作家の山内マリコさんが2013年に現在のパートナーと交際を始め、同棲、結婚とステップを踏む中でどのように「家庭内男女平等」を獲得していったのか——。その様子を描いたエッセイ、『結婚とわたし』が、ちくま文庫として2024年2月に発売されました。インタビュー後編では、SNSで募集した、読者からの結婚にまつわるモヤモヤに、山内さんならではのアドバイスをいただきました。

山内マリコさん 結婚とわたし パートナー お悩み相談

山内マリコ

作家

山内マリコ

1980年富山県生まれ。大阪芸術大学映像学科卒。2008年「女による女のためのR-18文学賞」読者賞を受賞し、 2012年『ここは退屈迎えに来て』 でデビュー。 著書に、『あのこは貴族』(集英社)、『選んだ孤独はよい孤独』(河出書房新社)などが挙げられる。そのほか、新刊小説『マリリン・トールド・ミー』が、河出書房新書から5月下旬発売予定。

結婚とわたし 山内マリコ  ちくま文庫

結婚とわたし/山内マリコ(筑摩書房)

お悩み①
結婚には決め手が必要なのでしょうか。今のパートナーとはずっと一緒にいたいと思っているのですが、今はなんとなく一緒にいて、それが続いているという状態で、結婚に踏み切れずにいます。

山内さんの回答:決め手はあとから見えてくるもの

山内さん なんとなく一緒にいてそれが続いている…。あとから振り返ったときに、「あのときがいちばん幸せだったな」と思う時間になっていそうな響きですね。決め手も同じように、あとから「そういえば、あれが決め手になったな」っていうことが見えてくるものだと思うので、わざわざそれを求めたり、待ったりする必要はないと思います。それよりも日常の中で、自身のそういう気持ちも含めて二人で話し合えていることのほうが大事だと多います。

私が振り返って「あれが決め手だった」と思うのは、自分の経済的自立でした。逆に男性の場合は、自分の身のまわりの世話がちゃんとできるようになって初めて、結婚を考えるのがいいのかなぁと思います。

もし相手が、「おいしいごはんを作ってくれるから」とか「風邪をひいたときに看病してくれたから」とかいう理由を決め手に挙げるなら、「ノォ〜!」。それは無料のケア要員を求めているだけなので。

お悩み②
結婚を考えている彼と金銭感覚の違いが発覚し、話を進めていくか悩んでいます。

山内さんの回答:どうしても結婚したい相手なら、財布を分けて自分を守って

山内さん 金銭感覚、多少は違ってもいいけれど、度を越している場合はちょっと考えてしまいますね。ジャイアン式に「お前のものは俺のもの」という人はもちろん論外で。お金を、愛情をはかるツールにしている人も。

お金がないことより、お金に関して信頼関係が築けないことのほうが、問題として大きいです。そういう人が相手の場合は、財布や通帳はきっちり分けて、自分を守るしかないのかな。少なくとも、金銭感覚が違って不安という気持ちを話せる相手であることが大前提。お金はデリケートな話題ですが、そこを避けずに向き合える相手なら、乗り越えられそう。

山内マリコ 結婚とわたし お悩み パートナー

お悩み③
なぜ女性ばかりが苗字を変え、仕事を変え、社会に抑圧されながら生きていかなければならないのでしょうか。それに関するパートナーの認識の程度によって、結婚生活そのものの質が変わってしまうこともつらく、悲しいです。

山内さんの回答:パートナーが姓を変える、という選択肢を提示してみては?

山内さん 結婚をそういう視点から考えると、本当に女性差別の温床というか、すべての問題の根っこだと思います。こういう問題に敏感であればあるほどダメージを受けてしまうものなので、結婚を考えている相手に「男性が女性側の姓に変える」という選択肢を提示して、「それでも私と結婚したいのか」と問うくらいのことはしてもいいんじゃないかなと思います。

相手がそこを真剣に考えてくれるかどうかが、今後の試金石になるはずなので。反応を見るだけでも、どのくらい旧来のジェンダー観に囚われているか、どのくらい女性側の負担に同情がある人なのかがわかりそう。

お悩み④
結婚は素敵だと思うし、いつかはしたいけれど、「契約」のように感じて苦しくなるときがあります。

山内さんの回答:「向いていない」という自覚が結婚への解像度を上げる

山内さん 結婚の「契約」っぽい部分に安心感を抱く人もいるので、そこに苦しさや窮屈さを感じるのは、あの形式に「向いていない」ということ。それを自覚できているだけでも、自分のことをよくわかっているし、結婚に対する解像度がすごく高いなぁ。

これは私の実感ですが、結婚前によく考えていた、ちょっと形而上学的な悩みのほうがはるかに深くて、結婚してからの実際的な悩みは、なんだか浅かったです。いま予見されている「苦しさ」は、前者にあたるものかも。

お悩み⑤
結婚を考えていますが、双方の家族関係に不安があり、迷いがあります。お互いの家族関係は、結婚をするうえで重要なのでしょうか。

山内さんの回答:結婚自体はあくまで個人のもの。ただし、嫌なことは嫌と伝えて線引きを

山内さん 結婚はあくまで個人同士のものなので、お互いがいいと思えばいい。ただ、結婚生活にどこまで家族が介入しそうか、よく話し合ったほうがよさそうです。同居はNGとか、嫌なことは嫌と伝えて線引きをする。

「お互いの家族が、私たちの関係の足を引っ張っている」ということを正面から受け止めて、自分たちの結束を強めていくポジティブなエネルギーに変換してほしいです。

山内マリコ 結婚とわたし パートナー 悩み

お悩み⑥
職場では、結婚することが当然のような空気があって、「将来、結婚したら…」とか、「すぐいい人できますよ!」などと言われてモヤモヤします。

山内さんの回答:「は?」と思ったら「は?」って顔をするしかない

山内さん 最近思うんですけど、もし「は?」って思うことを言われたり、されたりしたら、「は?」って顔をするしかないなと。そこで同調して笑ったりせず、ましてや「え〜そんなことないですよ〜」みたいな、相手が期待しているふるまいもしない。猫ミームみたいな真顔で「おまえ、何言ってんだ?」っていう意思表示をしてどんどん抵抗していきましょう。

紋切り型のセクハラ発言をする人は、大昔にインプットした言葉を無濾過でアウトプットしているだけだから、何も考えていないんですよね。だからこそ、古い流れをせき止めて、いい流れを作り出す、ささやかな抵抗をすることはすごく意味があると思います。こちらの態度を変えて、向こうにも変化を促しましょう!

撮影/Marisa Suda 取材・文/国分美由紀 企画・構成/種谷美波(yoi)