ヘアメイクアップアーティスト、そしてコスメブランド「rihka」のディレクターとしても絶大な人気を誇る松田未来さん。「美容を通して明日が楽しみになるようなお手伝いがしたい」と語る松田さんに、今の場所にたどり着くまでのストーリーや“自分らしさ”の見つけ方についてお話を伺いました。
『rihka』(リーカ)とは?
「すべての人に光と救いを」というコンセプトのもと、ヘアメイクアップアーティストの松田未来さんが2020年にローンチしたコスメティックブランド。ありそうでなかった柔らかなニュアンスカラーのネイルポリッシュがSNSで爆発的なヒットとなり、現在ではアイシャドウやリップスティックなど幅広いプロダクトを展開。心地いい素材と体が美しく見えるシルエットにこだわったアパレルラインも好評。
ヘアメイクアップアーティスト
兵庫県出身。サロンワークを経て、2016年より東京を拠点にヘアメイクアップアーティストとしてのキャリアを本格的にスタート。2020年にコスメブランド「rihka」を立ち上げ、同年に自身のエッセイ『私が私らしく生きる美学』(双葉社)を出版。アパレルブランドとのコラボレーションやラジオパーソナリティなど幅広いシーンで活躍している。
美容室で10年。仕事が充実していた30歳で東京へ
——松田さんが美容に興味を持ったきっかけを教えてください。
松田さん:10代の頃、美容室で初めてパーマをかけて「ちょっとだけ前よりも可愛くなれたかも?」と気分が上がったんです。当時、強いコンプレックスを抱えていたわけではなかったけれど、その代わり人に誇れるようなものがあるわけでもなくて。でも見た目が変わった瞬間から、不思議と外見だけでなく自分の考えにも自信が持てるようになりました。
自分の外見を少しでも「いいな」と思えるようになれば、もしかしたら私みたいに内面までポジティブに変化する人がたくさんいるのかもしれない。だとしたら、それを直接的にサポートできる美容の仕事をしてみたいと思うようになったんです。
早い段階から将来的にはヘアメイクアップアーティストになろうと決めていたのですが、その前に美容師としての経験も積んでおきたかったので、専門学校を卒業後、20歳から関西の美容室に10年ほど勤務しました。上京を決めたのは、美容師として毎日忙しく働き、仕事が充実していた30歳のときです。
正しいタイミングなんて誰にもわからない。後から正解にすればいいだけ
——仕事が軌道にのっている時期にそれを手放すことや30歳での上京は、かなり勇気が必要だったのでは。やはり不安や迷いはありましたか?
松田さん:次のステップに進むために、美容師の仕事をやめるのは調子がいいときにしようと決めていました。楽しい思い出のまま、きれいに終わりたいというか(笑)。
なんのコネクションもない東京に30歳で一人上京することに関しては、心配してくださる方もいましたが、不思議と不安は皆無でした。元来ののんびり屋の性格や世間知らずだったことが関係しているのかもしれませんが、未来は常に自分次第だと思っていたからでしょうか。
「こうしたい」と決めても、その正しいタイミングが今なのか3年前だったのか、はたまた5年後なのかなんて、その時には誰にもわからないですよね。だったら何年かたったあとに「あのときに決断した私ってナイスだった」と思えるような行動をして、あとから正解にすればいいだけ。そう考えればタイミングに早いも遅いもないし、正解を探りながらあれこれ悩むよりも、ずっと気持ちがラクになります。
——実際、東京で新しい生活を始めてみてどうでしたか?
松田さん:まったくのゼロからのスタートでしたが、贅沢せずに最低限の生活ができればいいと思っていたため、あまり焦りは感じなかったですね。慌ただしい美容師時代とは打って変わって時間にゆとりができたので「まずはヨガをしよう」とヨガスタジオを探し始めたぐらい(笑)。
“きれいな爪”が持つパワーに圧倒されて、ネイルポリッシュから自身のブランドをスタート
——そこからどんな流れで「rihka」のディレクターを務めることになったのでしょうか。
松田さん:SNSで発信をしたり同じ世界観を目指すチームでテストシュートをしたり、地道な活動を重ねて徐々にヘアメイクとしてのお仕事が増えてきた2017年に、WEBのインタビュー記事がきっかけで、とある媒体で美容の連載をもつことになりました。そこではメイクだけでなくディレクションや文章も丸ごと自分で手がけることに。ただ、自分が実際に体験して心に響いたことでないと書けないので、今まで行ったことのない場所に行き、会ったことのない人に会ってみようと思ったんです。
そんな経緯からある日、生まれて初めてネイルサロンに行きました。爪を整えてベースコートを塗ってもらったのですが、帰り道、なんだか誇らしい気持ちになったんです。きれいな爪になると体のどこを見られても大丈夫な気がして、爪って小さなパーツなのにすごいパワーを秘めているなと。
このときが、ちょうど連載を始めて3年ほどたった頃で、自分のブランドをいつか作りたいと漠然と考えていたんです。同じタイミングで連載が予想以上に反響があり、ブランド立ち上げのお話をいただくことになり、2020年に「rihka」をスタートしました。「rihka」のプロダクトをネイルポリッシュから始めたのは、このときのネイルサロンでの経験が理由でもあります。
「世の中の頑張るすべての人に、いつ、どんなときも、光と救いを...! 」というのが「rihka」のコンセプト。笑顔を見せながらも、誰もが裏では何かしら大変なことを抱えていて、それでも毎日を一生懸命に生きている。だからこそ私はすべての人に優しくありたい。そんな想いを込めています。
自分らしさを見失わないために日々のときめきを大切にする
——松田さんの著書のタイトルにも「私らしく生きる」というフレーズがありますが、さまざまな情報や価値観があふれている今、迷子にならずに「自分らしさ」を見つけていくためにはどうしたらいいのでしょうか。
松田さん:「rihka」のインスタライブなどでお客さんと実際にお話をする機会があるんですが「おすすめはどれですか?」と尋ねられることが多いんです。そんなときは「ぱっと見た印象で、あなたが惹かれるものはどれですか?」と聞くようにしています。
何かを見て気分が上がったりときめいたりする気持ちって、すごく貴重で大切なこと。「これ、いいな」と心惹かれたものがあるとすれば、きっとそれをまとって可愛くなった自分を一瞬、想像できているはず。日々、感じる小さなときめきを見逃さず、尊重し続けることで「自分らしさ」って、少しずつ培われていくのではないかと思います。
撮影/川原崎宣喜 取材・文/野崎久実子 企画・構成/福井小夜子(yoi)