ドラマ『SHOGUN 将軍』で話題を集める俳優の穂志もえかさんは、日頃からSNSやnoteなどで、自分の思いを率直に綴っています。インタビュー後編では、言葉で表現する際に心がけていることや、3月8日の国際女性デーに寄せて、憧れる女性像についても伺いました。  

穂志もえか

俳優・

穂志もえか

千葉県出身。2016年に『ミスiD2016』グランプリを獲得。 2018年に映画『少女邂逅』で初主演を務める。ゴールデングローブ賞で史上最多18冠、エミー賞4冠に輝いたドラマシリーズ『SHOGUN 将軍』で宇佐見藤役を好演して、世界的に注目を浴びる。同作で、アメリカの映画批評家賞であるクリティクス・チョイス・アワードにて助演女優賞を受賞した。そのほかの出演作に『愛がなんだ』『花束みたいな恋をした』『窓辺にて』『誰よりもつよく抱きしめて』など多数。  

わかりやすさより、柔らかい表現をあえて優先

穂志もえか、SHOGUN、国際女性デーインタビュー1

Tシャツ¥36300/エストネーション(ベター)0120-503-971 パンツ¥157300/サカス ピーアール(セファー)03-6447-2762 イヤカフ¥53900(シャルロット シェネ) 手に持ったジャケット¥270200(エイティーズ)/ともにエドストローム オフィス 03-6427-5901

──SNSやnoteを拝見していると、穂志さんは言葉で表現することをすごく大事にされている印象があります。

穂志さん 自分はまとめて話すことが苦手で、書き起こすことで気持ちを整理できるんです。本当は毎日のように、SNSをやめたほうがいいんじゃないかと思っているんですけどね。若干の承認欲求も合わさって、やめられないでいます(笑)。

──(笑)。言葉で表現するという行為によって、心がすっきりとするような感覚があるんでしょうか。

穂志さん そうですね。昔、知人に「もえかは頭の中で考えている物事の数が多いんだと思う。だからどんどん文字にしたほうがいい」と言われたことがあって。そうなのかも、と思いました。

──なるほど。言語化して発信する際は、どのようなことを意識していますか?

穂志さん どんな方が読むかわからないから、誰かを否定するような表現にならないように、なるべく気をつけています。以前、ふざけて送ったLINEの内容が、すごく怒っているかのように相手に伝わってしまったことがあったんです。

言葉の温度感って、自分が思っている以上に伝わらないんですよね。句読点の置き方にも気を配ったり、読み返して強い表現だと感じたら、わかりやすさよりも、あえて柔らかい表現を選んだり
。そういう工夫は自然としています。

──noteはご自身の名前を明記せず、エッセイのように感じたことを率直に綴っていますよね。どのような思いで始めたのでしょうか。

穂志さん どうだったかな……。最初は自分のブログとしてやるつもりはなくて、自分のSNSにリンクも貼らず、匿名で始めたんです。根底に「伝えたい」という思いがあるので、自分が書いていることを公表するようになりました。

俳優って、「考えていることを表明するな」「プライベートなことを公開するな」と思われがちだと思うんです。実際に私もそう言われたことがあって。

でも、Instagramのストーリーズなどで自分の思いを載せると、悩んでいるフォロワーさんから共鳴したような言葉が返ってくるんですよね。

SNSってキラキラしていたり、自分のよい部分や表の部分を載せるものだと思われているけど、真逆の内に向かうようなコミュニケーションも発生するんだ、と。そんな自分の思いをまとまった形で伝えたいと思い、noteに綴り始めた気がします。  

穂志もえか、SHOGUN、国際女性デーインタビュー2

セリフそのものより、役の心情を大切に

穂志もえか、SHOGUN、国際女性デーインタビュー3

ブローチ¥8800(メゾンドリリス)・パンツ¥112200(ベター)/ともにエストネーション 0120-503-971 ベルト¥24200/トゥモローランド(アトリエ アンボワーズ)0120-983-511 Tシャツ/スタイリスト私物

──ちなみに役者としてセリフを発する際は、どんな感覚でしょうか?

穂志さん 私はセリフそのものより、演じる役の心情のほうを大事にしています

私たちも普段、思っていることと口に出していることがまったく違ったりするじゃないですか。内心ではめちゃくちゃ腹を立てていながらも、口では「ありがとうございます」と言ったり。なので言葉にとらわれず、全身で役を表現している感覚ですね。

──なるほど。先ほど「承認欲求」というワードが出てきましたが、穂志さんはこれまでによく「自己肯定感」について語っていますよね。この言葉とは、どんなふうに向き合っていますか?

穂志さん どんな言葉でも同じだと思うんですが、広まり始めた頃はすごく純度が高かったのに、本当の意味を理解しないままに使い回されることで、敬遠したくなってしまう気がします

「自己肯定感」も「セルフラブ」も、最初は素敵な言葉だと思っていたけど、だんだん押しつけがましく感じる部分もあって。自己肯定感は無理に高められるものでも、その場しのぎのご機嫌取りで完結するものでもなく、人生単位でずっと培っていくものだと思うんです。一斉に「みんなでやろう」と取り組むのではなく、自分に合ったタイミングで向き合うものだと思いますね。  

本や映画で出合う、自分に必要な言葉

穂志もえか、SHOGUN、国際女性デーインタビュー4

──ちなみに穂志さんは、日々習慣にしているセルフケアはありますか?

穂志さん これといったものがなくて、見つけたほうがいいなと思っている最中です。でも映画や本は、自分の逃げ場所のひとつになっていると思います。不思議と、ふと手に取った本や、観た映画の中に、その時の自分に必要な言葉が詰まっていることが多くて。そういった経験に支えられています。

──最近、印象に残った作品は?

穂志さん くどうれいんさんの『わたしを空腹にしないほうがいい』(BOOKNERD刊)ですね。ごはんのエッセイだと思いきや、最後のほうに「わあ、やはりそうだったのか」と、自分の人生で起こった出来事の答え合わせのような内容が出てきて、驚きました。

あと、イラン映画の『風が吹くまま』('99)。これから撮影に入る作品の監督にレファレンスとして教えていただいたんですが、私にとって大事な言葉がいくつも入っていて、印象に残りました。

自分の好みで選ぶと偏ってしまうので、人にすすめていただいたものは積極的に観るようにしていますね。 

──3月8日は国際女性デーです。最後に、穂志さんが憧れる女性像があれば教えてください。

穂志さん 明確なイメージがあるわけではないのですが、昨年参加させていただいたシャネルのイベント(是枝裕和監督とシャネルが協力して開催したプログラム「CHANEL & CINEMA-TOKYO LIGHTS」)で、ティルダ・スウィントンさんが語られていた内容にすごく共感したんです。

日頃から大切にしていることを問われた彼女が「人と深くつながるコネクション」だと答えていたんですね。

最近の私は、上辺の会話ではなく、いかに本質的な会話をするかに重きを置くようになった感覚があるんです。そうすると、会話の対象に家族みたいな感覚を抱くんですよね。

友人はもちろん、『SHOGUN 将軍』のキャストとも、そういう関係性を築けた気がしていて。血の繋がりがない他人だし、最近出会ったばかりなのに、お互いを丸ごと受け入れ合い、深く繋がっている。

それによって、芝居をするうえでも絶対に深みが増しますし、よりひとつひとつの感情に説得力が出てくると思う。

俳優としても、人としても長年輝き続けてきたティルダさんが、自分が大事にしている感覚と同じことを話してくれたことは、私にとって大きな支えになりました。  

撮影/Saki Omi(io) スタイリスト/嶋﨑 由依 ヘア/夛田 恵子 メイクアップ/Kie Kiyohara (beauty direction) 構成・取材・文/岸野 恵加