ハリウッドの制作陣による圧倒的なスケールの戦国ドラマ『SHOGUN 将軍』で宇佐見藤役を好演し、一躍注目の存在となった、俳優の穂志もえかさん。バンクーバーで過ごした撮影の日々で学んだことや、落ち込んだときの気持ちの立て直し方などを尋ねると、ひとつひとつ丁寧に言葉を紡いでくれました。3月8日の国際女性デーを記念したスペシャルインタビューとして、お届けします。
ドラマ『SHOGUN 将軍』の藤は、感情を押し殺さずに表現した

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──ドラマ『SHOGUN 将軍』の世界的ヒットを受けて穂志さんへの注目度はかなり高まり、第31回全米映画俳優組合賞(SAGアワード)ではアンサンブル賞を受賞されました。ご自身では変化を感じますか?
穂志さん 自分としては何も変わらないです。世間の目を気にすることがあまり好きではないし、ずっと大衆居酒屋にいるような感覚で生きているので(笑)。
海外の方がInstagramにたくさんコメントをしてくれたり、YouTubeに私の芝居へのリアクション動画を上げてくれたりするのを見ると、ありがたいことだと思うと同時に、とても不思議です。
自分のやっていることは変わらないのに、どんな作品に巡り合うかで、こんなに道が開けていくことがあるんだな、と。
──海外の方には、ご自身のどのような部分が支持されていると思いますか?
穂志さん 当初、海外の方は大きなリアクションや、キャラクターがはっきりとした演技がお好きなのかと思い込んでいたんです。
私は時代劇の経験がなかったですし、キャラクター性の強いお芝居も常日頃からやっていたわけではありませんでした。普段の現代劇と同じようにナチュラルな芝居を心がけて臨んだら、現場でプロデューサーや監督から褒めていただけて。
視聴者の方も、表情筋の細かな動きや声の震えなど、演技の細かい部分に目を向けてくださっていた印象があります。
──穂志さんが演じた宇佐見藤は、凛々しい面と繊細な部分を併せ持ち、現代に生きる私たちにも共感しやすい人物だと感じました。
穂志さん ありがとうございます。振り返ると藤は、怒ったり泣いたり笑ったり……あの時代にしては比較的感情を表に出していたなと。
事前に「この時代の女性は感情を絶対に表に出さなかった」と聞いていたけど、私の中では「全員がそうだったわけではないでしょう」という思いが拭えなかったんです。プロデューサーのジャスティン・マークスさんも「時代劇ということに捉われず、自由にやってほしい」と言ってくれたので、感情の動きを押し殺しすぎずに表現しました。

以前は、他者に自分の人生を任せすぎていた

──ドラマ『SHOGUN 将軍』と出合う前と今で、ご自身の中で変化がありましたか?
穂志さん 組織や他者に自分の人生を任せすぎていたな、と。「自分はこうなりたい」「これをやりたい」と、はっきりと伝えてこなかった。
やはり言わないと伝わらないし、言葉にして初めて、相手と同じ方向を目指せているかを確認できる。それも『SHOGUN 将軍』の撮影中に気づいたことですね。バンクーバーに8カ月滞在する中で、自己主張することが自然になりました。
──やはり現場の空気も、日本とはまったく異なりましたか?
穂志さん そうですね。日本の現場と違って、“察してもらえる瞬間”が少ないんです。
例えば、『SHOGUN 将軍』では正座をするシーンが多いので、下に小さな椅子を入れるのですが、自分で「椅子をください」とスタッフに伝えないと、自然に渡されることはない。
でも、椅子を使わないと、絶対に膝を痛めてしまうんです。自分の身を自分で守るためにも、自分のパフォーマンスに対して責任を持つという意味でも、小さいことからどんどん声を上げていく習慣が身につきました。
不安を溜め込んだときは、友人にすべて打ち明ける

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──この1年間を振り返ってみて、どんな手応えがありますか?
穂志さん yoiさんの前回のビューティ企画を含め、ビューティやファッションの企画は、以前からすごく興味があったんです。事務所を辞めたばかりの時期は自分で企画書から目を通し、お引き受けする返信までするというのは面白い経験でした。
挑戦してみると、そこから新たにお声がけをいただくこともありますし、いい出会いに恵まれて、少し世界が広がったような気がしています。
──一方で、孤独を感じたり、落ち込んだりする瞬間も?
穂志さん うーん。あまりないかもしれないです。
──勝手ながら、マイナスな感情に包まれたとしても、穂志さんはしなやかに受け止めて乗り越えていそうだなと感じます。
穂志さん 全然そんなことはないんですけどね。私はつらさやしんどさ、不安な気持ちを溜め込むクセがあって、これまでの人生の中では、それが爆発してしまうことも少なくなかったように思います。
最近は、友人に全て話すことで救われていますね。以前はあまり言えなかったけど、今は「こういう理由で落ち込んでいるんだ」「とても不安」など、素直に言い合える存在がいる。自分1人でマネージしているわけでは全然ないです。
──以前と違って心情を吐露できるようになったのは、ご友人との関係性が変わったからではなく、穂志さん自身の考え方が変化した?
穂志さん はい。以前はまわりを気遣いすぎたり、相手にどう思われるかを考えすぎていたんです。でも「もえかが楽になれることがうれしい」と言ってくれる人たちと出会えて、変わることができました。
『SHOGUN 将軍』の現場での経験は、本当に大きかったのだと思います。滞在中にバンクーバーで出会ったカナダの友人もそうですし、キャストもいい方ばかりで。撮影を終えて帰国してからも、さらに濃く深いコミュニケーションを取れていて、みんなと繋がっている感覚が続いています。
撮影/Saki Omi(io) スタイリスト/嶋﨑 由依 ヘア/夛田 恵子 メイクアップ/Kie Kiyohara (beauty direction) 構成・取材・文/岸野 恵加