コロナ禍で慣れてしまった、いわゆる“巣ごもり生活”での運動不足、ストレス過多、睡眠不足といった状態は、脳に悪影響を与える一方。このような生活が、将来の認知症リスクを高めるといわれています。【転ばぬ先の「リコード法」生活術】後編では、前回に続き、「ブレインケアクリニック」名誉院長の今野裕之先生に、脳をいい状態で保つために必要な運動量や、日常生活でおすすめの活動、脳をいたわるためにすべきことを伺ってご紹介します。

今野 裕之 先生

医療法人社団TLC医療会 ブレインケアクリニック名誉院長

今野 裕之 先生

一般社団法人日本ブレインケア・認知症予防研究所所長。順天堂大学大学院を卒業し、老化予防・認知症予防に関する研究で博士号を取得。日本大学附属板橋病院・薫風会山田病院などを経て2016年にブレインケアクリニックを開院。各種精神疾患や認知症の予防・治療に栄養療法やリコード法を取り入れ、患者一人一人に合わせた診療に当たる。認知症予防医療の普及・啓発活動のため2018年に日本ブレインケア・認知症予防研究所を設立、代表理事就任。2019年より現職。著書に『最新栄養医学でわかった! ボケない人の最強の食事術(青春出版社)』、その他監修など多数。

認知症予備軍にならないためには「定期的な運動」を

ジョギングする男女

今野先生によれば、脳の血流を改善したり、アルツハイマー病の原因物質の蓄積を減らすなど、運動は認知症のリスクを減らすことがわかっています。特に、ウォーキングやジョギングなどの有酸素運動は記憶力を高める効果があると多くの研究で明らかにされているのだとか。

運動量の目安は、少なくとも1回あたり30分程度、週2〜3回。これを継続して行うことが大切です。また、体を動かしながら頭も使うと、より認知症予防に効果的。例えば、ウォーキングをしながら100から3を引きつづける計算をする、家族やパートナーと一緒に複数人で、しりとりしながら歩くなど。ただ歩くだけより、楽しみながら運動できそうですよね。工夫しながら、効果的な運動習慣を身につけましょう!

趣味にもなる「知的活動」が脳トレにつながる

読書する男女

雑誌を読む、絵を描く、楽器を弾く、歌を歌う、パズルをする…。頭を使う知的活動は脳を刺激し、脳の老化予防に役立ちます。脳も筋肉と同じで、使わない部位は衰えていきますが、鍛えれば回復する可能性があるのです。ひとつの趣味だけでなく、新しいことにチャレンジして、脳のあちこちを刺激するといいそう。

また、人とのコミュニケーションも脳トレになる知的活動のひとつ。巣ごもり生活に慣れすぎて、外に出るのが億劫な人は要注意。日中の外出で日光を浴びると、認知症発症を抑制するビタミンDも体内で生成されるので一石二鳥です。

ストレスケア&睡眠で脳をいたわる

瞑想中の女性

生活するうえでゼロにはできないストレス。これをいかに管理するかも、認知症予防には大切です。ストレスホルモンが分泌されると、全身の血管が収縮して血流が悪くなり、神経細胞が活動するために必要な酸素や栄養素が行き届かない状態に。また、記憶を司る海馬という脳の部位が特にストレスに弱いため、ストレスが認知症のリスクを高めるともいわれています。自分の今に意識を向ける「マインドフルネス」や、自己暗示によって心身をリラックスさせる「自律訓練法」など、自分に合ったストレスケアの方法を見つけてみましょう。

また、短時間睡眠も認知症リスクを高める要因のひとつ。7〜8時間睡眠をとる人と比較した場合、それより睡眠時間が1時間短いと、脳内にできる隙間が1年ごとに0.59%拡大して脳が縮んでいき、認知機能は1年ごとに0.67%低下すると報告されています*1理想の睡眠は1日7時間。睡眠時間がこれより足りないときは、午後3時までに30分以上の昼寝をするといいそう。どうしても睡眠時間が短くなってしまうという人は、寝室の環境を整えるなどの工夫でできるだけ睡眠の質を上げ、脳をしっかり休めるように努めてみて。

*1 5. Xie L, Kang H, Xu Q, et al. Sleep Drives Metabolite Clearance from the Adult Brain. Science. 342(6156), 373–377 (2013). 

脳の疲労や老化は目に見えないけれど、生活習慣の乱れが影響を及ぼす“体の一部”であることには変わりはありません。人生100年時代といわれる今、顔のエイジングケアするように、若いうちから脳のことも考えておくべきなのかもしれません。認知症はまだまだ先の話と思っている人も、改めて生活習慣を見直して、脳も一緒に健康をキープしていきたいですね。

構成・文/政年美代子 資料提供/山田養蜂場 Illustrations by SurfUpVector, nadia_bormotova / iStock / Getty Images Plus Malte Mueller / fStop