桜、桃、魔女っ子キャラクターなど、“ピンク”という色名を聞いて連想するキーワードはさまざま。春という季節を彷彿とさせる色でもあり、ファッションやメイクを思い浮かべる人もいると思います。まさに、ピンクは2025年春の新作コスメのトレンドカラーでもあります。
そもそも、ピンクという色はどのようにして生まれ、わたしたちが生きる世界に浸透していったのでしょうか? ストリートファッションを長年ウォッチし続け、色彩学にも造詣が深い共立女子短期大学生活科学科教授・渡辺 明日香先生にピンクにまつわる話を聞きました。
“キュートで愛らしい”という印象が強いと思っていたピンクがたどった歴史や女性に与えるエネルギーについて、歴史やカルチャーの側面から探ります。


共立女子短期大学 生活科学科 教授
共立女子大学大学院家政学研究科修士課程修了。首都大学東京( 現 東京都立大学)大学院人文科学研究科博士後期課程修了(社会学博士)。ストリートファッションの定点観測に基づく若者文化、色彩、生活デザインの研究を行っている。著書に「ストリートファッション論」(産業能率大学出版部) 、「東京ファッションクロニクル」(青幻舎)、「時代をまとうファッション」(NHK出版)などがある。
多様な意味を内包する、懐の深い色が“ピンク”
──今回は、この春の新作コスメのレンドカラーでもある“ピンク”の歴史や魅力についてお話を伺いたいと思います。
渡辺 明日香先生(以下、渡辺先生):まず初めにお伝えしたいのが、ピンクは赤や青のように色相環にある色ではないということ。私たちが色として知覚することのできる可視光線のスペクトル(赤・橙・黄・緑・青・藍・紫の光の帯)の中では、 単独の波長としてのピンク色は存在しません。スペクトルの両端にある、最も波長の長い赤(780nm)と、最も波長 が短い紫(380nm)の光を重ねるとマゼンタ(鮮やかな赤紫色=ピンク)が現れます。
可視光の両極端の波長の光を重ねることで、スペクトルには存在しないピンク色が知覚されるという性質から、色彩学的に“ピンク=この色”という明確な基準はないんです。
パワフルなビビッドピンクや可憐なペールピンクなど、色の前に形容詞がつくことで、さまざまな印象を与えるのがこの色の持つ魅力であり、あらゆる意味を含有する懐の広さがあるように感じます。
──ではどのような経緯からピンクという色が生まれたのでしょうか?
渡辺先生:ピンクの言葉の初出は、16世紀、17世紀ともされていますが、語源はナデシコ属の花に由来した言葉と言われています。この花のフチがギザギザになっていて、"pinking shears(ピンキングばさみ)"の"pinking"と同じくギザギザに切るという意味の動詞"to pink"に派生しました。後に、この花の特徴的な淡い赤色がピンクと呼ばれるようになり、世の中に浸透していったと言われています。
ピンクの歴史は、ヨーロッパと日本でそれぞれ違いがある

──では、ピンクが実際にファッションやメイクで取り入れられるようになったのはいつ頃なのでしょうか。
渡辺先生:西洋と東洋で、ピンクという色が生活に浸透したきっかけや時期は異なると言われています。まずはヨーロッパについて。
元は勝利や強さを表現する赤色が軍服などに用いられてきましたが、18世紀のフランスでは王侯貴族の男性服は女性服に劣らず華美で豪奢なものが求められたため、男性のコートにピンク色が使われはじめます。
また、18世紀のフランス・ベルサイユは、王妃、マリー・アントワネットやルイ15世の公妾ポンパドゥール侯爵夫人を中心とした宮廷文化が花開いた時代です。彼女たちのファッションやメイクでピンクが取り入れられ、豊かさ・栄光の色として人気を博していました。
当時は男女で色を区別することはなく、男性の貴族もピンクのフリルシャツを着たり、19世紀には5、6歳になるまでは男の子も女の子のような服装を着せる習慣がありました。印象派の画家ルノワール作「縫い物をするジャン・ルノワール」(1899年頃)では、長い髪の毛、ピンクのドレスを着た息子が描かれており、男児がピンク色の服を着たり、ワンピースを着用することは、さほど珍しいことではなかったのです。
アントワネットをはじめとする宮廷人が牽引するロココ文化は、髪型やメイクがより華やかです。男性は白いウィッグをつけきらびやかな服を着ていたのですが、そこで活躍したのがピンク色の頬紅(チーク)。
現代にも通ずる慣習ですが、18世紀当時も肌が白いことが大変好まれていて、男性もメイクアップをしていたんです。白さを追求するために鉛入りの白粉を使ったり、つけぼくろで肌のコントラストを演出したり。その一環として、肌の白さが際立つピンク色の化粧品が主流に。
現在の日本でも透明感のある肌や、より肌がクリアに見えるようにラベンダーや青みが強いピンクのコスメティックスが人気ですよね。時代を超えて、リンクしていると思います。
──ちなみに日本におけるピンクの歴史はいつから始まったと言われているのでしょうか。
渡辺先生:奈良時代末に成立したとされる『万葉集』に「桃染め(つきぞめ)」という桃色に染めた布の衣服が詠まれた和歌があり、古くから親しまれている色と考えられます。桃は魔除けの果物とされ、桃染めの服は都を守る衛士が身につけていたようです。
平安時代の公家女房の正装である十二単では、重ね着する際の着物の取り合わせを「襲(かさね)の色目」と言います。その「襲」の色は主に四季の移ろいを思わせる自然界の色の組み合わせからインスピレーションを得ているんですね。
例えば、まだ雪のちらつく寒い時期、どの花よりも早く、香り高く咲く梅を慕って、雪のような白と淡い紅梅色を合わせて、春を待ちわびる思いを表現した「雪の下」などがあります。
まさにピンクという色が印象的に取り入れられはじめたのが、この「襲」の文化。春が訪れ、濃淡さまざまなピンク色の花──桜や梅、桃の花がほころびはじめる様子を着物の色に落とし込んだんです。
スマートフォンやTVはもちろん、書籍も一部の人間しか楽しむことができない平安時代。外の景色を見て、季節の移ろいを色で表現するのはなんともロマンティック。当時は男性が女性の顔を直接見ることが難しい時代。この色選びのセンスで、恋が始まることもありました。
現代において、ピンクが世間に与えた影響とは?

──ヨーロッパでは18世紀の宮廷文化、日本では平安時代の貴族文化をきっかけに人々の生活に浸透していったピンク。現代に至るまでピンクという色がたどった歴史はどのようなものだったのでしょうか?
渡辺先生:20世紀の半ば以降、白黒映画からカラー映画が主流になる頃、欧米圏では映画に登場する装いをきっかけにピンク色が広まっていきました。映画『紳士は金髪がお好き』('53)ではマリリン・モンローがリボンを巻きつけたようなドレスをまとっていたのは特に印象的ですよね。
また、「Think Pink! 」という名言が作中に登場するオードリー・ヘップバーン主演の映画『パリの恋人』('57)ではピンクカラーが作品のテーマになっていました。
ファッショナブルで愛される色だった一方で、“いわゆる家庭的なご夫人”のイメージを与える色と思われる側面もありました。1960年代にアメリカから始まった女性解放運動「ウーマンリブ」を契機に、保守的な女性像を彷彿とさせるピンクを避けていた時代もあったんです。
対して日本では、「ピンク映画」や「ピンクチラシ」など少しエロティックな言葉として認識されていた時代がありました。それが変わったきっかけのひとつが、1975年にTV放送された『秘密戦隊ゴレンジャー』のモモレンジャー。
今でこそ“推し色”や“メンカラ(メンバーカラー)”のように、キャラクターやメンバーごとに担当色が付与される文化が浸透していますが、その原点は“レンジャー系の作品”だと思われます。
それ以降も1970年代に登場したアイドルのピンク・レディーや、1980年のアニメ『魔法少女ララベル』、ファッションブランド「PINKHOUSE」のワンピースなど、1980年代のパステルカラーブームの中、ピンク色は度々トレンドに浮上。松田聖子「ピンクのモーツァルト」(1984)は、化粧品のCMソングとして大ヒットしました。1990年には、キティちゃんもピンク色になるぐらい、世間ではポジティブなイメージが広まりました。
──“女の子はピンク、男の子はブルー”という認識を持つ時代が長くありましたが、現在は男女での色のとらえ方はどのようになっていると思われますか?
渡辺先生:街中や学生の装いを見ていると、かなり自由になっているなと感じますよね。女性がピンク以外の色を好むというのはもちろんのこと、特に注目したいのが若年層の男性。
最近はファッションに興味を持った男性がピンクヘアにする傾向が多くなり、定番だった茶や金髪などより“垢抜けて見える”と人気があるようですね。K-POPアーティストや男性アイドルが憧れの対象になった昨今の影響もあり、カラフルな髪色を真似したいという願望も増えているのだと思います。
彼ら、彼女らにとって、もはや色に固定されたジェンダーのイメージというのがあまりないのかもしれません。
かわいいだけじゃない、強さを内包したピンク
──色に備わるジェンダーイメージや、ピンク=かわいいという印象を持っている人もまだまだ多いですよね。可憐なイメージを与える一方で、戦隊レンジャー系の作品でのピンクの扱い方や、タフな女性像や高いファッション性とも深い関わりがあったのも興味深いです。
渡辺先生:戦隊レンジャー作品や魔法少女など、敵と戦う正義のヒーローがユニフォームで着ている色ということを考えると、ただ愛らしいだけでなく、確固たる強さも持ち合わせている色なんです。
もちろん華やかでキュートなイメージを与える色のひとつではありますが、それだけではなく多面的な魅力を持つ色だと思います。
20世紀後半以降の日本ではサブカルチャーの中でのピンクという色の扱いが変化し、さまざまな意味を内包するピンクが生活に浸透していきました。無意識のうちに、私たちに勇気を与えてくれていたんですよね。
【参考文献】
城一夫著『色の知識』青幻舎(2010年)
吉岡幸雄著『日本の色辞典』紫紅社(2000年)
堀越英美著『女の子は本当にピンクが好きなのか』Pヴァイン(2016年)
ティム・トラヴィス著『色彩のデザイン図鑑』東京書籍(2022年)
ポール・シンプソン著『色のコードを読む』フィルムアート社(2022年)
イラスト/Akari Kuramoto 構成・取材・文/岡島 みのり