マスクをコンプレックス隠しに使っていたら、本当の自分を見失ってしまう
長く続いた暑さからようやく解放されたと思ったら、秋を通り過ぎて一気に冬の寒さの日も…。日本から遠く離れたアメリカのコネチカット州の森に居を構えるメイクアップアーティストの吉川さん。「そちらはどうですか?」とたずねると、「こちらも朝晩はだいぶ冷え込んできましたよ」と、暖かそうなニットを着て画面の向こうから答えてくれました。
ひんやりとした空気の中、黄色や赤に色を移していく木々、踏むとカサカサと音を立てる落ち葉、凛とした森の匂い…。画面の向こうにそんなコネチカット州の森の風景を想像し、ちょっぴり幸せな気分に。一時的にでもコロナ禍が落ち着いている今だからそう思えるのかもしれません。
つがいの木に絡まる細い枝が、赤いベールのように紅葉してドレスアップしています
「それはあるでしょうね。アメリカでは多くの人がマスクなしの生活をするようになってきました。でも、日本では感染者数が減っても『とりあえずマスクは絶対』とばかりに、マスク着用が暗黙のルール化していますよね。もちろん、マスク着用が感染対策にはいいことなのは間違いありません。アレルギーなどの体質や病後で免疫力が下がっている方など、どうしてもマスクが欠かせない人もいます。でも、マスクをしない世の中=自分の顔を社会に見せて生きることが本来の形だということも忘れないでほしいんです」
最近では、マスクのカラーやアクセサリーでおしゃれを楽しむ人が出てくるなど、マスク生活は私たちの日常にすっかり溶け込んでいます。ただ同時に、ファンデーションがマスクにつくのがイヤだからとメイクすることをやめてしまったり、マスクによる肌荒れを隠すためにさらにマスクが手放せなくなったという声も。
「マスクを『メイクしない』ことの免罪符にしたり、息苦しいけれど、顔が隠れてラクだという人はいっぱいいると思うんです。確かに、マスクをしていれば『コンプレックスを隠せていい』というのはあるかもしれません。でも、自分をカバーするためにマスクをするのは“顔面引きこもり”状態。表情が見えにくいマスク着用だと、それが隔たりとなって、わかり合うことが難しくなってしまうと思うんです。会話をするときはもちろん、ひとと触れ合うのに顔の表情はすごく大切な要素だから」
美容=自分に触れること。触れることでわかる自分がいるはず
「ある意味、自分のコンプレックスを隠すためにするマスクはカバーメイクと同じ。あなたの真のキレイさを隠してしまうものだと思うんです。『マスクをしていないと恥ずかしい』『自分を出せない』からマスクをしているのであれば、それは今、自分の心にフタをしてしまっている状態かも。
もしもそうなってしまっているなら、もう一度、“美容”を意識してみてほしいんです。たかが美容と思うかもしれないけれど、美容は自分に触れる行為。スキンケアにしてもメイクにしても、自分を触ることでインスパイアされるものがあるし、自分を感じることはアイデンティティの確立に大きく影響を与えます。実はあなたが考えているよりも、“触れる”ことは大切なんですよ。
自分の魅力に気づいてほしいから大切な人にメイクしてみた
パートナーに限らず、好きな人、距離を縮めたい人がいたら“触れたい”と思うでしょ? 心が近くなったら相手に触れたくなるというのは、とても自然なこと。日本にはハグ文化はないけれど、触れ合いたいというのは人が本能的にもっている気持ちです。さすがに今はコロナ禍の影響でなかなか人と触れ合うことがかなわないけれど、自分にならいつでも触れることができますよね。
自分に触れる=ケアをするというのは、自分に対する気持ちをリマインドさせます。自分を元気づけてあげられる。『美容って何だろう』って問われたら、「自分を元気づける動作なんだよ」と僕は答えます。
人生は長いから、自分で自分のことを楽しくしていかないと。自分のことを好きになれなかったり、年齢を重ねることを嫌がったり、持っているものを肯定できないのは、自分自身に対して正しくないと思う。これ、すごく大切なことです。こういう時代だからこそ、他人が何と言おうと、あるがままの自分を認めて生きていけるといいな、と思います」
美容は何か特別なことじゃなく、毎日の洗顔や髪をとかすことだって美容。そう考えれば、意外と自分を元気にする方法って簡単なのかも。そんな気づきを与えてくれた吉川さん。自分に触れて、自分への意識を高める美容。さっそく今日からやってみませんか?
次回は、吉川さんが考える、自分を元気にするための美容についてもう少しうかがいます。
撮影/Mikako Koyama 取材・文/藤井優美(dis-moi) 企画・編集/木下理恵(MAQUIA)