雑誌などのエディトリアルから広告、チームで動くショーやセレブリティのメイクまで、数々の現場を経験しながらそれぞれの個性を磨き、活躍を続けるメイクアップアーティストたち。彼らが今感じている“かわいい”とはどんなイメージ? 今回はその人自身と心地よく調和するメイクに定評があるANNAさんが登場。意外な経歴に秘められた”かわいい”の原点を探りました。

ANNA

メイクアップアーティスト

ANNA

18歳から音楽を学ぶためにパリに留学。シュウ ウエムラ氏の回顧展へ足を運んだことががきっかけでメイクに目覚め、帰国して美容の専門学校へ。卒業後、再び渡仏してコレクションのメイクアップチームに入るなど、数々の現場を経験。2015年に本帰国し、fusako氏のアシスタントを経て、2018年にアーティストとして活動を本格的にスタート。ファッションやビューティの広告、カタログ等で活躍中。

【ANNAさんが考える“かわいい”メイクアップのヒント:1】内に秘めた情熱がふっと解ける瞬間

ANNA、メイクアップ1、モデルカット、ビューティ

タンクトップ¥44000・スカート¥44000/リステア / ルシェルブルー総合カスタマーサービス(アイレネ)

ANNA、ビューティ、メイクアップ2、モデルカット

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「どんな人に魅力を感じるか、どんな表情を見たときに“かわいい”と感じるかを考えたとき、浮かんだのは何かに集中して一心不乱に取り組んでいる姿。そういう人と不意に目があったとき、ふわっと見せる柔らかな表情にドキッとするんです。

それこそ私たちの撮影現場なんかでもスタッフの皆さんとそういう瞬間がときどきあるんですが、そういう内側から湧き出てくる高揚感や情熱が一瞬だけ解けるときに、すごく素敵だなと感じます。

今回のビジュアルではそういった場面をメイクで表現できたらと思い、表情全体に血色感が巡るようなルックを作ってみました。ただ高揚感といっても、あくまで静謐な空気感にしたくて。背景を黒にしたのも、そのため。

私は黒の背景を使った撮影が結構好きなんです。閉ざされた黒という空間でこそその人の内面が浮き彫りになってくる気がして。さらに使った色みも、ウォームトーンというよりかはパープルやグレージュなどの青みを秘めた色。

人のぬくもりを感じさせながら同時にズシンとした重みも伝える、そんなヴィジュアルに仕上げたいと思いました」(ANNAさん、以下同)

【ANNAさんが考える“かわいい”メイクアップのヒント:2】童心に帰って素直なときめきを表現する

ANNA、ビューティ、メイクアップ、モデルカット3

エンブロイダリーチュールミニドレス¥209000/アンナチョイ クライアントサービス(アンナ チョイ) 首に巻いたリボン/スタイリスト私物

ANNA、ビューティ、モデルカット4、メイクアップ

エンブロイダリーチュールミニドレス¥209000/アンナチョイ クライアントサービス(アンナ チョイ) 首に巻いたリボン/スタイリスト私物

「もうひとつのルックでは“かわいい”ものを見たとき、触れたときに感じるときめきをそのままメイクに投影したいと思いました。大人になるといろんなことが複雑になって、素直に感じたときめきを抑えてしまったり、バランス取ってあきらめてしまったりするじゃないですか。

でも直感で受け取ったときめきを優先するって本当は大事なことのような気がして。そういう童心に帰ったような“かわいい”の原点を、どこか懐かしさも含めて表現できたらと思ったんです。

それこそ目元で使用したのはプラダのアイペンシルだったんですけど、この色がときめくかわいさで。これを使ってインパクトのあるまなざしを作りたいと直感で思いました。

1ルック目と同様、今の私の気分が“温度感低め”な感じなんですよね。だから特にこのシャーベットのようなパステルカラーにひかれたのかもしれません」

ANNAさんの“かわいい”メイクとは:存在していないものを視覚化する作業

——ANNAさんはいつもどんな思考でメイクを構築されているのですか?

「私は小さい頃から音楽をやっていて、18歳の頃にはクラリネットでパリに留学していたんです。当時は当たり前にその道に進むと思っていたんですが、たまたまシュウ ウエムラさんの作品をたどった回顧展を見て。

その世界に衝撃を受けて、メイクアップアーティストになろうと決意しました。その後、帰国してすぐ美容学校に入り、再び渡仏してさまざまな現場でメイクを学びました」 
 
——驚きの方向転換ですね。そこで素早くメイクアップアーティストとしての夢に向かって行動を起こしたこともすごいです。

「今思えばそうですね。でもそういった音楽の蓄積があるせいか、メイクそのものも音楽で組み立てている感覚なんです。それがあまりに無意識すぎてつい最近まで自分でも気づいていなかったんですが。

別に私に絶対音感があるとか、明確な音で置き換えているというわけではないんですが、なんとかいうか顔の中の抑揚をリズムやテンポでとらえている感覚ですかね」 

——確かに! 撮影中もスタジオで流す音楽をANNAさんがコーディネートしていましたよね。

「今回の撮影に臨むにあたっても、プレイリストを作ってたんですよ。そのほうがモデルやフォトグラファー、スタイリストの皆さんもムードを感じ取りやすいし、ひとつの方向に向かいやすいかなと」 

——具体的にメイクを音でとらえるとはどんな感じなんですか?

「色や質感を速度で見ているというか……。なんとなくブライトカラーは早くて、黒はスロウな感じで。多分伝わらないと思いますが(笑)。例えば1ルック目はテンポが遅くてちょっと重いコンテンポラリーな感じというか。

2ルック目は循環している空気の中のようなアンビエントな音楽みたいな。そんなイメージでメイクを組み立てています」 

 ——これはANNAさんならではのアプローチですね。

 「確かにそうだと思います。音もそうなんですが、形になっていないものを視覚化するという作業がすごく楽しくて。これからは音だけじゃなく、香りなどでも与えるイメージをメイクで表現するってことができたら面白いかもしれませんね!」 

JUN

モデル

JUN

moment所属モデル。透明感ある肌と印象的なまなざしで、イノセントな雰囲気から意志の強いパワーウーマンまで、さまざまな人物像を自在に表現。

アンナチョイ クライアントサービス(アンナ チョイ) info@maisonannachoi.com
リステア / ルシェルブルー総合カスタマーサービス 03-3404-5370

撮影/大塚 三鈴(モデル)、田村 伊吹(製品) メイクアップ/ANNA ヘア/MIRAI UEJO スタイリスト/RIEKO SANUI モデル/JUN 構成・取材・文/前野 さちこ