時代とともに変化し、より多様化してきている“かわいい”の概念。プロのメイクアップアーティストがそれぞれの視点で考える“かわいい”を、表層的な部分はもちろん、マインドや考え方を含めて掘り下げる人気企画。連載7回目となる今回は、ファッションの第一線で活躍を続けるmod's hairの津田雅世さんが登場。“かわいい”をどのようにとらえ、どんなアプローチでビジュアル化しているかを深掘り!
【津田さんが考える“かわいい”メイクアップのヒント:1】 ボーイッシュな陰影メイクと、ロマンティックな装いで見せるギャップ
キャミソール¥24200・ボディスーツ¥16500/EUCHRONIA 03-6912-1451
「私が“この人かわいいな”と思う瞬間のひとつが、ギャップ。見た目の雰囲気、例えば今回で言うとボーイッシュな印象の人なのに、実はレーシーなキャミソールのようなフェミニンなものが好き! というパーソナリティを垣間見ることができたとき、そのギャップにかわいらしさを感じます。そういうときめきをビジュアルで表現したのがこのルックなんです。
ここでポイントになってくるのが、メイクで表現しているボーイッシュさをいかに本人になじませるか、ということ。そこで私は、目のキワに入れたアイラインやリップのエッジを指でスマッジしてあえて雑に仕上げる、“破壊のメイク”をします。この技名は本日お洋服をコーディネートしてくれた、スタイリストの佐藤里沙さんが命名してくれました(笑)」(津田さん・以下同)
【津田さんが考える“かわいい”メイクアップのヒント:2】60’sのムードを自分流に解釈した、“下まぶたコンシャス”なアイメイク
タートルネックニット¥9600/Bibiy. support@bibiy.store ピアス¥26,400/スワロフスキー・ジャパン(スワロフスキー・ジュエリー) 0120-10-8700
「ふたつ目は60’sムードをまとったルックです。主張しすぎないアイシーなメタリックシャドウを目元に広く入れ、アイラインとマスカラでインパクトを出しています。ここでも大事なのは、60年代当時のメイクアップの再現をそのままするのではなく、本人らしさと調和させること。
そこで再び出てくるのが“破壊のメイクアップ”という言葉です。今回はトゥーマッチにならないように、下まぶたにのみラインとマスカラをしているのですが、アイラインもきれいに入れず点置きしたり、さらにそれを綿棒でにじませたり、メイクを仕上げた直後の完璧さというより、少し時間が経過してその人自身になじんできた……くらいに見えるように、あえて“破壊”しています」
津田さんの“かわいい”メイクアップとは:自分の個性を理解し、“自分のため”にメイクアップできる人
──津田さんにとっての“かわいい”ってなんでしょうか?
「この人チャーミングだな、と思う瞬間はたくさんありますが、根本的には“スタイルがある人”がかわいいと感じます。自分の価値観をもっていて、自分をよくわかっていて、自分の好きな服を着て……。メイクアップも誰かのためじゃなく、自分のためにしている人。だから私がメイクアップをするときも、いかにその人自身になじませるかを大事にしています。私たちの現場でも、モデルが撮影終わりに軽くメイクオフして帰っていく姿がなんともかわいかったりするんですよ。それって本人の個性と化粧がちょうどいい具合にマッチしているからなんですね。そういうムードを狙って、“破壊のメイク”をしています(笑)」
──丁寧に仕上げるところと“破壊”するところ、どう見極めたらいいのでしょうか?
「どこを崩すかはメイクによりますが、まずは全体を仕上げてからバランスをみてなじませたりにじませたりすることが多いですね。今回でいうと最初のルックなら、シェーディングを使った陰影は緻密に重ねているので大事にし、パーツメイクのエッジだけをにじませて“破壊”しています」
──2つのめのルックは60’sを意識したメイクですが、津田さんにとって60年代はどんな時代ですか?
「メイクアップアーティストは多くの人がこの年代をすごく研究するんですよ。というのも、ダブルラインやつけまつ毛のようにプロとして一度は通るテクニックが豊富な時代で、テイストとしてもわかりやすいので。でもそれを紐解くと、ツイギーやイーディ・セジウィック、ジーン・シュリンプトンが生きた60年代って男性上位時代から女性たちがコルセットを脱ぎ、マイクロミニでもいいじゃない、ショートヘアもかわいいじゃん!っていう、今までになかった女性像が生まれた時代だったわけです。みんな好きにメイクアップをすればいいじゃない! っていう。それって私が考える、“かわいい”そのものなんですよね。だからこの時代のムードに無意識にひかれている、というのはあるかもしれないですね」
──その人自身への“なじみ”を考えたときにノイズとなるものはありますか?
「肌づくりにおける温度感ですかね。今回はモデルのNANAMIさん自身の素肌を生かしつつ、余分なテカりが出ないようにメイク下地でしっかり油分をコントロールしています。肌のツヤが多いと温度感が上がるし、逆にそれを抑えてマットにすると低温に見えるじゃないですか。今回は冷静に自分の個性を理解して、自分に似合うメイクを知っているという人に見せたかったので、その肌温度は決して高くないのかなって。ツヤの分量って意外とその人のキャラクターを左右すると思うので、女性像に合わせて調整しています」
──どうしたら自分になじんだメイクを見つけられますか?
「メイクアップは自分の個性を際立たせるものと考えて、自分の中の好きを追求していけば、スタイルは自ずと生まれます。崩れないメイクアップや、きれいに仕上げることに囚われすぎず、自由な発想で楽しむのが一番だと思います」
撮影/Tomoyo Tsutsumi〈ende〉 メイクアップ/Masayo Tsuda〈mod's hair〉 ヘア/KOTARO スタイリスト/Lisa Sato〈be natural〉 モデル/NANAMI 構成・取材・文/前野 さちこ