昨年8月に放映された『生理CAMP2020』をはじめ、話題のコンテンツを次々と生み出すテレビ東京プロデューサー・工藤里紗さんにインタビュー。番組誕生の経緯、さらにそこから生まれた書籍『生理CAMP みんなで聞く・知る・語る!』への想いも語っていただきました。女性の悩みに寄り添い、生きやすくなる社会を実現するために前に進み続ける姿から、きっと勇気をもらえるはず!

小3で迎えた初潮。私の“生理人生”はその瞬間から始まりました

『生理CAMP2020』はどう生まれた? テレ東プロデューサー工藤里紗さんが女性をエンパワーし続ける理由【前編】_1

まわりより早く生理が来た、小学生の頃の体験

私が『生理CAMP2020』を企画したきっかけ。それは、そもそもなぜ生理に興味を持ったかということにつながりますが、私は小3で初潮を迎えて、学年でいちばん早く生理になったんです。
人より成長期が早かった分、まわりに比べてそういうことに関心があって。とはいえ最初は生理について話せる友だちもいないし、プールの時間はなぜか一人だけ見学で、孤独感が募るばかり。それが徐々に仲間が増えて、立場は違っても生理にまつわる悩みや好奇心について話し合うとつながれるんだって、感じたんです。

12年前、初めて自分で企画した番組での生理特集。そこで予想以上の反響が

その後テレビ局に入って、12年くらい前に初めて自分で通した企画が『極嬢ヂカラ』という女性向けの深夜番組。そこで画面いっぱいにアルファベットで“SEIRI”って書いて生理特集をしたところ、かなりの反響をいただいたんです。
ちょうど「極嬢ヂカラ」をやっている時期に、被災地から「今、避難所の体育館にいて生理用品もなくて大変だけど、この特集のおかげでみんなで生理について話し合えてよかったです」っていうお手紙が届きました。「あぁやっぱりみんな悩んでいることがあって、それを誰かと話せるだけでスッキリしたり安心感が持てたりするんだな」って、小学生の頃にも感じた想いが再びよみがえりました。

もう1回「生理の今」と向き合いたかった

そんな中、4~5年くらい前からフェムテックっていう言葉を頻繁に聞くようになったり、『パッドマン』というナプキンを開発した男性が主人公の映画が公開されたりして、もう1回“生理の今”と向き合ってみたい、テレビで何かできる役割があるんじゃないかと、生理の特番企画を出してみました。
社内では「生理のことをオープンメディアで知りたい人はいない!」という声もたくさん上がったんですが、それでも企画書を書き続けていたら、チャンスがめぐってきたんです。去年の8月末、深夜に30分の枠で『生理CAMP2020』という番組をやらせてもらえることになりました。

ついに『生理CAMP2020』の放映が実現。でも、“衝撃的”に描くのは制作側のエゴな気がしたんです

『生理CAMP2020』はどう生まれた? テレ東プロデューサー工藤里紗さんが女性をエンパワーし続ける理由【前編】_2

生理のことを、キャンプみたいにオープンエアーで話してみたかった

『生理CAMP2020』最大のコンセプトは、年齢性別にかかわらず、どんな人でもどんな意見もOKということ。「生理について話したくない人もいるよね、でも知るといいことがあるかもしれないから、こっちはいろいろ情報出しちゃいますね」みたいな感じで。「切り込んだ話題を扱います! ドーン!」っていう演出のほうが目立つんですけど、それは制作者のエゴだと思ったんですよね。
だから、キャンプみたいにオープンエアーにして、人と人を遮断したり、どこか密閉されたスペースに入り込んだりすることなく、生理について話したい人、話したくない人、生理感度が高い人、低い人、誰でも横から気軽に顔を出すことができる番組作りを心がけました。

いざ放送してみて気づかされたこと

ただ、深夜に一発の特番って、今のテレビが置かれている状況だとすごく難しいんですよね。レギュラーだと継続して見る人が増えて話題も作りやすいんですけど、特番はそもそもやっていることを知らないと誰も見ないし、寝る時間が早くなっているコロナ禍の今、深夜に多くの人に見てもらうことは期待できない。加えて、テーマもテーマ。
どうしようと思っていたんですけど、いざ放送してみたらたくさんの反響があり、Twitterでトレンド入りもしました。「タンポンをまじまじと見たことがなかった」「月経カップの存在を初めて知りました」「妊娠してなくても婦人科に行っていいんですね」……etc。そういった声がすごく多くて。「そんなことも知らないの?」じゃなくて、そっちのほうがマジョリティだったんですよ。
いかに自分にバイアスがかかっていて、生理に関心がある人たちの情報だけを見ていたかということにハッとさせられました。

大反響に応え、イベント化、書籍化が決定。書籍では、“100人100通りの生理”を伝えたかった

『生理CAMP2020』はどう生まれた? テレ東プロデューサー工藤里紗さんが女性をエンパワーし続ける理由【前編】_3

テレビでは取り上げきれない、いろんな人の生理にまつわるエピソードを深掘りできた

生理にまつわる多様な人生の物語を伝えることによって、少しでも救われる人がいたら。そう考えて番組を制作し、オンライン配信イベントも開催したのですが、限られた時間の中だと、例えばスタジオに20人呼んでも「わっはっは!」でしか映らない人が出てきてしまう。テレビやイベントだと難しいと感じていた部分が、書籍『生理CAMP みんなで聞く・知る・語る!』では実現できたんじゃないかと思います。

番組にも出てくださった森三中の黒沢(かずこ)さんは初潮が来たことを親に言い出せず、血のついた半年分のティッシュを自分の部屋の押入れに隠していたそうなんです。そんなエピソードも、テレビだと面白い部分だけを編集してオンエアするけど、そこにはどういうストーリーがあったのか、より深堀りした話や聞き足りなかった部分が、この本ではじっくり読めるようになっています。
ほかにも、アスリートやシングルファザーや医療従事者の方たちはどうしているんだろうとか、セクシャルマイノリティの方も悩むよねとか、海外で暮らす人の生理事情とか……“100人100通りの生理”が詰まっているというところが、番組と本の最大の違いかなと思います。

10年来のお付き合い、YOUさんのエッセイは読んでいて、ちょっとうるっとしちゃいました(笑)

『生理CAMP2020』はどう生まれた? テレ東プロデューサー工藤里紗さんが女性をエンパワーし続ける理由【前編】_4

誰も排除しないYOUさんの空気感が好きです

本にはさまざまな生理の体験や本音のほかに、YOUさんの書き下ろしエッセイも収録されています。生理で悩む今のことだけじゃなくて、自分の体とつき合っていく未来のこともニュートラルに語れる方にお願いしたいということで、YOUさんにオファーしました。
YOUさんは、私がいちばん最初に企画を通した番組に出てもらった方。そんな先輩が十数年の時を経て、独自の言葉のチョイスで、誰も排除しない空気感で、生理について書いてくれたのがすごくうれしくて、読んだときは、うるうるしちゃいました(笑)。

年齢も性別も超えて、どんな人も受け入れる本になっています!

多くの人が生きやすくなるお手伝いをしていきたい

男性の中にも生理痛という言葉を聞いたことがある方はいると思うけど、実際どんな感じなのかは言葉だけではわかりづらい。でも、生理になっている人の物語を読めば、自分以外のまわりの人に優しくすることができるかもしれない。この本は、生理とか性教育の情報に触れてなかった方にもぜひ手に取ってもらいたい1冊です。

私はスーパーヒーローじゃないから世の中を劇的によくすることはできないですが、ほんの数人の気持ちがちょっとラクになったり、生きやすくなるお手伝いはできるのかなって思っています。そう考えたときに、生理はあくまでも入り口となるテーマのひとつ。
例えばジェンダー認識かもしれないし子どもへの性教育かもしれないけど、これからも自分がわかる範囲でテーマを広げて、物作りをしていきたいですね。社会の仕組みとして難しい部分を変えていきたいんです。そのために継続して発信したり、皆で集まって考える機会を持てたら、すごくいいなと思っています。


▶︎工藤プロデューサーのお仕事は? プライベートは? 後半に続きます!

『生理CAMP2020』はどう生まれた? テレ東プロデューサー工藤里紗さんが女性をエンパワーし続ける理由【前編】_6

『生理CAMP みんなで聞く・知る・語る!』についての情報はこちら!

撮影/千葉タイチ 取材・文/吉川由希子 企画・編集/種谷美波