悩みになりがちな“くすみ”を色と調和させれば、すべての人に似合うカラーになる

吉川さんがメイクアップアーティストとしてずっと提案し続けているのは、“素の自分を生かした顔”を意識したメイク。それを体現したメイクアップブランドが、2021年春にデビューした『UNMIX(アンミックス)』です。

UNMIXのリップ ラインナップの写真

UNMIX モイスチャーリップスティック(グロウ/ステイン) 各¥3,960

吉川さんが「美しいと思うもの、尊いと思うものをピュアな気持ちで表現した」というメイクプロダクトは、4月に発売した質感違いの赤のリップスティック2本を皮切りに、2022年2月まで順次、新色をリリース。さらに9月には、誰も考えなかった“見えないアイライナー”を誕生させました。今回は、“すべての人を美しく”という、吉川さんのメイクフィロソフィーがギュッと詰まったUNMIXについてのお話です。

「『●●系の色は自分には似合わない』『肌の色がこうだから合うのはこの色だけ』と、メイクってルールを決めがちだけれど、それぞれの人に絶対的な正解色があるわけではありません。赤とひと口に言っても、色にはさまざまな表情がありますからね。

『UNMIX』のリップスティックも、レッドやボルドー、フューシャピンク…と、一見すると難しさを感じる人もいるかもしれません。だけど、僕が大切にしたのは、唇の質感を100%引き出すこと。その人が透けて見えるような、限りなく本物の人間に近い質感。そんな透明感とほどよい発色が一緒になると、もっと自由に色が楽しめるということを知ってほしくって。

もうひとつこだわったのが、“血の赤み”。インスピレーションの源は、静脈の暗血色です。ピュアな赤は人が生きている証の色ですが、そこに静脈のような“かげり色”を加えることで、人の魅力を表現したかった。人間が持っている色って、実は彩度が高くない。肌や唇の“くすみ”は、とかく悩みになりがちですが、逆にその悩みを人のエッセンスとしてしまえば、くすみを利用しつつ目立たなくすることで、悩みではなくなるんです。

人って、必ずくすんでいきます。人間の顔は白い紙ではなく、くすみの塊。だから、実はくすみこそが美しい。くすみをはじめ、いろいろなものを否定していると、人間っぽさがなくなってしまうし、それによって苦しみも生まれてしまいます。でも僕は、それで苦しむのは間違っていると思う。人の肌の色はこうあるべきとか、鼻が高いほうがいい、目が大きいほうがいいと決めつけてきたのは、誰かの主観による狭い考えでしかありません。だから僕は、そんな思いにとらわれている人たちに、素の自分の魅力を出せるようなアイテムを届けたかったんです」

僕の作り出すものが、皆さんを少しでも心地よく、楽しい気持ちにできると信じています

「自分の顔を生かす」=「個性が隠れすぎない無難なナチュラルメイク」をイメージしがちですが、UNMIXのリップスティックは、レッド、ピンク、オレンジ、ボルドーとカラーバリエがとても豊か。ところが、唇にのせてみると、どの色も不思議と肌にマッチして、なんだか心地いい。“素の顔を生かして楽しむメイク”ってこういうものなのかと、UNMIXを唇にのせてみて気づかされます。

「自分の色を消して100%カバーするコスメは、どうしてもその人本来の個性と、色や質感との相性の問題が出てきます。僕は、人間らしさが消えるメイクは、その人に対して失礼だと考えてしまうんです。自分らしさが透けて見えるリップスティックは、何歳でも、どの色をつけても、自分とのバランスを取ってくれる。そういう意味で、UNMIXは特定のターゲットを決めていません。

メイクって、服を着るのと同じくらいベーシックなもの。結局、自分が落ち着く、違和感がない、と感じるものがおしゃれだと僕は思います。コンプレックスを消し去るのではなく、“こんなところが好き”というところを生かせばいい。でも、毎日同じ食事だと飽きてしまうように、その日のムードに合わせられる、違和感がないいろいろな色があったらいいですよね。それがUNMIXの色作りです。これから先、流行色も取り入れますが、どのアイテムにしても透け感にこだわり、みんなに似合うものを展開していきます」

そんな吉川さんのメイクフィロソフィーは、「アイラッシュライナー」にも存分に発揮されています。メイクしていることを感じさせない、“素顔の一部となるアイライン”という、これまでにない発想のものです。

UNMIXのアイラッシュライナー画像

UNMIX アイラッシュライナー ソフトブラック(上)・同 バーガンディー(下) 各¥1,650

 「ラインの存在感は感じさせず、それでいて目の輪郭は強調され、目ヂカラがアップして見える。そのために注目したのが“まつげの根元”。まつげの生え際のラインを埋められるようわずか1.5ミリという極細芯のペンシルを開発しました。もちろん、ツヤと薄膜仕上げにもこだわっています」

カラーは、日本人のまつげの色と同化して、やさしい表情をつくり出す「ソフトブラック」と、レッドに深いくすみを加えることで、まつげとなじみやすくした「バーガンディー」の2色。9月に発売するや、驚きの声とともに多くの人に受け入れられ、瞬く間に人気アイテムとなりました。

「色調とくすみの存在、透け感。この3つを押さえていれば、どんな色でも誰にでも似合います。だから、みんなにはメイクをもっと楽しんでほしい。これから先も、さらに“肌感”を強調できるプロダクトが展開できるといいな、と思っています」

吉川さんのフィロソフィーは、何かと思い込みや慣習に縛られ、固くちぢこまりがちな私たちの心に優しく、じんわりと広がっていくようです。

吉川康雄

メイクアップアーティスト

吉川康雄

1983年にメイクアップアーティストとして活動開始。 1995年に渡米。2008年から19年まで「CHICCA(キッカ)」のブランドクリエイターを務める。現在は、ニューヨークを拠点に、ファッション、広告、コレクション、セレブリティのポートレートなど、トップメイクアップアーティストとして活躍中。自身が運営するウェブメディア「unmixlove(アンミックスラブ)」で美容情報を発信する中、2021年春に「UNMIX」を立ち上げる。

撮影/Mikako Koyama 取材・文/藤井優美(dis-moi) 企画・編集/木下理恵(MAQUIA)