才能豊かなアーティストを多数輩出し、盛り上がりを見せているサウスロンドンシーンを代表するバンド、Black Country, New Road(ブラック・カントリー・ニュー・ロード)。2021年に発売したデビュー作『For the first time』が多方面から絶賛され、英国の権威ある音楽賞、マーキュリー賞ノミネートという快挙を達成。さらに今年2月にリリースしたセカンドアルバム『Ants From Up There』は、全英チャート初登場3位にランクインするなど、今、世界から活躍を期待されている注目のアーティストです。

今回、7月末に開催された「FUJI ROCK FESTIVAL '22」(以下、フジロック)出演のため来日した同バンドから、ルイス・エヴァンス(Sax)とメイ・カーショウ(Key)がyoiに登場! 新曲のみで構成されたフジロックステージの裏話や、個性豊かなバンドメンバーとのコミュニケーションの秘訣について明かしてくれました。

屋上から手を振るBlack Country, New Roadのメイとルイス

ルイス・エヴァンス(写真左/Sax)とメイ・カーショウ(写真右/Key)

Black Country, New Road

高校時代に出会ったメンバーで結成した6人組バンド。メンバーは、ルイス・エヴァンス(Sax)、メイ・カーショウ(Key)、ジョージア・エラリー(Vln)、タイラー・ハイド(Ba)、ルーク・マーク(Gt)、チャーリー・ウェイン(Dr)で構成されており、ロンドンを拠点に活動。2021年にリリースしたデビューアルバム『For the first time』は、全英チャート初登場4位を記録し、マーキュリー賞にもノミネートという快挙を達成。今年2月に発売した、セカンドアルバム『Ants From Up There』は、全英チャート初登場3位を記録を樹立した。■公式サイト https://blackcountrynewroad.com/

緊張やプレッシャーには、お互いの感情や意見に耳を傾けて支え合う

世界が絶賛する注目バンド Black Country, New Road インタビュー。心を動かす音楽の源は「感情の揺らぎを共有し合うこと」_2

この日、サッカー日本代表のユニフォームを着ていたルイス。「久保建英選手が好きなのと、サムライブルーのユニフォームはデザインがクールだから、今日はこれを着てきたよ!」

——フジロックでのパフォーマンス、とても素晴らしかったです。Black Coutry, New Roadが奏でる音に、ステージもオーディエンスもまるごと包まれて別世界へ誘われたような時間。最後はメンバーが感極まり涙も見せるなか、ハグをし合って終わったステージに胸を打たれました。

メイ & ルイス  (日本語で)ありがとう!

メイ すごく楽しかった…! 実は、私たちの前にパフォーマンスした鈴木雅之さんのステージが大盛り上がりだったので、「自分たちは大丈夫かな…」と圧倒されてちょっとナーバスにもなっていました。私の母も、鈴木雅之さんの音楽をよく聴いていた世代(メイの母親は日本人)なので彼のステージを大満喫した一方で、「このあとに出番が来るのはちょっとどうかな…」と私たちのことが心配になったと言っていました(笑)。

ルイス 僕たちがサウンドチェックしているときは、オーディエンスが60人くらいしかいなくて、「これならいつも通りできるかも」と思ったんだけど、ステージ開始10分前にまた客席を見たらすごくたくさん人が増えていたので、緊張感が増しました。いざライブが始まっちゃえば、平気なんだけどね。

——そうしたステージに対してのプレッシャーや緊張は、どのようにやわらげたのでしょうか。

ルイス
 出番の数時間前からは、ほかのアーティストのステージはあまり観ずに、バックステージでメンバーと話したりしてリラックスするようにしていたんだ。

メイ そうだね。私が「あぁ〜緊張する!」と言うと、メンバーがなぐさめてくれて。とても感謝してる。

メイ・カーショウ(Key)

メイ・カーショウ(Key)

——皆さんの素敵な関係がうかがえるエピソードですね。ステージ後も、メンバー間で何かお話しされたのでしょうか。とてもエモーショナルなムードでステージを終えられたと思いますが。

メイ 自分たちの演奏を日本のオーディエンスが気に入ってくれたことに驚いた、という気持ちを話して共有したの。

ルイス フジロックに限らず、僕たちはいつもステージが終わったあと、その結果がいいときも悪いときも必ず話すようにしていて。「頑張ったね」と言い合ったり、各々がステージで感じた感情やパフォーマンスの反省点に耳を傾けるようにしているね。

昨日(取材はフジロック出演の翌日)は、美しい山間のステージで演奏できて最高だったんだけど、僕は暑さで指がベタベタしちゃってサックスのキーをきちんと押せず、うまく音を出せないときがあったんだ。そのことについてメンバーに話して聞いてもらった。

メイ 私は暑さのせいじゃないけど、緊張してピアノがうまく弾けなかったときがあって…。

ルイス そういった反省点や落ち込んだポイントを、自分一人で抱え込まずに話すようにしているよね。

——メンバー間で密にコミュニケーションを取られているんですね。

ルイス そう。でも、意識的にそうしているのではなくて、自然とそうなったんだ。僕たちはバンドメンバーの前に親友同士だから、もし誰か一人でもハッピーじゃないことがあるとしたら、なんとかしてあげたいと思うのが普通なんだ。

アイデアを持ち寄って共作するからこそ、新しい世界にたどり着ける

世界が絶賛する注目バンド Black Country, New Road インタビュー。心を動かす音楽の源は「感情の揺らぎを共有し合うこと」_4

——おっしゃるとおり、皆さんは友達同士でバンドを組まれていますよね。テクノロジーの進化によって一人でも音楽を作れてしまう今、バンドを組んでセッションすることの魅力はなんだと思いますか。 

メイ もちろん一人で曲を作るのも楽しいとは思うけれど、私の場合は一人だと、自分の音楽に対して批判的になりすぎてしまうの。「本当にこれでいいの?」「大丈夫?」と考え込んでしまう…。でも、メンバーと一緒に音楽を作ると、私のアイデアがよければ「それいいね!」と認めてくれて、勇気づけてくれるので前進できる。それに、人からのアドバイスが“自分では見出せなかった自分の可能性”を教えてくれたり、アイデアを想像もしなかった方向へと連れて行ってくれたりする。そういうことが起こる瞬間が楽しいし、誰かと一緒に音楽を作る醍醐味だと思います。

ルイス 僕自身は、自分たちのスタイルはとてもクールだと思っている。もちろん皆で創作活動を進めるのは簡単なことではないけれど、友達と一緒に音楽をしていない姿は想像できない。例えば、ツアーを回るって素晴らしい体験なんだけど、やっぱり楽しいだけじゃないんで。たくさんの困難にぶつかっても、5人と一緒にいるからその壁を乗り越えられるかな。

ルイス・エヴァンス(Sax)

ルイス・エヴァンス(Sax)

——では、フジロックで披露した新曲は、皆さんで集まって全て作られたのでしょうか。

ルイス そうだね。僕たちはそれぞれがアイディアを持ち寄り、それをひとつに集めて曲を制作している。今回の新曲も同様で、それぞれが持ち寄ったアイディアを元に、構成やメロディを考えたり、自分のパートをプラスしたりして、皆で話し合いながら組み立てていったんだ。お互いのアイディアには自由に意見し合って、もし気に入らなければ、正直に「好みじゃないな」と伝えるようにしている。そう言われた人もそのフィードバックを大事な意見として受け入れるし、それに対して不快な思いをすることもないよね。

メイ ディスカッションだからね!

ルイス そう。いいものを作るためには、言いたいことを言い合うことって大切だからね。

——結成当初から、お互いに言いたいことを言い合えていたのでしょうか。

メイ 私は最初の頃は、自分の意見を言うのが苦手でした。でも6〜7年間一緒に音楽を作って、時間をともにしていくなかで、友達としてもミュージシャンとしてもお互いをリスペクトし合っていることに気づいてからは、正直に伝えることができるようになりました。自分の意見が賛同を得られないこともあるけれど、“賛同を得られない=自分がダメな人間”ということではないと理解しているからね。

ルイス 僕もバンドを始めたばかりの頃は、否定的な意見やマイナスの感情を隠していたところがあった。でもあるとき、音楽制作に限らず何気ないことでも、ハッピーじゃない気持ちはオープンに伝えなければ改善していかないということに気がついたんだ。例えば、これからアメリカツアーが始まるけど、僕はこれまでの人生で何カ月もイギリスを離れるという経験をしたことがないので、不安を感じていた。その気持ちをメイに打ち明けたら、彼女も同じ気持ちを抱えていて! 自分の気持ちを言葉にしたことで、自分だけじゃないんだと安心することができたよ。

ときには耳に入ってくる声を遮断して、セルフディフェンスすることも大切

世界が絶賛する注目バンド Black Country, New Road インタビュー。心を動かす音楽の源は「感情の揺らぎを共有し合うこと」_6

——yoiはYou(あなた)、Our Place(私たちの場所)、I(私)の頭文字で、「私を知り、あなたを知り、私たちの場所になる」ことをコンセプトとしています。Black Coutry, New Roadの皆さんは、「私」と「あなた(ファンや世間)」の関係をどのようにとらえて、築いていますか。

ルイス 僕たちの音楽を聴いてくれる人が増えるのと同時に、リスナーと僕たちの距離が近くなり、求められるものも増えて、プレッシャーを大きく感じていた時期があったんだ。もちろんそれだけが理由じゃないけど、そうしたプレッシャーもあって、アイザック(バンドのメインヴォーカルを担当していた元メンバーのアイザック・ウッド。今年の2月、最新アルバム発売の4日前に脱退)はバンドを離れることになったしね。それ以来、僕たちメンバーもできるだけリラックスすることを心がけるようになったと思うし、ファンの皆にもメンタルヘルスの大切さを理解してもらえるようになったと思うよ。

ちなみに僕のリラックス方法は、“距離を置く”こと。例えば、ライブでオーディエンスから、「もっと観客に向かって演奏して!」と言われたことがあったんだ。そうした言葉でネガティブな心理状況に陥ったときは、「もし自分が音楽を辞めたくなったら、いつ辞めてもいいんだ」と自分に言い聞かせて、あえて音楽と気持ち的に“距離を置く”ようにしている。こうしてこれまでも辞めたくなるような場面はたくさんあったのにもかかわらず、それでも僕が今も音楽を続けているのは、やっぱりここに大切なものがあるからだね。

世界が絶賛する注目バンド Black Country, New Road インタビュー。心を動かす音楽の源は「感情の揺らぎを共有し合うこと」_7

メイ 私の場合、少し前まではネットに書き込まれる私たちに対する意見を読んでいたけど、今はやめました。もちろん求められることにこたえたい気持ちもあるけど、毎日ライブをしていると、すべての要望にこたえるのはハードで…。

ルイス そうだね。またアイザックの話になるけど、彼は毎晩ライブで魂を込めて歌っていたから大変だったはず。しかも、彼の書く歌詞は、緊張感があってエモーショナルなものばかりだし。

メイ そうした経験を経てメンバーそれぞれのリラックス方法を見つけた今は、オーディエンスとよりよい関係を築けていると思うし、心から演奏を楽しめているよね!

撮影/花村克彦   取材・文/海渡理恵 企画・構成/高戸映里奈(yoi)