ここ数年、健康や美容にいいとして注目されている断食(ファスティング)。さまざまな断食法のなかでも、普段の生活に取り入れやすく、無理なくできるとブームになったのが「16時間断食」です。その名のとおり、1日のうち16時間食べない時間を作る断食法で、準備やカロリー計算など、面倒なことは考えなくてOK! それでも体重が減り、不調が改善するなどのうれしい効果が期待できるのだとか…。そのカギとなるのが「オートファジー」という体の仕組み。「16時間断食」の提唱者である医学博士・青木厚先生に、そのメカニズムやメリットについて伺いました!

青木厚

医学博士

青木厚

あおき内科さいたま糖尿病クリニック院長。 自治医科大学附属さいたま医療センター内分泌代謝科などを経て、2015 年、「青木内科・リハビリテーション科」を開設。糖尿病、高血圧、高脂血症、生活習慣病が専門。著書にベストセラー『「空腹」こそ最強のクスリ』(アスコム)があるほか、2022年11月に発売した新刊『青木式 すごい「感冷」健康法』(新星出版社)も話題に。

そもそも「1日3食」は食べすぎ!?

おそらく多くの人が、無意識のうちに1日3食とることが習慣になっているのでは。しかし、運動不足傾向が強く、消費カロリーの少ない現代人にとって、1日3回食事をとることは、肥満や高血糖につながりやすいと青木先生は言います。

「『1日3食』が定着したのは人類の歴史の中では比較的最近のことで、実は、この食事法が健康にいいという裏づけはないんです。消費するエネルギー以上に食べれば、肥満や高血糖を招き、糖尿病や高脂血症など、さまざまな生活習慣病の原因にもつながります。実際、好きなものを好きなだけ食べられるようになったこの40年間に、日本の糖尿病患者は50倍にも増加しています。

人の体は、食事をしてから何時間もかけて食べたものを消化・分解・吸収します。ところが、朝、昼、晩と食事をとっていては、まだ胃や小腸に前に食べたものが残っているのに、次々に食べ物が運ばれ、消化活動を休む暇がありません。その結果、内臓が疲れて働きが低下。栄養をしっかり吸収できなくなる、腸内環境が悪化して老廃物が排出できなくなる、免疫が低下する、などさまざまな問題が生じてしまいます。『疲れがなかなかとれない』『集中力が続かない』『肌の調子がよくない』『風邪をひいてばかりいる』…そんな慢性的な不調を抱えている人は、実は日頃の食べすぎが関係しているかもしれません」

「16時間断食」で体にどんなことが起こる? 「オートファジー」のすごい効果を医師が解説!_1

「16時間断食」で、体にはどんなことが起こる?

こうした日頃の食べすぎによる不調の改善に有効なのが、「空腹の時間をつくること」だと青木先生。



「『空腹の時間をつくる=断食』をしましょうと言うと、つらい修行のようなことをイメージしてしまう人もいるかもしれません。ですが、1日のあいだに数時間だけものを食べない、間欠的な断食でも多くの効果を得ることができます。そして、これまでの私の研究から、空腹による効果を最大限に得られるのは、16時間の断食だということがわかりました」

●なぜ16時間? キーワードは「メタボリックスイッチ」!

「まず、人のエネルギー代謝について説明しましょう。私たちが体を動かすためのエネルギーをつくり出すには、3つのステップがあります。ステップ1は、食事の直後から4時間まで。食べたものから血液中へ取り込んだブドウ糖を利用し、エネルギーを生産します。ステップ2では、肝臓や筋肉に蓄えられたグリコーゲン(元はブドウ糖)を利用するようになります。しかし、食後10時間もたつと、それも使い果たしてしまいます。そこでステップ3では、脂肪(中性脂肪)や筋肉(タンパク質)をケトン体に変換してエネルギー源にします。

このように、ブドウ糖からケトン体へエネルギー代謝ががらっと変わることを『メタボリックスイッチ』といい、このスイッチが入ると私たちの体の中で『オートファジー』が機能し始めます。それが食後16時間たった頃なのです」

●体にそもそも備わった驚きの機能「オートファジー」とは?

「16時間断食」で体にどんなことが起こる? 「オートファジー」のすごい効果を医師が解説!_2

「この『オートファジー』こそが、16時間断食の最大のメリット。もともと私たちの体に備わっている機能で、古くなった細胞を内側から新しく生まれ変わらせる仕組みのことです。細胞内に入ってきた病原菌を分解・浄化する働きもあり、それが、空腹によって体が飢餓状態になることで活性化します

オートファジーの仕組みについて詳しく説明しましょう。私たちの体は約60兆個もの細胞でできていますが、それらは主に、食べたものから摂取したタンパク質でつくられています。ところが、長時間の空腹によって体が飢餓状態になると、体内にあるものを使ってなんとか生き残ろうと、細胞内の古くなったり壊れたりしたタンパク質などをかき集めて分解し、新しいタンパク質をつくりだすのです。さらに、細胞内のミトコンドリアという小器官も、オートファジーによって新しく生まれ変わります。これによって、細胞が刷新。体がリセットされるので、若々しく健康になれるというわけです」

16時間断食によるうれしい効果

16時間断食のイメージイラスト

オートファジーによって細胞が新しく生まれ変われば、体質が改善し、不調や病気も遠ざけることができると青木先生は言います。青木先生自身、12年前に舌がんを患ったことをきっかけに16時間断食を始め、16kgの減量に成功して以来、その体型をキープ。今や風邪すらひかないのだそう。

最後に、そんな「オートファジー」効果をはじめ、16時間断食で期待できるさまざまなメリットをご紹介。きっとあなたも今日から始めてみたくなるはずです!

●16時間断食によって期待できるおもな効果

・体重減少
・免疫力アップ
・慢性炎症の改善
・腸内環境の改善
・心血管疾患の改善
・オートファジーによる老化予防

「私が診てきた患者さんの多くは、16時間断食を始めて、だいたい2〜3週間で便通が改善されます。1、2カ月すると肌の調子や、ぜんそくやアトピーなどの症状もよくなったと感じる人が多いようです。それは、胃や腸などを休ませることで、消化管のバリア機能が高まり、腸内環境がよくなることが要因と考えられます。腸内に善玉菌が増えることで、便秘や下痢が改善するとともに、肌あれやアレルギー、慢性炎症が緩和。また免疫力のアップにもつながります。

体重や体型も変化が期待できます。先にも説明したとおり、空腹の時間が10時間以上続くことで『メタボリックスイッチ』が入ります。すると、内臓や血液内の余計な脂肪が分解され、血流や血糖値、血圧が改善し、内臓脂肪が減少。糖尿病や動脈硬化、心筋症などの生活習慣病のリスクを減らすこともできます。

さらに、オートファジーの活性化によって古い細胞や壊れた細胞が一掃されることで、がんや老化の予防にも効果が期待できるといわれています。私は、オートファジーは“究極のアンチエイジング”だと思っています」

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●簡単な筋トレを忘れずに

青木先生によれば、「ひとつだけこの食事法で注意したいポイント」があるとのこと。それは、簡単な筋トレを一緒に行なってほしいということ。

「『メタボリックスイッチ』によって脂肪やタンパク質をエネルギーに変えるとき、筋肉も燃やしてしまうことになります。筋肉量が減ると基礎代謝が落ちてしまうため、かえって太りやすい体質に。それを防ぐためには、階段の上り下りや、腹筋やスクワットなど、生活の中で無理なくできる筋トレを取り入れるようにしてください」

「16時間断食」は、年齢や性別に関係なく、万人に効果が期待できる食事法だと青木先生。まずは週に1回からでもOK。無理なく少しずつ、空腹の時間を増やしていくことが健康への第一歩です!

構成・文/秦レンナ Ptotos by  aninata, Mykyta Dolmatov, Viktoriia Ponomarenko, Elenapozdnyakova/ Getty Images Plus