うまくいかない夫婦関係や予定外の妊娠、不倫や出産や離婚など、人生の岐路に立つ女性の赤裸々な本音を描いたミュージカル『ウェイトレス』。主演を務める高畑充希さんが作品に強く魅了された理由とは。30代でさらに強くした、演じる役への想いについても伺いました。

1991年生まれ、大阪府出身。13歳で俳優デビュー。2021年の『ウェイトレス』初演時に第46回菊田一夫演劇賞を受賞。主な出演作は舞台『ミス・サイゴン』、『宝飾時計』、連続テレビ小説『とと姉ちゃん』、ドラマ『過保護のカホコ』、『ムチャブリ! わたしが社長になるなんて』、『unknown』、映画『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』、『ヲタクに恋は難しい』、『怪物』、『ゴールデンカムイ』など。Prime videoにて『1122 いいふうふ』配信中。 3月7日に映画『ウィキッド ふたりの魔女』(声の出演)、6月6日に映画『国宝』が公開予定。
STORY
アメリカ南部の田舎町でウェイトレスとして働くジェナ(高畑充希)は、パイ作りの名手。次々と頭にひらめくパイを作りながら、ウェイトレス仲間とのガールズトークでつらい日常から現実逃避していた。ある日、束縛が激しいダメ夫・アール(水田航生)の子どもを妊娠していることに気づいた彼女は、産婦人科医のポマター医師(森崎ウィン)に、「妊娠はうれしくないけど産む」と正直に心のうちを打ち明ける。身の上話を語るうちに惹かれ始めたポマター医師とジェナは、お互いが既婚者と知りながら一線を超えてしまう……。
人生を変えたいと願う、“普通の”ヒロイン

──2021年の初演以来、4年ぶりに『ウェイトレス』で主演を務められますが、高畑さん自身、もともと大好きなミュージカルだったとか?
高畑さん:初めてニューヨークのブロードウェイで観劇したときにすごく感動して、その後ロンドン、ニューヨークと全部で3回観ました。
物語のテーマはシビアなのに、楽曲も衣装も世界観もポップでユーモアがある。劇場全体に甘いパイの匂いが漂っていて、まるで体感型アトラクションみたいな作品だと思いました。
ミュージカルのヒロインは特別な才能を持っていたり、華やかな印象があったりしますが、『ウェイトレス』の主人公・ジェナは、一生懸命働きながら夫からのモラハラに耐えている女性。
自分の人生を大きく変えたいけれど、変えるほどの勇気もないし、そもそもどう変えていいかもわからない。そんな女性が大きく人生の舵を切るまでのお話なので、とても身近に感じていただけると思いますし、勇気をもらえる作品だと思います。
妊娠を喜べず自分を責めてしまう気持ちを理解したい

──作品の中で特に印象的なのが、夫の子どもを妊娠したジェナが「妊娠はうれしくないけど産む」と決意することです。妊娠を前向きに捉えられない女性の気持ちに触れ、どんな思いを抱きましたか?
高畑さん:私は経験がないけれど、自分が妊娠したらうれしいと思うんじゃないかなと想像します。でもパートナーとの関係がうまくいっていないジェナのように、妊娠を喜べないパターンだってきっとあるはず。“妊娠”=“幸せの絶頂”だと思われて、「おめでとう!」と祝福されるのに喜べず、自分を責めてしまう気持ちは理解したいと思いました。
──結婚や出産をすると、自動的に妻や母という別の名前がつけられることに違和感を覚える読者もいると思います。
高畑さん:その人自身は変わっていないのに、突然誰かの“妻”や“母”というベルトコンベアに乗せられていく感じなのかなと思います。周囲からの見られ方も期待もどんどんと変わっていくことに、気持ちが追いつかない人がいるのは仕方がない気がします。
自分の足で立って生きていく女性に憧れる

──昨年出演して話題となったドラマ『1122 いいふうふ』のように、高畑さんは近年、結婚や妊娠への幻想を打ち砕く女性の本音を描いた作品への出演が相次いでいます。
高畑さん:もともとミュージカルがキャリアのスタートなので、現実逃避させてくれる夢のような世界観も好きなのですが、キラキラした乙女みたいな役は実はあまり演じたことがなくて(笑)。
悩みを抱えながらも正直に、自分の足で立って生きていく役を演じたいと思うのは、私自身がそういう女性に憧れているからかもしれません。
女性って年齢を重ねるにつれて、キャリアにおいても生活においても、考えることもやることも多くなっていくじゃないですか。そういう同世代の女性の気持ちに寄り添える役を演じたい思いがどんどん強くなってきているし、今の自分だからやれる作品を届けたいと思っています。
──初演時に20代だった高畑さんも、4年を経てジェナと同世代の30代になりました。
高畑さん:前回はこの作品に出演できることに浮かれていたところもあったし、すごく楽しかったけど、今はあの頃よりも精神的に落ち着いてきたと思います。
私自身がジェナの年齢と近づいた今だからこそ、今回はもう少しどっしりとした、世間をあきらめているジェナにトライしたいし、そこから奮闘していく姿を表現したい。
ニューヨークとロンドンで3人の俳優さんが演じるジェナを観ましたが、なかには45歳でジェナを演じていた方もいたんです。演じる人の印象が変わると作品のメッセージ性も変わってくるので、前回とはまた違ったジェナをお見せできると思います。
ミュージカル『ウェイトレス』

4月9日(水)〜4月30日(水)
東京(日生劇場)、愛知、大阪、福岡にて上演。
出演:高畑充希、森崎ウィン、ソニン、LiLiCo、水田航生、おばたのお兄さん/西村ヒロチョ(Wキャスト)、田中要次、山西惇
脚本:ジェシー・ネルソン
音楽・歌詞:サラ・バレリス
原作映画製作:エイドリアン・シェリー
オリジナルブロードウェイ演出:ダイアン・パウルス
製作・主催:東宝/フジテレビジョン/キョードー東京
共同制作:バリー&フラン・ワイズラー
カーディガン¥88000、ブラウス¥86900、スカート¥121000、ベルト¥38500/すべてN21(IZA)、イヤリング¥32450/Soierie(ソワリー)、リング¥47300/MAYU(MAYU SHOWROOM)
撮影/SAKAI DE JUN ヘア&メイク/小澤麻衣(mod's hair) スタイリスト/菅沼愛 取材・文/松山梢