「かわいいメイクアップって何ですか?」
今をときめくメイクアップアーティストに問いかけて、そのアンサーをふたつのモデルルックにのせてお届けするビューティ連載。第4回目はパリを拠点に活躍する吉田佳奈子さんが、モデル・MARINAさんの大人としての新たな側面を垣間見せます。多様化する“かわいい”のかたちをヒントに、心に心地よくなじんで気持ちをふっと上げてくれる、自分だけの特別な“かわいい”を見つけて。
メイクアップアーティスト
アメリカの高校へ留学したことをきっかけに本格的にメイクアップの道を志し、大阪で学んだ後に渡英。フリーランスとしてロンドンやパリで経験を積み、さまざまなブランドのカラークリエイティブで名を馳せるルチア・ピカのファーストアシスタントも務める。2020年末にルチアのもとから独立し、現在はパリを拠点に活動。エッジィでモード感の強いテイストをリアルに落とし込む提案を得意とし、いつ見返しても色褪せないタイムレスなメイクアップを目指す。2023年にはヘアスタイリストのTAKAI氏とともにヘアサロン『undercurrent』を代官山にオープン。コスメブランドのアドバイザーも務めるなど、多方面で活躍している。
【吉田さんが考える“かわいい”メイクアップのヒント:1】 肌になじませたパステルブルーのチークで“さりげなくハズす”
タートルトップス¥29000・ピンクのビスチェ¥33000/トーガ原宿店(TOGA PULLA)03-6419-8136 ブルーのビスチェ¥19800/フーグイファー(FuguIhuA)fuguihua.org
「ねらったのはとがったことをこなれ感たっぷりにやってのける“ハズしがうまい人”的なかわいさ。
チークで遊ぶとなるとオレンジやイエローにいきがちなところをあえてのブルーに。でも決して真っ青にしてぶっ飛ばしたりはせず(笑)、ラベンダーやピンクをベースに仕込んで、あくまでもエフォートレスに。一見リアルなようで普通じゃない、絶妙なさじ加減を目指しました」(吉田さん・以下同)
【吉田さんが考える“かわいい”メイクアップのヒント:2】 奇抜なようで意外なほどつけこなしやすい、イエローグリーンをまぶたに
ドレス¥85800/カナコサカイ(KANAKO SAKAI)info@kanakosakai.com ネックレス/スタイリスト私物
「鮮やかな色で目元をパキッと彩るのって、すごくかわいいけれど勇気もいる。そんなときに頼れるのが、メイク心ついたときから愛してやまないイエローグリーンのシャドウ。黄みが含まれているから寒色系の中でも断然肌なじみがよく、それでいて突き抜けたしゃれ感をかなえてくれます。
今回はシャープなイメージに仕上げたかったのでシルバーと組み合わせましたが、よりナチュラルに見せたければブラウンと混ぜたりしてもOK。
まなざしと服の色をコーディネートしたことで、スタイルそのものまでブラッシュアップできます」
吉田さんの“かわいい”とは:ジャンルを超えたカルチャーを感じさせる人物像から、それぞれの“かわいい”を見つけてほしい
──吉田さんにとっての“かわいい”ってなんでしょうか?
意外に思われるかもしれないけれど、私が本来“かわいい”と思うのはすごくベタなもの。パステルカラーの組み合わせやピンクのレイヤード、キラキラ、ふわふわしているものやまぁるいフォルム……。中学生の頃は服のデザイナーにも憧れていて、手芸屋さんに通っては生地やリボンを買い込んでいたので、その影響が大きいかもしれません。
実は今日のメイクアップも、ブルーとピンクを掛け合わせたチークにイエローグリーンのアイシャドウなど、自分の大好きなパステルトーンづくしなんですよね。でも、そのベタにかわいい色たちをそのままベタには見せないのが私らしさというか(笑)。チークとしてつけたパステルブルーのように、リアルなものを少しだけ非現実的に取り入れることでその人の個性がぐっと立ってくる気がして。そういう一人一人のキャラクターの表現が、今の私が思う“かわいい”なのかもしれません。
──吉田さんのメイクアップはどちらかというとエッジィなイメージが強かったので、その原点が王道のかわいいものというのは意外でした! 一般的なイメージにとらわれず、自分の思うように取り入れていいということですね。
ベタにかわいいものと同じくらい、アクの強いものも好きなんですよね(笑)。それもあって「キレイめ」とか「モード」とか、ひとつのカテゴリーではくくれないフレキシブルなクリエーションができるようにつねに意識はしていて。コンサバな人にもゴスロリの人にもロックな人にも、“なんかかわいい”と思わせる要素があったらすごく強いじゃないですか。
──確かに、ジャンルの垣根を超えられたら最強ですよね。でも、実際にそんなメイクをするにはどうしたらいいのでしょうか?
直接的なメイクアップの話からは逸れますが、私の場合は学生の頃から色々な系統の人と遊んでいて、それが今にすごく生きているなと。自分はギャルっぽかったけれど、友達のコスプレ衣装を着せてもらったり、ファンキーな友達がアメ村にボディピアスを開けに行くと聞けば一緒についていったり……。自分一人で新たなカルチャーを深掘りするのは大変だから、すでに掘っている人に教えてもらっていました。あとさまざまな人と関わると意外な意見を言われたりして、そうすると今まで知らなかった自分の一面が見えてくる。それを繰り返して少しずつ自分の色がクリアになってきた感じがあります。
といっても、いきなり色々な人と遊ぶのはなかなかハードルが高いので(笑)、いつも行くカフェや通る道を変えてみるだけでもいいんじゃないかなと。それだけでも普段は会わないようなファッションの人を目にしたり、新しいお店を見つけたり、何かしらの気づきがあると思うんです。お決まりのルーティンをあえて崩すことで視野が広がり、それがひいてはメイクやファッション、自分自身の幅を広げることにもつながる。
私のメイクアップもそんなふうに誰かの新たな発見の後押しになればという想いから、雑誌などで提案させていただく際は若干誇張されたビジュアルになるよう心がけています。決してそのまま真似してほしいというわけではなく、レファレンスとして誰かの琴線に触れやすくなるように。そうして目にした人それぞれが、そこから自分なりの“かわいい”のヒントを見つけてくれたらうれしいですね。
撮影/ISAC(SIGNO) メイクアップ/吉田 佳奈子(undercurrent) ヘア/KOTARO スタイリスト/midori(W) モデル/MARINA ATARASHI 構成・取材・文/小川 由紀子