「心ここに在らず」になってない？　暮らしに目を向けて、日常を“愛でて”みよう【長田杏奈のゆるぱわめんとコスメ】

長田：大寒波に見舞われた今年の冬は、以前にも増して家で過ごす時間が長くなった気がします。「行動制限がなくなり人出が増えてきた」という話題をニュースで見ても、私はまだまだ巣ごもりの気持ち。でも、自分のマインドが内に向いていることをそんなに悪く思ってないというか、“今はこういう時期なんだ”と割りきって味わっている感覚があります。そんな毎日を送るなかで、「自分のいる空間を、もっと気持ちのよいものにしたい」と思うようになり、温かくて肌触りのいいもの、いい香りのものなど、“日常を愛でる”アイテムが気になり出しました。

特に、香りのアイテムを暮らしに取り入れることで、心のスイッチが切り替えやすくなった感覚があります。長い時間家で過ごしていると、どうしてもオン・オフの切り替えがあいまいになるし、気づけばつねに気が張って呼吸も浅くなっている。そんなときにいい香りをかぐと、自然と呼吸が深くなってリラックスできるんです。部屋の中で森林浴をするようにゆっくり呼吸することで、副交感神経が優位になり、ほどよく体から力が抜けていく。逆にやる気を起こしたいときは、ジョギング感覚の早くリズミカルな呼吸を10秒ほど繰り返すと、力がみなぎってきて行動的になれる感じがします。

長田：ここ数年、ルームディフューザーやルームミストなど、家の中で使う香りのアイテムを出すブランドが増えて、化粧品業界自体がライフスタイル寄りになりましたよね。そんななかでも、特におすすめのアイテムを紹介します。

長田：植物療法士の森田敦子さんがディレクションする『Waphyto（ワフィト）』の「リードディフューザー」には、森林や大地、茶畑をイメージした3つの香りがあって、家の中で自然を感じられるのが気持ちいい。「マンダリン＆シダーウッド」は、深い森を感じさせるウッディな香りのなかにフレッシュさがミックスされて、心をアップリフトしてくれます。以前は、リラックス＝ラベンダー、リフレッシュ＝ペパーミント、というように、ひとつの目的に特化したわかりやすい香りが多かった印象ですが、最近は“チルのなかにアゲがある！”みたいな、複合的な香りが増えているなと感じます。

長田：朝起きたときやリモートワークに疲れたときなど、シュッと空気にスプレーするとすごくいい気分転換になる。『athletia（アスレティア）』の「スイッチング アロマルームミスト N」は、ヒノキやヒバ、フランキンセンスなど深い森を思わせる香り。発売当初から人気のアイテムですが、よりサステナビリティに配慮したパッケージにリニューアルしました。商品に付いたQRコードを読み込むとオリジナルの音源が聴ける仕掛けもあって、耳でも楽しめます。「スムース ボディミルク N」はシダーウッドとゼラニウムの深く心地よい香り。サラッとなじみ、塗ったあとは肌をふっくらと柔らかにしてくれます。

長田：東京発のオーガニックコスメブランド『THE PUBLIC ORGANIC（ザ パブリック オーガニック）』から去年9月にデビューした『シー ザ パブリックオーガニック』はお花の力を使ったスキンケアラインです。今年3月にリリースされる「フラワーバタークレンジングバーム」は、肌にこびりついた疲労物質だけじゃなく、“心にこびりついた疲労物質もオフする”というコンセプトのユニークなアイテム。

ベルガモット、ネロリ、ライムの精油がブレンドされていて、香りに癒されながらクレンジングすると、ストレス指標のアミラーゼが減少して晴れやかな気持ちになれるそう。バームをスパチュラで取り、手の体温でじゅわ〜っと溶かしながら肌になじませれば、メイクもしっかりオフできます。

私にとってクレンジングの時間は、“外向きの自分”から“いつもの自分”に返っていく、「禊（みそぎ）」のような感覚。気持ちいい香りで、かつ抗ストレス作用が高い、機能性に裏打ちされたアイテムを使うことで、その日の疲れをしっかり落とし素の自分に戻ることができるんです。

長田：スイムウエアブランド『ALEXIA STAM（アリシアスタン）』のデザイナー、山中美智子さんがディレクターを務める『favs（ファブス）』のバスオイルです。そのまま浴槽に入れて使うのはもちろん、ボディオイルとしても使えて、マッサージしたあとそのまま湯船に入っても大丈夫。少し厚みがある滑らかなテクスチャーで、肌すべりがいいのも特徴。お風呂上がりにも洗い流す必要がなく、高い保湿効果を実感できます。カームダウン効果の高いラベンダーとポジティブな気持ちにさせてくれるオレンジ精油をブレンドした、ハーバルな香りもいいんです。

ディレクターの山中さん自身が敏感肌に悩んでいたことがあり、デリケートな肌の人も心地よく使えるよう、ベジタブルエキスやひまわりオイルなど、肌をいたわるオイルにこだわっているそう。そんなところも、安心感がありますよね。

長田：“温肌”がコンセプトのスキンケアブランド『ON & DO（オンアンドドゥー）』のマスクは、1日の終わりのリラックスタイムに、顔をほかほかに温めながら保湿できる個性的なアイテム。開封すると温かくなる「HOT MASK」を「MILKY FACE MASK」の上から重ねて使います。蒸しタオルを顔にあてているように気持ちよくて、肌を元気にしてくれる。ありそうでなかったアイテムです。

長田：「日々の暮らしを気持ちのよいものにしたい」と感じるようになってから、俳句に興味を持つようになりました。小さな季節の移り変わりや日常のちょっとせつなかったこと、誰もが感じる毎日の風景を、5・7・5のミニマルな言葉のなかに映し出す。「俳句ってすごいな」と改めて感じています。1992年生まれの俳人、斉藤志歩さんの句集を読んでいると、彼女のメガネを借りて世界を見ているような感覚になります。“これまでも確かに自分の視界には入っていたのに、ピントが合っていなかったもの”、その輪郭を丁寧になぞっていくイメージというのかな。俳句を読むことで日常の些事に目を向けて、何気ない風景や季節の移ろいを感じることが、自分のセラピーになっているんですよね。

長田：とはいえ、例えば仕事がら「刺激を追い求めて次を探す」というモードでいる必要があったり、目の前のことをついおろそかにしてしまうときもありますよね。そういうときは、「心ここに在らず」の情報戦から離れて、地に足をつけてみる。香りの力を借りて感覚を研ぎ澄ませたり緩めたり…。そういうちょっとした切り替えで、なんでもない日常がより愛しく新鮮になる気がします。

撮影／Shina Peng　スタイリスト／Yuna Kume　取材・文／浦本真梨子　企画・編集／種谷美波（yoi）