年齢を重ねると肌の状態はどのように変化するのでしょうか? 女性ホルモンが一気に減少することによりこれまで経験したことのない、さまざまな変化を感じます。肌トラブル回避のために、事前にどんなケアをしたらいいのか? 実際、変化した肌とどう向き合えばいいのか? ホルモンの変化を意識したスキンケアについて、皮膚科専門医の慶田朋子先生に伺いました。
銀座ケイスキンクリニック院長
医学博士。日本皮膚科学会認定皮膚科専門医、日本レーザー医学会認定レーザー専門医。ガルデルマ社認定ヒアルロン酸注入指導医。最新の医療機器と注入治療をオーダーメイドで組み合わせ、メスを使わないナチュラルな若返りを叶える美容皮膚科医として信頼が厚い。皮膚の働きや正しいスキンケア、生活習慣などの解説が人気で、テレビ、雑誌、ウェブなどで活躍中。著書『女医が教える、やってはいけない美容法33』(小学館)ほか多数。
閉経後の肌とは、エストロゲンの魔法が切れた肌
増田美加(以下、増田):40代以降、特に更年期世代(45〜55歳頃)は女性ホルモンの低下にともなって肌の変化を感じることが増えますが、どんなトラブルに注意すべきでしょうか?
慶田朋子先生(以下、慶田先生):更年期世代は、おもに女性ホルモンのエストロゲンの減少が肌に大きな影響を与えます。エストロゲンには、創傷治癒(そうしょうちゆ=細胞が傷ついたときに元に戻ろうとする力)を高め、酸化ストレスから守り、コラーゲン崩壊の悪影響を抑制するという素晴らしい作用があります。
これらのパワーがほとんどなくなってしまうのが、閉経(日本女性の閉経の平均は50.5歳)以降の肌です。閉経とは、女性ホルモンの魔法が切れることでもあるのです。
エストロゲンパワーが切れると、コラーゲン、ヒアルロン酸、ケラチノサイト(角化細胞)の減少・質の劣化、皮膚保水性、皮膚弾力性、皮脂量の低下、傷の治癒の遅延、酸化ストレスへの抵抗性の低下、表皮、真皮の萎縮などが起こります。すると、シミ、シワ、たるみ、ハリの低下、乾燥、傷の治りにくさなどの肌トラブルが徐々に始まります。
閉経して、女性ホルモンのエストロゲンとプロゲステロンがほぼゼロになることによって、肌の機能は上記のように低下し、さまざまな肌トラブルが起こる
閉経後、顕著に感じるのは乾燥!
増田:更年期の女性ホルモンの低下は、心と体にいろいろな症状をもたらしますが、肌にも多くの変化を起こすのですね。エストロゲンが低下することで、もっとも注意しなくてはならないことはなんでしょうか?
慶田先生:乾燥がいちばんです。エストロゲンは、傷を早く治す作用があります。ですから、エストロゲンがなくなることで、肌のターンオーバー(新陳代謝)が低下します。肌の回復力が低下するわけです。ケガをしたときの治るスピードだけでなく、肌のバリア成分ができるのも遅くなるため、バリア機能の低下につながります。そして、肌に生じてくるのが乾燥です。
乾燥肌の原因には、さまざまあります。閉経(エストロゲンの低下)、加齢、遺伝的体質(アトピー性皮膚炎など)、生活習慣(ストレス)、炎症(医原性、外因性)、合わないスキンケア、環境(空気の乾燥、紫外線)などが、肌のバリア機能や水分保持機能に影響を与えて、乾燥肌に導いてしまう原因です。
乾燥肌とは、肌のバリア機能、水分保持機能が低下した肌のこと。肌を乾燥させる原因には、閉経によるエストロゲンの低下のほかにも、さまざまあります
更年期世代は、化粧品を浮気せず保湿を
増田:女性ホルモンが低下する更年期の肌ケアのポイントは、乾燥対策がいちばん重要ということですね?
慶田先生:元々は、角層のバリアがしっかりしているノーマル肌の方でも、更年期にはバリアをつくる成分が衰えてきます。今まで感じなかった肌荒れや、化粧品かぶれなどのトラブルが起こってきます。今までのスキンケアを見直す時期が更年期なのだと思います。
自分でつくれなくなったバリア機能を補うためには、保湿をしっかりすることが大切です。これが更年期の肌ケアの大前提になります。
保湿の仕方としては、まずは今まで使っていた乳液、クリームなどの保湿化粧品の塗る量を多めにすることで対応しましょう。保湿の目安は、ツッパリ感がなく、手のひらが肌にピタッとくっつくくらいです。迷ったら、ティッシュペーパー1枚が肌に貼りつくくらいならOK。
更年期対応などの新しいエイジングケア成分の入った化粧品を試したくなりますが、新しい成分を試すにはリスクがあります。今使っている化粧品でトラブルがないのなら、無理に変えなくてもいいのです。
もし、新しい化粧品を使ってみたければ、肌の調子がいいときに、エイジングケアの機能成分が入ったものを試してみてはどうでしょう。
角栓や肌くすみにはピーリング、レチノールもOK
増田:クリームなどの保湿成分の量を多めにする以外に、やったほうがいいことはありますか?
慶田先生:ほかには、肌のターンオーバーが落ちてくるので、ターンオーバーを刺激するためのケアは、40代以降特に必要になってきます。
ターンオーバーのスピードが落ちると、肌がくすみ、角質成分が固まって小さな角栓となります。徐々に毛穴が開いて見えたり、黒ニキビのようなものが毛穴に詰まっているのが目立ってきたりします。40代くらいから起こる症状ですが、これは通常の洗顔料では溶けません。こういったときは、肌のターンオーバーをあげるために、月1回程度ケミカルピーリングを行うと肌の調子がよくなります。
「乾燥するのにピーリングをして大丈夫?」と思うかもしれませんが、ピーリングで角栓を溶かしてターンオーバーを整え、バリア成分が自分でつくれるようになることで、乾燥肌をフォローできます。
増田:肌のターンオーバーを上げるピーリングは、20代から取り入れるのはもちろん、更年期世代にもいいのですね。ほかに更年期世代が知っておくといい化粧品成分はありますか?
慶田先生:ビタミンAの一種のレチノールを使って、肌の代謝や抗酸化力を高めておくこともおすすめです。レチノールは、肌のターンオーバーやコラーゲン生成に役立ち、シワやシミ対策などの効果が期待できる成分です。ただし、アトピー性皮膚炎や敏感肌の方では、赤みや皮むけなどレチノイド反応が強く出るリスクがあるため、皮膚科医にご相談ください。
もしも使う場合は、かなり濃度を薄めてから、肌のトラブルのないところに数日間連用し、レチノイド反応の出方を確認してみましょう。肌の丈夫な方は、週2~3回を目安にレチノールを使ってみるのがいいと思います。
【スキンケア 3つの基本】
1・乾燥を軽視しないでしっかり対策を
かゆみ、カサつきを感じない人でも、乾燥は厳禁。乾燥の状態を放置しておくと、軽微な炎症が持続して、ちりめんジワにつながります。ちりめんジワは、表情を寄せるクセによりさらに深くなるので要注意。
2・特別な機能性化粧品より、基本の保湿をしっかりと
これまで使ってトラブルのなかった化粧品なら安全です。その量を増やすことで、リスクを減らして保湿ケアができます。スキンケアでプラスを得ようとするより、更年期世代はマイナスを作らないようにすることが大事。シンプルにやさしく洗って、いらないものをしっかり落とし、十分に保湿することが何よりの対策。
3・光対策をする
ダメージを受けやすい更年期以降は、紫外線はさらに肌の大敵になります。紫外線対策をしっかりすることで、外敵から肌を守りましょう。
この3つをしっかり行っている人は、シンプルなスキンケアでも肌は綺麗です。費用対効果と時間効率がいいスキンケアと言えるでしょう。乾燥と紫外線対策が更年期世代になっても美肌を保つためのポイント。
肌のためにもタンパク質を!
増田:食事などの内側からのケアはどうでしょうか?
慶田先生:食事は肌に影響します。さまざまなホルモンや、セラミドなどの細胞間脂質は食事で摂った油から作られます。原料がなければ、いい製品はつくれませんので、良い油を摂るようにしましょう。
油は、外食や加工食品から摂りやすいサラダ油やショートニングではなく、自分で調理をするときにはオメガ3系脂肪酸(えごま油、アマニ油など)を使いましょう。これらは熱で酸化するので、加熱しないサラダやカルパッチョなどに使います。炒め物など加熱するときには、オリーブオイルなどを使いましょう。オメガ3系脂肪酸は、サバやイワシなどの青魚にも豊富です。
また、肌のコラーゲンをつくるタンパク質も重要。大豆などの植物性の食材も重要ですが、それだけでなく、乳製品や魚、赤身の肉などの動物性の食材も大事です。油抜きはしすぎないほうが肌のためにもいいですね。
私たちの体の成分の約20%は、タンパク質です。タンパク質は、筋肉や消化管、内臓、血液中のヘモグロビン、髪や皮膚のコラーゲンなど、体の重要な組織をつくっています。このタンパク質を構成しているのがアミノ酸です。体に必要な必須アミノ酸を多く含み、タンパク質が撮れる食材は、卵、牛乳、肉、魚なのです。
腸内環境を整えることも大事。特に、海藻、野菜などの水溶性食物繊維は意識して摂りましょう。カラフルな野菜などの食材から、抗酸化作用のあるフィトケミカルをバランスよく食べることも大事。
女性は年齢と共に、代謝が落ちて太りやすいのでダイエットを意識しますが、糖質は控えても、食事は減らさないことをおすすめしたいです。特に更年期以降は、筋肉や骨が減りやすくなっていきます。ダイエットで痩せると骨粗しょう症のリスクも上がります。体重コントロールは食事制限ではなく運動を。ウォーキング、筋トレ、ヨガなどで、筋肉をつける方法を若いうちから意識していきたいですね。
イラスト/大内郁美 企画・構成・取材・文/増田美加