ弱みを見せず、どこか超然としていた祖母にも、いつだって女学生に戻れる相手がいたのだと信じたい。
無邪気にはしゃいだり悲しんだり、怒りをむき出しにできる友のあったことが、しみじみとうれしいのだ。

木村綾子

木村綾子

1980年生まれ。中央大学大学院にて太宰治を研究。10代から雑誌の読者モデルとして活躍、2005年よりタレント活動開始。文筆業のほか、ブックディレクション、イベントプランナーとして数々のプロジェクトを手がける。2021年8月より「COTOGOTOBOOKS(コトゴトブックス)」をスタート。

文/木村綾子 編集/国分美由紀

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