震災が相次ぐ今、防災意識を高めざるを得ない状況が続いています。被災地の女性の困りごとや女性への支援についても、話題に上がる機会が増えてきました。被災地では、実際にどのようなことやものが求められているのか、災害用女性下着を制作する『Amcas』の代表で、被災地でのボランティアを続けている表早紀さんへインタビュー。彼女が感じた被災地の実態や、女性を取り巻く環境についてお話を伺いました。

表早紀

『Amcas』代表

表早紀

株式会社『Amcas』を慶應義塾大学在学中に起業。災害用女性下着の開発から販売を行う。女性目線での防災を考え、すべての女性の「命を繋いだあとの尊厳を守る」ことに貢献するべく活動している。能登半島地震の救援物資として災害用女性下着を寄付すべくクラウドファンディングを実施し、トータル195セットを輪島市へ提供した。

被災地で女性がいちばん困るのは、性被害と“プライバシーがないこと”

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──まずは、表さんご自身がボランティアを始めたきっかけを教えてください。

表さん:両親がボランティアにすごく熱心だったので、その影響が大きいですね。あとは中学・高校とアメリカの学校に通っていたのですが、どちらも毎年100時間以上ボランティア活動をしないと進級できなかったこともあり、ボランティアというものが比較的に身近にありました。

私が高校に上がる直前くらいの時期に熊本で震災がありました。災害が起きてから2〜3週間後にボランティアに参加したのですが、そこで女性ならではの防災や備蓄が足りていないこと、言い出しにくいことが多いこと、発言するとワガママに見られてしまうのではというプレッシャーや、ストレスを抱える人たちを見て、何かできないかと考えたのが災害用女性下着ブランドの起業につながっています。

──避難所を訪れて、まず受けた印象はどんなものでしたか?

表さん:とにかくプライバシーがないことですね。その地域に住んでいる人たちが避難所に集まっているので、知り合い同士の方ももちろんたくさんいて、そんな中で雑魚寝状態の共同生活をしていかなければならない。プライバシーがないのってこんなにも不安なことなんだと初めて知りました

女性の財団の方々やボランティアに行かれた方の話を聞いていると、被災地での性被害の話も耳にします。そういった被害についてあまり表には出ないし、自分の中で抱え込んでしまって、10年以上たった今も心に傷が残り、カウンセリングに通われている方もいるそうです。

たとえ性被害に遭わなくても、見られないように布団の中で着替えたり、下着を干すのをためらったり。あとは洗濯ができないからショーツにナプキンをつけて、それを取り替えて生活していたけれど、そのせいでデリケートゾーンが炎症を起こしてしまったり、ストレスによって不正出血してしまったりという声もたくさんあって。そういった変化を経験した方々の声をきちんと聞いて、私たちは防災や備蓄をしなければならないと思います。

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表さんが代表をつとめる『Amcas』では、プライバシーのない避難所でも干しやすい、“下着に見えない下着”を制作している。

女性に必要なものが男性に理解されない現状。物資を配分することも難しい

──それ以外に、避難所で女性が困ることはありますか?

表さん:避難所のボランティアでは力仕事が多くなるので、どうしても男性が中心にいたり、リーダー的な立場になりがちです。それは仕方のないことですが、女性の声が届きにくいという実態もあります。今年起きた能登半島地震のお話を聞いていると、女性の生理用品が必要だという意見を男性が断ってしまう、という事案が発生しているらしくて。男性側の知識不足で、女性に絶対必要なものなのに、ワガママととらえられてしまうこともあるようです。

私も輪島市に下着を送らせていただいたのですが、限られた個数のものを“平等に”分けることも難しいんです。避難所によって男女の比率は違うのに、“平等に”分けることを遵守しすぎて必要な人のところに届かなかったり…。

避難所の人数や男女比をデータ化して共有して、と考えたりもしたのですが、女性が多い避難所を選んでボランティアに行こうとする人が現れたりもするので、簡単にはできなくて。とにかく課題が山積みなんです。

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能登地震の被災地域である石川県輪島市へ送付した『AMCAS』の下着。

命をつないだあとの、メンタルケアも必要な支援

──必要なものが届かない環境で過ごすのはつらいですよね。体だけでなく、心への影響も大きそうです。

表さん:はい、被災地ではメンタルへのダメージも深刻です。最初の数日を乗り越えても、その後の避難生活の長さが大変な負担になってきます。どうしても命を守ることに目が行きがちですが、娯楽がないことってすごくストレス。Wi-Fiもない環境で動画を見ることもできず、何も楽しみがないんです。

だからボランティアに参加する人がWi-Fiのルーターを持っていくとか、子どもがいる避難所へ何か工作できるようなものを持っていくだけでも、避難されている方の気持ちはすごく楽になるみたいです。メンタルをケアする制度が整備されるのが理想ですが、それがまだ何もない分、気づいた人が声をあげたり、気持ちを楽にしてくれるものを届けることで、少しでも心の支えになれたらいいですよね。

ボランティアをするなら、本当に求められる支援を

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──ボランティアには、どのようなことが求められていると感じましたか?

表さん:いちばん感じたのは、ボランティアのガイドラインが重要だということです。皆さん人を助けたいとか、困っている人に何かできることはないかという思いで来ている方がほとんどですが、そうではない方も交じっていることがあって…。ボランティアを装った人による窃盗や性犯罪が起こっているのも事実です。

今はLINEで登録するだけでボランティアに来られるのですが、LINEでは正直その人がどんな人かがまったくわからないですよね。例えば事前にきちんと登録が必要だったりとか、犯罪歴がないかだけでも調査が入るとか、助ける人側の情報収集をもっとしていくべきだと感じます

また、支援物資については、自分のいらないものを送ってくる方が本当に多いんです…。よく言われるのが「自分が着ていたけどもう着ない服を送る」とか。処分したかっただけなんじゃないか、と思ってしまうようなものが送られてくることもよくあるし、それを被災地で仕分けるのも大変。だから「こういうものが欲しい、でも新品じゃないならいらない」といった声が、ワガママではなく必要に迫られているものだということを、世の中が受け入れなければいけないと感じます

被災地で、女性が本当に必要なものは?

被災地で女性が本当に必要なもの、見落としがちだけれど用意しておくと役立つものとは? 被災地でのボランティア経験が豊富な表さんと、フェムテック&フェムケアの知見を持つyoiが、「女性用防災セット」を考えました。以下の記事から、ぜひチェックしてみてください!

撮影/TOWA 取材・文/堀越美香子 画像デザイン・企画・構成/木村美紀(yoi)